『アントンが飛ばした鳩 ホロコーストをめぐる30の物語』 | F9の雑記帳

『アントンが飛ばした鳩 ホロコーストをめぐる30の物語』


 バーナード・ゴットフリード『アントンが飛ばした鳩 ホロコーストをめぐる30の物語』(柴田元幸・広岡杏子訳、白水社)を読みました。
 この本には著者の第二次世界大戦前・戦争中・戦後の日々について書かれた30篇の文章が収められているのですが、著者が長年雑誌のカメラマンとして働いていた時期があったからでしょうか、各々の文章に登場する著者が出会った人々(や物事)からの距離感が絶妙だなと感じると同時に、人間は状況によって様々な顔を見せるのだという事をしばしば考えたりしました。
 また、(著者が経験した)収容所生活は勿論の事、著者の小学校時代の友人やポーランド地下活動収容所で出会ったロシア人捕虜や更にはナチスに関係の深い女性…、著者が戦時下で出会った人々への態度や感情の描写を読んでいると、人間はどんな状況に置かれても希望は見つけられるし、見つけないといけないのだなと思いました。
 そして、この本に収められた30篇の文章に対して優劣は本当につけられませんが、個人的には離れ離れになっていた家族との再会について書かれた「再会」と父親が「ナチス党の大物だった」(264頁)ドイツ人女性について描いた「インゲ」が特に印象に残りました。
 しかし、自分の波乱万丈で一部悲惨な状況に置かれた体験を書き出すまで、40年ぐらい掛かっているのか…。