『消失』

パーシヴァル・エヴェレット『消失』(雨海弘美訳、集英社)を読みました。
自身の作品の中で実験的な手法を用いる小説家で大学教授である主人公のセロニアス・エリスン(通称モンク)が、ステレオタイプな形で黒人の過酷な状況を(自分が大嫌いな種類の小説のために)偽名で書いた小説をエージェントを通じて出版社へ送ったところ、かなり短期間で売れてしまう展開のこの小説は、まず自身が大嫌いな種類の小説が売れていく過程や主人公が絶対に素性を知られたくないと演技をしている様子、主人公の頭の中での政治家や芸術家、哲学者の対話の内容等が読んでいてとても面白かったです。
また、代々医師でかつては裕福だったのに傾きかけている実家、主人公が尊敬していた亡くなった父親、静かに認知症が進む母親、妊娠中絶を主張する過激派に殺害されてしまう姉、心が通い合わない兄…、そんな主人公の家族について書かれている部分は読んでいて胸が一杯になりました。特に後半の主人公の母親の認知症が進んだ事で自分らしさを失っていく様子の描写は読んでいて本当に悲しくなりました。
ああ、「秀逸な風刺小説」(393頁)か…
なお、この小説は2023年に公開された映画『アメリカン・フィクション』の原作との事です。