「けれど思い出す」

今回はそのうち、ニシダ「けれど思い出す」(『新潮』2025年12月号所収)を読みました。
この小説には、アートディレクターとしてある程度の評価を得た主人公が、アートディレクターとして初めて挑むコンペで成功したいと精力を傾けた日々が描かれているのですが、読んでいて家でも仕事に没頭する主人公に冷たい態度を取られても怒らず、冷却シートの裏面に“お仕事ファイト!!”と書いてあげたり、主人公の母親からの電話で主人公が苛立ちを見せると主人公の母親と会った事がないのに電話を代わろうとする等、「家庭的」(88頁)で主人公に「献身的」(88頁)な美緒が可愛いなと思うと同時に、小説の終盤に登場する些細な理由で彼女に対してあんな行為をする主人公に腹が立ってしまい、(個人的には若干説教臭いと感じた)結末にも納得できました。
もっとも、かつては上司に誘われ焼き肉店で食事をした際、上司から家族の写真を見せられた時に、上司が「小さくみすぼらしい生き物」(106頁)に見えてしまうぐらいだった主人公が(小説上の)現在の状況に到達するためには、この小説に描かれた過程がないと駄目なのかもしれないですが。
しかし、主人公は何故あんな行動に出てしまったのでしょうか。
何かを得るためには何かを捨てなくてはならないかもしれないのですが…。