前回まで、佐藤眞作曲の混声合唱組曲の「旅」と「蔵王」の2曲を紹介しましたが、佐藤眞の合唱曲と言えば、「混声合唱とオーケストラのためのカンタータ『土の歌』」も紹介しないといけませんね。(HIROちゃんはアマチュア合唱団に所属していた時にオーケストラ伴奏で全曲を歌った経験があります)
この「土の歌」は大木惇夫が作詞、佐藤眞が作曲したカンタータ。日本ビクターの委嘱により、1962年(昭和37年)に作曲されました。
楽曲は、混声合唱団とオーケストラによって演奏するために書かれています。クラシック・ファンの中には、邦人の合唱曲は、ほとんど聴かれない方も多いと思いますが、この曲はオーケストラ伴奏のためか、国内のアマチュア管弦楽団の定期演奏会でもとり上げられる佐藤眞の名曲となっています。初演は、岩城宏之指揮/東京混声合唱団/NHK交響楽団により行われています。
その後、オーケストラ伴奏版では初演の大編成から、やや縮小した2管編成版に変えたり、ピアノ伴奏版では調性を低く移調したりして改訂されています。
また、2008年、作曲者自身によって早稲田大学グリークラブによる委嘱で男声合唱版も作られました。(この男声合唱版はYou Tube で早稲田大学グリークラブによる演奏を聴くことが出来ますので、投稿記事の末尾にアドレスを記しておきます)
曲は下記の7楽章によって構成されています。この中では何と言っても第7楽章の「大地讃頌」が最も有名で、この「土の歌」全曲は聴いたことのない方でも、知っておられる方は多いでしょう。それというのも、ピアノ伴奏版や三部合唱など、様々な出版社の楽譜に収められたため、中学校や、高校の校内合唱コンクールや、卒業式の定番曲として全国で歌われるようになりました。
記事の末尾に記したアドレスのYou Tube で全曲を聴くことが出来ますが、合唱曲をあまり聴かれない方でも、終楽章の「大地讃頌」だけは、ぜひ聴いてみてください。
■第1楽章「農夫と土」
雄大な風景を描写するようなホルンに導かれて曲が始まります。
自然の恵みの神秘、種を蒔く土、いのちの糧を作り出す土への感謝が描かれた楽章。親しみやすい曲で、旋律も美しい。
■第2楽章「祖国の土」
人は皆土に生まれ、再び土に還っていく・・ 祖国の土の尊さ、祖国の自然の美しさを、転調の多い行進曲風のはつらつとした楽曲で表しています。
■第3楽章「死の灰」
広島や長崎の原子爆弾をモチーフにした反戦歌・・ 文明の不安、科学の恥辱、人智の愚かさを歌いあげています。
■第4楽章「もぐらもち」
第3楽章と同じ原爆について歌われます。モグラに例えて「地の下の穴の暮らしが安らかだ」と、人間を皮肉っています。短いテノールのソロがある楽章です。
■第5楽章「天地の怒り」
雷、いなづま、嵐、雨、洪水・・ 火山の爆発、地震、火事・・ 逃げまどう人と叫び・・
など天災や悪について、激しい表現で描いた音楽! テンポも速く激しい曲なので、しっかりと歌わないと歌詞が何を言っているのか聴き取れない難曲といっていいでしょう。
■第6楽章「地上の祈り」
大地への想いと反戦の言葉が歌われます。穏やかな平和への祈り・・ 男声パートのバスの低音による祈りの言葉が印象に残る曲です。最後は希望の光が差し込むようなファンファーレが・・
■第7楽章「大地讃頌」
大地への限りない感謝、平和な大地、静かな大地、母なる大地を歌い上げる、この曲のフィナーレをかざる讃歌です。壮大で美しい・・・聴く人に感動を与えてくれます。
また、歌い終わった後の感動は、合唱団員として歌ったものでしか味わえない何とも言えない感動だ!
HIROちゃんの手元にある「土の歌」のライブラリーは、下記のLP1枚、CD2枚の計3枚です。いずれも合唱団は東京混声合唱団です。
■岩城宏之指揮/東京混声合唱団/NHK交響楽団
録音:1967年/杉並公会堂 ビクター音楽産業SJX-1127(LP)
カップリング曲:佐藤眞/若い合唱
■岩城宏之指揮/東京混声合唱団/東京交響楽団
録音:1986年9月2日 昭和女子大学人見記念講堂
ビクターエンタメイメント VICG-40188 (CD)
カップリング曲:混声合唱組曲「蔵王」&「旅」
■山田和樹指揮/東京混声合唱団/東京交響楽団
録音:2010年3月3日 東京オペラシティでのライブ
オクタヴィア・レコード(EXTON) OVCL-00425
カップリング曲
團伊玖磨/筑後川、武満徹/混声合唱のための「うた」より 他
さて、1枚目の岩城宏之指揮/N響との1967年録音のLPですが、当初は小澤征爾さん指揮/東京混声合唱団/N響とでレコーディングの予定でした。しかし、この曲を作曲している頃に小沢征爾さんとN響との間でトラブルとなり録音が出来なくなったため、岩城宏之さんとの録音となった・・と、佐藤氏が述べています。
上記に紹介した合唱団は全て東京混声合唱団による演奏。
3種類の演奏ですが、どれも甲乙つけがたい素晴らしい演奏です。前記のように、この曲は何度も改訂されています。岩城宏之指揮の1枚目のN響との演奏ではオーケストラは3管編成で、合唱も調性は高くなっています。2枚目の東京交響楽団との録音ですが、これは昭和61年(1986年)に改訂された2管編成となっていて、合唱もピアノ伴奏版の出版に合わせ、何曲かは音を低く移調しています。更に3枚目の山田和樹指揮の演奏では、細部に修正を加えた「2009年改訂版」の楽譜で演奏されています。
いずれも東京混声合唱団のプロの合唱を聴くことが出来るのですが、3枚目の山田和樹指揮による演奏はライブ録音ということもあり、若干、合唱の声が十分に捉えられていないことと、合唱とオーケストラとのバランスも若干悪く感じるのが残念です。(まあ、これは個人的な見解ですが・・・)
このように何度も改訂されている曲なので、どこがどう違うのか?、どのように変わっているのか?・・などとじっくりと耳をたてて聴く楽しさもあるでしょう。しかし、音楽的センスが低く、駄目耳のHIROちゃんには、そのような音楽鑑賞と探求は少々無理です。 単に全曲をとおして聴いて感動出来ればOK。他のクラシック・ファンの方が書かれる詳細な音楽用語や、音符まで示した具体的な違いや感想などは、とても書くことは出来ません。(でも、そのような投稿を読んでいると大変勉強になり、もう一度、手持ちの音源を取り出し、聴き直しをすることが多いですね・・・)
この壮大で音域も広い合唱を聴くには、やはりプロの合唱団の演奏を聴くべき?と感じます。実際、You Tube でアマチュアの合唱団、オーケストラでの演奏をいくつか聴いてみても、それぞれ感動はするものの、やはりものたりなさを感じます。
その点、プロである東京混声合唱団ですが、団員数は決して大人数ではありませんが、声そのものからして全く異なり迫力が違います。
と、いうことで、何かまとまりのない投稿ですが、You Tube で、山下一史指揮/東京フィルハーモニー交響楽団/東京混声合唱団による動画がありましたので、紹介します。全曲を通した投稿にはなっていませんでしたので、楽章の順にアドレスを記しておきます。画質は悪いのですが、音はまずまずで鑑賞には問題ありません。
なお、ピアノ伴奏で全曲ではありませんが、東京混声合唱団と同じプロの合唱団である神戸市混声合唱団との合同演奏の動画がありましたので紹介しておきます。全曲でないのが残念です。
■山下一史指揮/東京フィルハーモニー交響楽団/東京混声合唱団
混声合唱とオーケストラのためのカンタータ「土の歌」
カンタータ「土の歌」1 農夫と土(オケ伴・歌詞付)―佐藤眞 - YouTube
カンタータ「土の歌」2 祖国の土(オケ伴・歌詞付)―佐藤眞 - YouTube
カンタータ「土の歌」3 死の灰(オケ伴・歌詞付)―佐藤眞 - YouTube
カンタータ「土の歌」4 もぐらもち(オケ伴・歌詞付)―佐藤眞 - YouTube
カンタータ「土の歌」5 天地の怒り(オケ伴・歌詞付)―佐藤眞 - YouTube
カンタータ「土の歌」6 地上の祈り(オケ伴・歌詞付)―佐藤眞 - YouTube
カンタータ「土の歌」7 大地讃頌(オケ伴・歌詞付)―佐藤眞 - YouTube
■ピアノ伴奏版から抜粋
東京混声合唱団&神戸市混声合唱団
【土の歌】Shin Sato: Cantata the Songs of Land (Extracts)【東京混声合唱団&神戸市混声合唱団】 - YouTube
■作曲者自身による編曲の男声合唱版
早稲田大学グリークラブ
第56回定期演奏会第2ステージ「カンタータ ~土の歌~ 」(男声版委嘱初演) - YouTube
■その他、コンサートでの全曲演奏
混声合唱とオーケストラのためのカンタータ『土の歌』 三原室内管弦楽団 第37回定期演奏会 - YouTube
土の歌 佐藤眞 津田沼混声合唱団 37回定演 2016年度 - YouTube
土の歌 大地讃頌 Cantata Ode to the earth 佐野淳祥Atsuyoshi Sanoトランペット - YouTube
------ 番外編 ------
全日本合唱コンクール・・・
新型コロナ(COVID-19)感染症により、合唱コンクールは、ここ2年、開催されていません。新型コロナ感染症蔓延前までは、毎年開催される合唱コンクールの会場で見られた風景のYou Tubeです。
コンクールの結果の審査発表までの間、会場のどこからともなく、どこかの団体が歌いだすと、会場の全員が一つになって歌いだし、大きなハーモニーとなり感動します。
HIROちゃんも合唱団在籍中は、何度も経験した会場の風景です。吹奏楽コンクールでは、見ることが出来ない会場の風景ですね・・・
合唱は素晴らしい!・・・・
コロナ禍の中、少なくなった合唱人口が更に減少しています。
HIROちゃんは、いまでも時々は特別演奏会等に旧団員の団友としてステージにのっていますが、合唱人口が増えることを祈っています。下のタイトルをクリックしてみてください。「大地讃頌」が会場いっぱいに広がります・・・
今後も邦人作曲家の合唱曲も時々、紹介しますね。
では、今日は、このへんで・・・HIROちゃんでした。