当たり前だけど日本酒は米から作られます。2
「…参った…マジで…」
松本くんの握る手とは逆の手を。
額に当てて。
顔を隠す。
「え、え? どうしました?」
松本くんの声が焦っていて。
ちょっと笑える。
「何か変なこと言いました?」
「…いや…」
変なことなんて言ってない。
寧ろ…。
俺は。
ガッツリ掴まれて…。
…骨抜き…だ。
こんな事になるなんて。
こんな事が起きるなんて…。
誰が想像出来る?
諦めた人生の先に。
こんな。
心をガッツリ掴まれる出逢いが…。
あるなんて…。
誰が想像できようか…っ。
長い溜め息にも似た息を吐いて。
「…潤…」
初めて名前を呼んで。
松本くんの手を握り返した。
過剰な程…。
松本くんの身体が揺れる。
それでも…。
その手を…。
離したく…ない。
「そう呼べる…関係に…なりませんか?」
らしくない。
マジで俺らしくない…。
そんな言葉。
こんな風に口説いた事なんてない。
顔隠して。
恥ずかしさを堪えて。
なんて。
無様過ぎて笑える。
しかも。
「…キスもして…手まで繋いで…? 今更なんだけど…ね」
ふっと…。
松本くんの緊張が緩むのが分かる。
「今更…ですね…」
そう少し笑いを含んだ声。
「その言葉を貰えなかったら…どんな酷い奴なんだろう…って、思いますよ?」
松本くんが言って。
その手を握り返された。
「櫻井さんが…そんな酷い奴じゃなくて…良かった…です」
「そ…ですか…」
なんて言うか…。
松本くんの返答は。
俺の想像を遥かに超えてて。
驚く程…。
沁みる。
その上。
ふんわりとした雰囲気とか。
なんとも…。
言えず…。
俺の気持ちを…。
暖かく包み込む。
「じゃぁ…俺は…」
「?」
顔を隠した指の隙間から。
覗いた…松本くんは。
「しょ…」
何故か少し頬を赤らめて。
「翔…くん…?」
は…?
「うん、翔くん…っいいかもっ」
なんだか嬉しそうで。
恥ずかしそうなのに…。
嬉しそうで…。
そんな風に呼ばれるのは。
ガキの頃以来だ…なんて事は言えず。
「翔くん…ふふ…」
「…」
ほんのり染めた頬で。
柔らかく笑って…。
なんでしょうね…。
この人は。
たった一言。
たった一つの行動で。
俺の暗く荒んだ気持ちも。
心も。
軽く。
明るく。
まるで花が咲いた様に…。
色を持たせる。
「やべぇな…」
「え?」
思わず漏れた言葉に。
松本くんがコチラを振り向くから。
「あ、いえ、独り言」
笑って応えるけど。
「…そう…ですか…」
納得はいかない様子で。
その姿すら…。
可愛いと思ってる俺は。
―どハマりしそうですよ…?―
なんて…思ったりして。
言わねぇけど。