silly talkですってよ。 -3ページ目

silly talkですってよ。

妄想の産物っす。

妄想っす。

もう一度言いますが、妄想の産物っす。

咲き誇れ牡丹の如く。1








櫻井さんから。
翔くんに…。
呼び名が変わった夜が明けて。

俺は眠らず市場に向かった。


気分が高揚していて。
不思議と眠気はない。

どちらかと言えば。

『あれ? 今日機嫌いい?』

なんて知り合いに言われる程で。


ま。
自覚はあるんだ。

ウキウキしてるし。
完全に浮き足立ってる。


苦手な朝に。
こんなにも気持ちが晴れるのは…。

櫻井さん…。
翔くんのおかげ。


花を仕入れて。
それを車に乗せて店に戻ると。

「おかえりー」
翔くんが迎えてくれた。
「起きてたんですか?」
「まぁ…」
「寝てて大丈夫ですよ?」
「徹夜させたのは俺なんで…手伝えれば…と、思ってね」
少し眠そうな顔で翔くんが笑ってる。
「ふふ…」

何を手伝ってくれるのだろう…。

花に無頓着な翔くんが。

「役に立たねぇと、思っただろ?」
「ふふっ…バレました?」
笑うと。
「あはっ、コノヤロー」
笑われて。

そんな感じが心地いい。

「あ…」
翔くんが店に掛けられた時計に視線を移してから。
「飯、食う?」
と言われて。

七時になろうとしてる時間を知った。

「あ…そうですね…」
「じゃ、付き合って?」
「…は、い…」

店を出て。
少し前を歩く翔くんに着いていく。
「いつもこんな早起き?」
不意に振り向いた翔くんが。
俺の隣に並ぶ。

俺に歩調を合わせてれる…。

そんな些細な事が…。

嬉しいと思う。

「朝は…市場に行くので、早起きです」
「…敬語…やめない?」
「あ…」
少し困り顔の翔くん。
そのまま少し唇を尖らせる。
「やめてくれると、嬉しいんだけど」
「は、うん…」
はい、をやめて、頷けば。
途端に嬉しそうに笑ってくれる。

それが…。
俺も嬉しい…っ。

「雅紀の店、知ってる?」
「あ…中華の?」
「そ…」

こんなに早くやってるの?

って、思うと。
何処からともなく…。
いい匂いがしてくる。

「雅紀は弁当屋なんだけど…雅紀のオヤジさんは中華料理の店やってて…」
「うん」
「雅紀んとこに…」

櫻井さんが言葉を止めて。
歩く足も…止めて。

前を向いた。

追いかける…視線の先に…。

「あ…」

ラーメン屋らしき看板。
その出入口の横に、小さな窓が開いている。

「あれ…?」
「…そ…」
小さな窓の所はケーキ屋のショーケースみたいになってて。
ラーメン屋と弁当屋が共存してる…。

ちょっと可笑しな作り。

いくつかお弁当が並んでいて。
上の方にはおにぎりもある。

「あ、櫻井さんっ」
小窓の中でいそいそと動いていた人影が。
コチラに気づいて。
窓から身を乗り出すように手を振っている。

「…お、ぅ…」
その人に向かって翔くんが手を上げる。

翔くんのその瞳に。
憂いを帯びたのは…。

きっと気の所為じゃない。


彼は…。


「いつもの貰える?」
「はいっ」
元気に返事をした彼は、小さな紙袋を差し出した。
櫻井さんがポケットから千円札を取り出して。
「もう一つある?」
「ありますよー」
彼は満面の笑みで。
もう一つ、紙袋を取り出した。
「雅紀は?」
「まだ寝てます、なんか遅くまで飲んでて…知らない人を連れて来ましたよ?」

知らない…人…?

「え…」

相葉さんが連れて帰ったのは…。
確か…カズの、はず。

「そ…じゃ、また明日な」
翔くんが紙袋を二つ受け取って。
背を向ける。
「はい、いつもありがとうございますっ」
深々と頭を下げた彼につられて。
俺も頭を下げた。