「社会に出たら,OBには先輩も後輩もないんだ」
尊敬する大先輩の言葉である。
私が学生時代に所属していた合気道部は,バリバリの体育会であった。
先輩の言う事は絶対,返事は「押忍!」のみ。
キャンパス内で先輩を見かけたら大きな声で挨拶。
「飲め」と言われれば一気に飲み,
「脱げ」といわれたらためらわず脱ぐ。
ある意味,理不尽さに耐える場でもあった。
しかし,後輩が一方的に辛い思いをするばかりではなかった。
先輩は先輩で,辛い事もあるのである。
後輩から挨拶されれば飲み物の一つも買い与えるし,
それが食堂ならば何人いても食事代を出す。
飲み会は後輩の分も払う。
だからいつもピーピーで,バイトは欠かせなかった。
後輩がヘマをやらかせば,怒鳴られるのは先輩の役目。
コンパで後輩が潰されそうになったら,杯を奪い取って飲み干すのも先輩の役目。
先輩は後輩の辛さを知っているし,
後輩は先輩の辛さを知っている。
そこには互いに信頼関係があったのだと思う。
つい先日のこと。
「鈴木先輩の話,分かるんですけど,イマイチ素直に聞けないんですよ」
とある飲み会の,二次会の席。数コ下の後輩に真顔でこう言われ,「しまった・・・」と思ったがもう遅かった。
学生時代は後輩だったかもしれないが,今はお互い社会人。
合気道の世界では後輩だけれども,それ以外の世界ではそれなりに経験を積んできた一人の男である。
その経験を尊重する事を忘れ,先輩風を吹かせて偉そうに話をしてしまったらしい。
冒頭に書いた大先輩の言葉の意味を,私はようやく実感したのである(後輩君には誠に申し訳ないことをした)。
合気道の世界で先輩だからといって,何においても偉いという訳ではない。
お互いに社会人である。
腕を組んで口をへの字に結び,ふんぞり返って偉そうに説教を垂れる権利など,どこにもないのである。
一流の技を持ち,かつ慕われる先生,先輩は例外なく謙虚である。
私が尊敬する師範,先輩,兄弟子もまた,みな謙虚である。
私もかくありたい。