正直なところ、文字だけのチャットではいったい相手がどんな人物なのか分かるはずなどないと、勝手に高を括っていたところがあったと思う。

ところが澄恵と言葉を交わしはじめてすぐに不思議な親近感を感じた。 それがいったい何からくるのかいまだによく分からない。 会話のタイミング、言葉遣い、話題の広がりかたなど心当たりはいくつかあるが、それだけだろうか。 

ぼく自身もチャットを初めてまだ数か月くらいしか経っていなかったから、ようやく文字だけの会話に慣れてきた頃だったのかもしれない。

理由はともあれ澄恵との会話はとても自然な感じがしたし、多分同世代であろうと思えた。

しかし女性に、しかも初対面で、年齢などを聴くほど不躾ではないとの自負もあったので、お互いの年齢には触れずに会話が進んだ。

ところが澄恵からのメールには年齢どころか誕生日まで書いてあった。
ぼくより2歳上の38歳であることがわかり、すこし胸が踊った。

中学一年の時、かなり奥手だったぼくは密かに三年生の女子に恋心を抱いていた淡い思い出があるからだ。もちろんそんな想いは本人にはおろか友達にさえ打ち明けることもなく月日が過ぎていった。

ちょうどそのころ自慰をおぼえ、その最中に脳裏をよぎるのはいつもその女性だったというのも、甘酸っぱい思春期の記憶の深いところにしっかりと残っていたのかもしれない。

それ以降、高校、大学と人並みにいくつかの恋もしてきたが、相手はいつも同年代か年下ばかりだった。 澄恵の年齢を知って胸が踊ったのは、思春期の頃に抱いていた年上の女性への憧れの気持ちがまた頭を持ち上げてきたのかもしれなかった。