silly talkですってよ。 -8ページ目

silly talkですってよ。

妄想の産物っす。

妄想っす。

もう一度言いますが、妄想の産物っす。

この料理に合うワインはなんですか?3







無敵だと思っていた俺と二宮に。

『よろしくお願いしますっ』

そう頭を下げたのは。
真っ直ぐな瞳と、活きのよさそうな大卒新人だった。


アイツは…。
真っ直ぐだった。


ただ真っ直ぐで。
正直で。
馬鹿がつくほどのお人好し。

俺の様な腹黒さも。
二宮のような捻くれ者加減も。
どれ一つ持っていなかった。

だからこそ。
俺と二宮は可愛がって。
一緒になって仕事に打ち込んだ。

それが…。

アイツを蝕んで行くなんて…。

気づきもせずに。


少し痩せた?

そう二宮が言った時。
あの時…。

どうして気づいてやれなかったのか…。

『大丈夫です、ちゃんと食ってます』
『大丈夫です、ちゃんと寝てます』

そう言って笑うアイツを。

何故疑わなかったのか…。


今も…。

後悔している。

悔やんでも悔やんでも…悔やみきれない。



卑怯な手を。
卑劣な手を使う奴は。

社会にはゴロゴロしていて。

アイツの様に真っ直ぐなだけでは…。

ダメだと…。

知っていたはずなのに…。


痩せ細ったアイツが。
手首を切ったのは…。
俺の下に付いて半年を過ぎた頃。

異変に気づいたアイツの妹が連絡をくれた。




「…生命…は…」
ずっと黙って聞いていた松本くんが。
震える声で問いかける。
「助かったよ…」
「そうですか…」
短くなった煙草を揉み消して。
珈琲を飲む。

拡がる苦味が沁みる。

「アイツの部屋で、アイツがされてた嫌がらせの数々を知った」



俺をよく思わない奴らに。
しかも同じ会社の奴らに。

されていた…嫌がらせ…。


純粋で真っ直ぐなアイツに浴びせられた…。
罵声の数々。
脅しの数々。

総て…。

ノートとレコーダーに。
きっちり残されていた。


それは…。

俺の教え。

『相手の証言は録音しとけ』

冗談で放った言葉だ。


卑怯な奴らの狙いは…俺。
首謀者は…。

俺にその座を奪われる…と、恐怖心を煽られた。
馬鹿な上司。



「ぶっ殺してやろうと思った」
「…」

くだらない恐怖心と保身の為に…。

人一人の生命を奪おうとした…。

馬鹿野郎を。

「殺してやるつもりでいたよ…あの日の俺は」



会社に乗り込んで。
ヘラヘラ笑っている馬鹿野郎を見た瞬間。

怒りが…。
総てをぶち破った。


鈍い感覚は。
今も…残る。


この拳に。


骨が折れる…。
音も…。

耳に…残る。


「二宮がしがみついて…停めてた…な…」


二宮が何かを叫んで居たのは…。
記憶の隅にある。

けれど。

その言葉を思い出すことは出来ない。


逆上していた。

視界に映る総てが。
意識の総てが…。

真っ赤に染まって居たのを…。


まだ…。

鮮明に覚えている。


「俺はあの日…」

グッと拳を握り締める。

「二人…の人間の生命を…」

その拳を開いて。
少し震える手を…。
煙草に伸ばす。

「その生命を…」


奪い…かけた。


「もう…見過ごせません」
伸びた手に触れたのは。

松本くんの…手で。

「吸いすぎですよ…もうダメです」

そう強く言い。
松本くんは。

「…」

優しく。
柔らかく。

…微笑んだ。