silly talkですってよ。 -12ページ目

silly talkですってよ。

妄想の産物っす。

妄想っす。

もう一度言いますが、妄想の産物っす。

ポインセチアの赤は葉っぱです。1








『俺を差し置いて?』

そう言った櫻井さんは。
強烈に綺麗で強気な笑顔を見せた。


それから。
「松本くん、帰りは?」
静かに聞いて来るから。
意味がわからず首を傾げる。
「電車? 車?」
「あ…」

帰りの乗り物の事…なんだ。

「…じ、自転車…です」
「へぇ…」
意外そうに笑って。
「でも飲酒だから…」
フワッと櫻井さんの香りが香ったかと思うと。
耳元…で。
「送るよ?」
低い声が囁く。
「…っ」

驚く程近い距離で…。

櫻井さんはフッと笑ってから。

俺に背中を向けた。

「おーい、終電無くなる前に撤収しろー」
そう、店内に向かって叫ぶ。

えーとか、まだ飲むーとか。
そんな声がしたけど。
「はいはい、潰れる前に帰れ」
櫻井さんはあっさりとあしらう。

なんだかんだ文句を言いながらも。
それでも櫻井さんのオープンを祝いに来たお客さんは…。
櫻井さんと握手したり、ハイタッチしたり…。
どさくさに紛れてハグしたり…。

「…」

しながら…。
少しづつ店を後にして行く。

「あの…」
「ん…?」
「俺は…」

どうしたら。

少し見送りの波が途切れた所で声をかけると…。
振り向いた櫻井さんが。
「それ、俺はどうすればいいかわかんねぇからさ?」

それ…。

あ…。
この、花の…山ね。

カウンターに置かれた花束の山。

「お願いしてい?」
お願いされてるはずなのに。
その言葉は何処か…。

強さを持っていて。

「…はい…」

頷く。

櫻井さんは優しく微笑んでから。
また…。
見送りに戻る。


帰りたくなーいっ…って、甘い女の人の声を。
『俺は帰したーい』って上手に交わして。
笑ってる。
そんな櫻井さんの声を聞きながら。

『送るよ?』

そう言ったのは。
俺だけ…と、思えば。

なんだか浮き足立って…。

その浮き足立った感情が…。
なんだかソワソワして。
それを隠すために花の山に手を伸ばした。


花じゃない物と分て…。

え、これケーキじゃんっ。
要冷蔵って書いてある。

それは冷蔵庫に…。

カウンターに回り込んで。
勝手に冷蔵庫を開けて、ケーキを押し込んで。
それから…。

こっちは…。

お菓子?
要冷蔵ってないから、大丈夫だね。

花よりこっちの方が問題だよ。

なんて、いそいそ動いていると。

「しょーちゃーんっ」
相葉さんの声がして。
顔を上げた。
「おーぅ」
いつの間に見送りを終えたのか。
櫻井さんは凝った肩を解すように回しながら。
「どした?」
相葉さんの声の方を振り向いた。
だから、俺も。

「え、カズっ」

視線の先で。
カズが…。
カズが…。

「潰しちゃったーあははっ」
そう言って笑う相葉さんに凭れて。
カズが…。
「寝ちゃった…んですか?」
「うんっ」
相葉さんは相変わらずニコニコで。
カズは…。

ぐっすり眠ってる。

「あ…じゃぁ…俺…」
「責任とれよ?」
連れて帰ろうと言おうとした言葉を奪われて。
カズに駆け寄ろうとした動きも。
櫻井さんに封じられた。
「潰したのは雅紀な?」
「え、でも」
「そいつ、そんなに酒強くねぇの」
「うん、そんな気はしてたっ」
そう言う相葉さんはまだ飲んでて。
カズが崩れないように抱きかかえてる。
「分かってんなら潰すんじゃねぇよ」
「だってぇ、明らかに絡み酒だったよー」
「絡まれとけ」
「だからさーついつい…」
「ついついじゃねぇよ」
櫻井さんは呆れたみたいに溜め息を吐くと。
「俺はまだやる事あるし、二宮は雅紀に任せる」
「勿論っ、そのつもり」
相葉さんは俺を手招きした。
「え…」
「ちょっと子犬ちゃん、支えてくれる?」
「あ、はい」
慌てて櫻井さんの横をすり抜けて。
相葉さんに凭れたカズを支えた。

「うーん…のめ…る…」

うわ言みたいにカズが言う。
「はいはいもうおしまいねー」
それに答えたのは相葉さんで。
飲んでたビールを飲み干してから。
「はい、乗せてー」
俺に背中を向けた。

あ…おんぶっ。

向けられた背中にカズを乗せる。
相葉さんは軽々カズを背負うと。
「じゃ、任されます」
と、笑う…けど。

大丈夫なの…かなぁ…。

「あ、雅紀」
櫻井さんが冷蔵庫に回って。
「これ、持ってけ」
「えー持てないよー」
「持てんだろ」
さっき俺がしまったケーキの箱を取り出した。
「今日の礼」
「貰い物の横流しじゃんっ」
「いいだろ」
櫻井さんが差し出したケーキの箱を受け取って。
器用に広げた相葉さんの手に乗せた。
「じゃ、またね潤くん」
またニコニコと相葉さんは笑って。
「翔ちゃん、よろしくねっ」
と付け加えた。

よろしくっ!?

「雅紀、手ぇ出すなよ?」
「えー拷問っ」

えっ!?

相葉さんはニコニコをその顔から消して…。

「合意、なら…いぃんでしょ?」

と。
見た事のない表情で言う。

いつの間に煙草に火を点けたのか。
櫻井さんは煙を吐き出しながら。
「親の許可がねぇから…却下だ」
そう…低めの声が告げると。
「ちぇ…ざんねーん」
何時もの相葉さんに戻って。
「じゃーねー」
櫻井さんの店を出て行った。