『誰もいないホテルで』 | F9の雑記帳

『誰もいないホテルで』


 ペーター・シュタム『誰もいないホテルで』(松永美穂訳、新潮社)を読みました。
 近所の図書館で先日見つけ、表紙の絵も気に入ったので、作者の事はまるで知らないにも関わらず借りてきて読んだのですが、この本に収められた10篇の短篇小説には全体的に不穏な空気が漂いつつも、いざ読み出すと引き込まれてしまい、読んでいる間は途中で一息入れる事が難しかったです。
 そんな小説たちの中で、ロシア文学を研究している主人公が閉鎖された湯治場に住んでいたアナと過ごした数日間を描く「誰もいないホテルで」、地域で孤立してしまった主人公の牧師ラインハルトに起きたある種の奇蹟を描く「主の食卓」が、主人公と(以前は工場だった建物の)守衛ビーファーとの交流を描く「氷の月」、農場で働く主人公のアルフォンスと彼の家に誘われたリュディアのある一日の出来事を描く「眠り聖人の祝日」、ピアノ教師である主人公サラが取る行動と彼女の姿が少し痛々しい「最後のロマン派」、ララとシモンの生活描写からフィクションについて考えさせられる「スウィート・ドリームス」が個人的には比較的強く印象に残りました。