「ソリティアおじさんがいた頃」

村司侑「ソリティアおじさんがいた頃」(『文學界』2026年5月号所収)を読みました。
第131回文學界新人賞受賞作。
「いやあ、良い小説を読ませてもらいました。」と言うのが率直な感想です。
この小説自体は「同じ会社に勤めていた人が死んで、通夜に行って、風邪を引く話」(90頁、金原ひとみ選考委員の選評より)なのですが、読み進めるうちに語り手の“声”が聞こえてきたのが僕には新鮮で吃驚しました。
もしかすると、語り手の発話と発声がカギカッコで閉じられていないから、そう感じたのでしょうか。
もっとも、その声が聞きたいだけで小説を読み進めたわけではありませんが。
声が若干低めで、やや引っ込み思案のそんなに背の高くない女性、なのかな…。
また、この小説には(ほぼ一瞬だけの場合もありますが)結構な数の人物が登場するのですが、どの人物も(小説の中で)出会うとハッとするぐらい人物設定がはっきりしていて、(性別問わず)可愛げがあって魅力的だなと感じました。
((平見部長や菅野課長や結子をはじめ)三山味噌󠄀株式会社に勤務している人達、割にいい人率高そうだな…。)
その中でも、登場する場面が多いからでしょうか、主人公(で語り手の古井瀬瑠奈)が通夜に行った後風邪を引いた後に自分の気持ちに気づいてフラレてしまう、将棋好きで優しい川上海史と、終盤の重要人物と言っても良い(かもしれない)元同僚の娘である黒野田琴美が(個人的には)強く印象に残りました。
あと、「ソリティアおじさん」の意味って、そうだったんだと後で分かり、タイトルだけで読むのを止めようと判断しなくて良かったなと思いました。
附記 読了後、各選考委員の選評を読んでいて、青山七恵選考委員の選評の中の「私はこの作品を読み終えたあと、先のことはさておき、『もう一度ゆっくりこの作品を読みたい』と心から思った」(89頁)と言う部分が非常に身に沁みました。
ああ、激しく同意…。