笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-
@日生劇場
[上演時間]2時間50分(休憩25分)
[原作]ヴィクトル・ユゴー
[劇作・脚本]ロバート・ヨハンソン
[音楽]フランク・ワイルドホーン [作詞]ジャック・マーフィー
[翻訳・演出]上田一豪
[出演]浦井健治 / 夢咲ねね / 朝夏まなと / 豊島青空
宮原浩暢 / 石川禅 / 山口祐一郎 / 他
<あらすじ>
1689年、イングランド。見世物として口を裂かれた少年グウィンプレンは、一人あてもなく雪のなかを彷徨うさなか、凍え死んだ女性が抱える赤ん坊のデアを見つけ、偶然辿り付いた興行師ウルシュス(山口祐一郎)の元へ身を寄せる。
青年となったグウィンプレン(浦井健治)はその奇怪な見た目で”笑う男”として話題を呼び、盲目のデア(夢咲ねね)と共に自らの生い立ちを演じる興行を続けつつ、二人はいつしか互いを信頼し愛し合う関係となる。
そこへ彼らの興行に興味を持った公爵のジョシアナ(朝夏まなと)とその婚約者デヴィット・ディリー・ムーア卿(宮原浩暢)が来訪する。醜くも魅惑的なグウィンプレンの姿に心を惹かれたジョシアナは、彼を自身の元へ呼びつけ誘惑する…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ようやく「笑う男」を観てきました。パンフレットは1,800円。
以下、ごく個人的な感想ですがやや辛め。ご注意を。
んー…なんというか、率直に言うと複雑な心境です(^_^;)
「どうだった?」と感想を訊かれ、「まあまあ」と答えたのですが…
悪くはない、うん、それは確か。でも何かモヤモヤするんだよなあ。
そもそも冒頭から字幕が入る舞台には、警戒心を抱きます。
字幕が多く、微妙な出来だった「モンテクリスト伯」を思い出す。
ミュージカルなんだから芝居か歌で表現しようよ(しかし「レディ・ベス」みたいな長い説明歌もそれはそれで微妙だ
)
字幕出てテンション上がるのは“1815ツーロン”だけさ。
さらに気になるのはセット。両サイドにある木で出来た鳥の巣的な建造物は一体何を象徴してるのだろう?
よく分からない。空間を狭めてるだけにしか見えないが。
つい最近、別の舞台で似たようなセットを観た気がするけど、でもそれは存在理由があったし。
衣装はとても良かったんですけどね。
特に女性陣のドレスが好き。あと浦井グウィンプレンの普段着も。
ただ貴族風衣装がイマイチ浦井くんに合わない、いや内容的に似合わない方がいいのか?
浦井くん、お顔はシュッとしてるのに、足がパッツンパッツン(通常営業)。
衣装が白だと腿の立派さが目立つ。
せっかくキラキラしてるので、もう少しスタイリッシュな方が嬉しかったなあ。
で、内容なんですけど。
サブタイトルの「The Eternal Love -永遠の愛-」、これがこの作品の全てだと思う。
もちろん個人的好みですが、ワタクシあまり…エイエンのアイとか言われても…
ってタイプでして。
それとこれは役者さんではなく、脚本とかの根本的な問題かと思うのですが、なんだか全体的に話が薄い気がする。
物語に一本筋を通すより、格好良く見えるシーンをつなぎ合わせたパッチワークのように見えてしまう。
盛り上がりがないわけではないけど、小波が次々押し寄せてくるわりに、大波来ない、みたいな。簡単に言うと、メリハリがない![]()
各々のキャラクターもそれぞれ良さがあるのに、あと一息って感じだし、歌もそうかな。
ソロでいい歌いくつかあるしメロディーもキャッチーでとっつきやすい。ゆえに誰が、何がメインなのか逆に分かりにくい。
観ながら、これ群像劇かな?って思ってたし、今もちょっと思ってる。
それから話の進みが早すぎる。
子供時代の回想は置いておいて、物語としてはほんの数日の出来事?
だとしても展開早いなー
周囲の環境の激変は仕方ないとしても、登場人物の内心の変化が早すぎて、感情移入するヒマがない。
グウィンプレンだけ取っても、自分はここを出て何かを為せると宣言したと思ったら、すぐにデアへの愛を誓ったり。
出生の秘密に葛藤したり、貴族社会を変えようと決意したり、それをあっさり諦めたり。ジョシアナも気になってるっぽかったのに、デアよ君こそ我が愛路線に一気に転換してみたり。
…展開めまぐるしくて、付いていけない(^_^;)
祐一郎さん演じるウルシュスは一貫した立場で、とても良い役だなとは思ったけど。
あ、でもキャラクターで一番好きなのは、朝夏さん演じるジョシアナ公爵です。
綺麗で強い女性が好きなのだ。グウィンプレンをタジタジさせる積極性も面白いし、ドレスの着こなしも美しかった![]()
個人的な好みと脚本への不満はともあれ。
役者さんは頑張ってましたよ、もちろん。
浦井グウィンプレンには「笑う男」としての卑屈さはさほど感じなかったけど、それはウルシェスと盲目のデアの存在ゆえだろうと。
ウルシュスに反発するシーンもありますが、ある意味父親への反抗期というか、甘え的なところもあるのかな、と。
信頼感のある祐一郎さんと二人のデュエットは聴いてて楽しい。
しかし浦井くんに剣を持たせてはならぬとあれほど…
まあ楽しそうにやってたし、正直なところ剣を振るう浦井くんは豪奢な衣装着てるより高貴な身分という感じするんですけどね。
子供時代のグウィンプレンは豊島くん。
舞台に慣れてないっぽい、子供らしい率直さが可愛かった。
少し不安定だけど一生懸命歌ってる感じが、必死に生きようとしてるグウィンプレンの姿に重なって◎
祐一郎ウルシェスが、子役ちゃんに合わせて優しく歌ってたのがほっこりした。
宮原さん演じるムーア卿は、演出の仕方によっては悲劇的な人物にもなり得るなあと。
まあこの作品では悪役であってもらわねばならないので、典型的な分かりやすい悪役でした(褒めてます)。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
観終えてからまたいろいろ考えてたのだけど、自分的に一番モヤッとするのは、やはり作品のテーマ(だと当初は考えてたもの)が蔑ろにされてるからかなあと思います。
貧困と差別に苦しむ庶民と、それを足蹴にする貴族社会との対比の物語かと思ってた。
(冒頭の字幕もそういう雰囲気だし、なにしろ原作がユゴーだし)
でもグウィンプレンは踏みつけられた惨めな人々には見えなかった(客観的には悲惨な境遇だけど)。
それにこの作品で一番はっきりした貴族ってジョシアナ公爵ですが、彼女はむしろ一人の女性として描かれていて、横柄で典型的な貴族像を表してるようにも見えず。
女王はやたら突飛なキャラでもはやコメディだし、貴族院はあっさりしたシーンだったし。
その辺りが弱いのかな、って。
…やっぱり群像劇だったのかな? 見方を間違えてたのかも。
まあどこまでユゴーの原作を引用してたのか、それも分からないんですけどね(^_^;)
「永遠の愛」というタイトルだったなら、あ、そうですよねで納得して終わったと思います。
(だがラストシーンにも少しモヤッとする。これはたぶん原作通り)
