飲み過ぎは、ダメです。2
「二年…何してたんです?」
「別に、寝て、飯食って…? それなり?」
「…そう言う事を言ってるんじゃないんですけど?」
でしょうね。
「それ、二宮に報告の義務ある?」
ちょっと強めに見据えても。
「ありませんか?」
スルッと交わされる。
あの頃。
コイツとのこのやり取りを、心地良いと思っていた。
皆まで言わずとも、分かり合える。
異性同性に問わず。
そう言う奴に出会える確率は低い事を…。
俺は知っている。
だからこそ。
二宮の存在は。
俺に取って。
心地良く。
便利な物だった。
「突然辞めて、それっきり…会社の損害考えました?」
「そこは二宮がその話術でなんとかすんだろ?」
「なんで俺が?」
面倒くさそうに目を細めた。
変わんねぇな…。
飄々としてる割に。
人の懐に入るのが上手くて。
相手をよく見てて。
間合いの取り方も抜群。
駆け引きも心得てる。
「あんな無能な上司を押し付けられて…」
「え? 押し付けられたの?」
「蹴落としてやりましたよ…全員」
「さすが」
やりそうだよな。
「ちなみに…一番の根源は…倉庫番にしてやりましたよ?」
「…」
「あとは…営業から追い出しました」
冷たい視線。
「無能な上司も、無能な同僚も…俺には必要ないんで」
「怖いねぇ…」
「当たり前でしょ?」
二宮がじっとこちらを見る。
「俺が唯一尊敬してるのは、後にも先にも…一人ですから…」
「…」
じっと…見つめられる視線が…。
痛い。
「そりゃ、どぅも…」
「アナタだと言ってませんが…」
「…」
胸糞悪ぃ。
完全に二宮のペースじゃねぇか。
「おまえねぇ…」
煙草を手に取って、少し雑に火を点けた。
「変わんねぇな…」
「…そうですか?」
煙草の下に置いてあった…ケースを手に取る。
「ほれ」
そこから抜き取った一枚の…名刺。
「やる」
「…ぇ…」
「今の俺の肩書き…」
受け取った名刺を見つめてから、二宮が顔を上げた。
「どうぞご贔屓に」
「経営コンサルタント?」
そ。
それが今の俺の肩書き。
「サラリーマンだった頃? 取引あった会社の社長がさ…会社がヤバいって…泣きついてきたんだよ」
会社を辞めたすぐの話だ。
「それを建て直してやって? そしたら噂が広がって…? 今じゃ引く手数多の俺よ?」
そのまま…。
流される様に。
それが肩書きになった…だけ。
「はぁ…」
二宮が分かりやすく溜息を吐く。
「こんなんじゃ…見つかるわけないじゃんっ」
「は?」
「おんなじ営業畑に居ると思って、取り先全部当たったよっ…」
「…」
うわ…っ。
珍しい…。
取り乱してやがる。
「こんなっ、こんなっ畑違いの所にいたら、見つかるわけないじゃんっ」
そう言い放つ二宮が。
『なんで櫻井さんが辞めなきゃなんないんだよっ』
そう言った。
あの頃の二宮と重なる。
「探したのか?」
「…っ」
ちょっと悔しそうに唇を噛み締めて。
「ちょっと…飲み物くらい、振舞って貰えません?」
睨む二宮の、手が空っぽだって事に。
「あはっ…」
今更気づいて。
「悪ぃ悪ぃ…」
そう笑った。