震災後初めての夜を,眠れないまま過ごす。
余震もあるし,救急車のサイレンが一晩中鳴り響いている。
それでも朝はやってくる。
朝5時。自然に目が覚める。
ガバッと起きて,ツナギに着替える。
もてる行動力のすべてを動員し,
この難局を乗り越えなければならない。
工場で使っている廃油ストーブに火を入れる。
空気を強制循環させるファンは,車のブロアファンであり,12Vで動作する。
普段は交流100ボルトを,直流12ボルトに変換して使っているが,
停電なので当然交流100Vは使えない。
なので車のバッテリーから直接12Vを取り出し,ストーブを運転する。
余震が怖いので,工場内ではなく,工場の外での運転。
しかし燃料である廃油が少々心細い。
冬を乗り切る前に燃料である廃油が尽きてしまい、
同業者の工場に貰いに行っていたのである。
2、3日はなんとかなるだろうが・・・。
この頃から、避難所に避難していた人たちが徒歩で帰宅を始めたらしく、家の前をゾロゾロと歩いていく。
白い作業服に、白い静電靴、白い帽子姿の人。
服がびしょ濡れで、靴が泥だらけの人。
濡れないように、荷物に袋をかぶせて歩いていく人。
どこで買ったのか、ビールを飲みながら歩いている人。
昨夜はよく眠れなかったであろう。
皆一様に疲れた表情。
廃油ストーブの周りに、オイルの20?缶と板を使った簡易な椅子を設置する。
「トイレを貸して欲しい」
「ストーブに当たらせて欲しい」
こんなお願いには、快く応じる。
中にはお願いできない人もいるから、
疲れた表情の人にはこちらから「休んでいがい」と声を掛ける。
若い人は体力もあるし、気力もある。
だから明るく振舞っている。
しかし年配の方はやはり、精神的にキツイようである。
表情も暗く、うつむき加減。
口は開けど、声が出ない人も。
鍋で炊いたご飯が炊き上がる。
オニギリにして配る。
白菜の味噌汁に漬物。
食後には暖かいお茶。
少しだけ元気を取り戻した被災者が、震災体験を話し出す。
少しずつ情報が集まってくる。
仙台新港付近や多賀城は背丈を超える津波で壊滅状態。
水が引いた後はガレキや遺体が散乱し、辺り一面の泥。
中でも九死に一生を得た女性の話は、本当に衝撃的だった・・・
・・・続く。