「恥の龍」
群像新人文学賞受賞後第一作。
この小説は、大学生の時第二外国語でロシア語を履修した英沙織、斎田和久、(留年生の)ミン・ソジュンの間に起こった出来事と、英と斎田が10年ぶりに出会った事で始まる(小説上の)現在の状況が描かれる事で進行するのですが、斎田から英に渡されたゴルフボールが(最終盤を除いて)小説の語り手で、斎田には(過去のある行為が原因で)敵対する立場であるのを隠さなかったり、英にも予想もつかない行動をして周囲に波風を立てる存在でもあるというのが、読んでいて(把握するまで時間は掛かったものの)僕には新鮮でした。
また、この小説には(騎手の養成学校に行った経験のあるタクシー運転手等の)背景が謎めいた人物が多く登場し、小説の魅力を増す重要な要素となっていると思うのですが、(個人的には)斎田と英の前から姿を消したミン・ソジュンからは姉だと聞かされており、彼との約束を守り、英が月に一度会いに行っていたミン・ユビンが存在感があり、印象に残りました。
20代で韓国から日本に渡り、不動産登記で成功した父親が残した建物で暮らし、「真みどり色のスカート」(59頁他)を穿き、建物の中庭で草を抜いてばかりいて、「ヘヴンズ・ゲート」(73頁)等の意味が多分にありそうなのにかえって謎が深まる言葉を発したり、建物が火事になっても自分は逃げようとしなかったり…。
もっとも、身近にこんな人物がいたらあまり近づきたくないに違いないでしょうが。
そして、謎が謎のまま小説が進み、若干消化不良と感じる部分もありはするものの、(中盤から終盤にかけて)英と斎田の関係に関する描写が主に展開していくのは素敵だなと思いました。
