silly talkですってよ。 -9ページ目

silly talkですってよ。

妄想の産物っす。

妄想っす。

もう一度言いますが、妄想の産物っす。

この料理に合うワインはなんですか?2






「俺…ね」
「はい」
松本くんが用意してくれた珈琲と、取り分けてくれたケーキ。
俺はレアチーズケーキで、松本くんはモンブラン。
それを目の前にして、カウンターに隣合って座った。
「二宮と同じ会社ってのは聞いた…よね?」
「あ…はい」
「あいつの…上司って言うか、ま…先輩って言うか…あの捻くれ者のね」
「捻くれ者…ですね…」
松本くんが少し笑って頷いた。
「仕事は嫌いじゃない…脳内回路フル回転させて、遮二無二に働く…それは、悪くない」

それは…。

どこか…。

快感と言う感情に似ている。

「俺ね、そこそこに仕事も出来たし? そこそこの見た目だし? まぁ…モテるよね?」
「え…そう言う事…自分で言います?」
松本くんが驚いたように見るから。
少し口角を引き上げて。
「俺は言うね」
笑えば。
松本くんは少し呆れたみたいに。
小さく息を吐いた。
「二宮が入社して、俺に付いて…最強の相棒を得たよ? アイツはあんな…だけど、仕事は出来た」
「あんな…ふふ」
「イチ言えば、十にも百にも広げる…あいつとはそんな関係だったよ」

後にも先にも。
俺は二宮程の頭の回転の良い奴に、出会った事はない。

そんな最強の相棒。

「カズも言ってました。尊敬出来る上司だって…」
「そんなに歳変わんねぇけど?」
「もっと上の人だと思ってました」
「アイツの事だから…腹出てるとか、ハゲてるとな言った?」
松本くんは少し目を細めて記憶を辿る様に…。
「言ったかも」
笑う。


この柔らかな笑顔が。

何故か…。

俺を饒舌にして。


あの日の記憶の蓋を…。

開ける。


痛みと…。
怒り…。


あの日の記憶は…。


今も俺を…。


あのドス黒い感情へと…。

引き戻す…。


「櫻井さん…」
引き戻された感情の中。

まるで暗い闇の中。

「櫻井さん…」

ソコに…。
一筋の光りが…。

差す…。

「無理して話してくれなくて…大丈夫です」
「…」
松本くんはカップを両手で包むように持つ。


優しく…。
花を扱う様に…。


優しく。


「聞きたい…としても…」
躊躇いがちな声。
「聞き出したい…わけじゃ…ないです…」
「…」
ふっと息を吐きながら…。
笑う表情。


俺の闇に…。

小さな一輪の…。

花が咲く。


そこから…。


光りが…。

拡がって…行く…。


そんな…感覚。


「ふぅ…」
息を吐くと。
隣の松本くんの肩が揺れる。
「そんなに怯えない…で?」
「…怯えては…ない…です」
松本くんが珈琲を飲んだ。

その姿を横目で確認しながら…。

「じゃ…迷惑でなければ…」
煙草に手を伸ばし。

「聞いて貰えますか?」

ゆっくり煙草に火を点け。
ゆっくり紫煙を吐き出す。

「俺で良ければ…」



光りは…。


松本くん…だろうか…。