Fontec から2018年に発売されたこのCD・・・本体価格は1枚2,500円、最近は安価なCDのBOXが出回る中、ちょっと手が出しにくい価格のCD・・・しかも合唱人口や合唱ファンが減少する中、このCDを購入した方が何人おられるのだろうか? あまり売れないだろうと勝手に推測するHIROちゃんですが、発売したフォンテックには合唱ファンとしては感謝したい。

 

木下保(1903-1982)はテノールの声楽家であり、音楽教育者、指揮者、作曲者、編曲者、評論家として多彩な功績を残しています。

声楽家としては、前回このブログでも紹介した團伊玖磨作曲のオペラ「夕鶴」での「与ひょう」は、初演以来の当たり役として100回以上歌い続けました。

また、音楽教育者としては東京音楽学校(現藝大)をはじめ、武蔵野音楽学校、広島大学音楽学部、東京学芸大学、洗足学園大学、フェリス女学院短期大学、武庫川女子大学、大阪音楽大学などなど多くの大学で教鞭をとられています。

 指揮者としては戦後、放送局専属の東京放送合唱団や、CBC合唱団をはじめ、特にアマチュア合唱団の指揮に力を入れ、長い間、日本女子大学合唱団、聖心女子大学合唱団、慶応義塾ワグネル・ソサエティー合唱団の指揮をされていました。

(ここまでの木下氏の紹介は、Wikpedia 及びCDのブックレットを参考にしました)

 

■髙田三郎/合唱組曲「心の四季」と、このCDの演奏について

髙田三郎作曲の「心の四季」は元々、混声合唱組曲で、以前、このブログでも紹介した合唱組曲「水のいのち」とならぶ髙田三郎の合唱曲の代表作品のひとつです。「水のいのち」と同様、合唱曲としては大ヒットした作品で楽譜は混声合唱版、女声合唱版ともに100刷を超えています。HIROちゃんも昭和40年代の若いころに、所属していたアマチュア合唱団の定期演奏会で全曲を歌ったことのある曲と共に、全日本合唱コンクールの全国大会で、この曲の中から第6曲「雪の日に」を歌ったことがある思い出深い曲です。

この「心の四季」についての解説はWikpedia にも書かれているので、こちらを読んでみてください。

心の四季 - Wikipedia

 

さて、この「心の四季」ですが、楽譜を見てみるとppやpppと弱音指定が多く、mpを超える強音が記載されていません。しかし一般的な演奏では第6曲の「雪の日に」では、抑えきれない感情がf(フォルテ)、あるいはそれ以上のffとなって表れます。これは単に降り注ぐ雪ではなく、荒れ狂った容赦なく降り積もる雪を表した感情で、この組曲の中では最も感情表現が強く表れた楽曲となっています。

髙田三郎氏の合唱曲では、この「心の四季」や、「水のいのち」、「ひたすらな道」などが代表作品ですが、「水のいのち」は色褪せませんが、他の曲は少し過去の曲になりつつありますね。

 

 このCDでの「心の四季」の演奏ですが、木下氏の若干早めのテンポで進む演奏スタイルは、前回投稿した日本女子大学合唱団との「水のいのち」と、同じLPにカップリングされていた聖心女子大学グリークラブとの同曲「心の四季」と、あまり変わりません。曲全体の流れや、フレーズを重視した演奏で、チョット聴くと少し淡々として聴こえるのですが、良く聴くと曲の隅々まで細やかな感情が聴き取れる演奏で、歌詞もはっきりとしたきれいな日本語です。この曲では第3曲の「流れ」や、第4曲「山が」で聴かれる美しく歌う旋律、そして、「雪の日に」の演奏が特に良い。容赦なく降り続く激しい雪の表現が良く表されている。終曲の「真昼の星」も美しいpで締めくくります。

 

■信時潔作曲/沙羅

この曲は元々は独唱曲として発表され、1943年に木下氏によって全曲が初演された曲です。このCDでは木下氏が男声合唱曲用に編曲したものです。1979年、慶應義塾ワグネル・ソサイティー男声合唱団の第104回定期演奏会でのライブ録音。男声合唱らしい重厚なハーモニーが美しい。木下氏と慶応ワグネルとの付き合いは1925年の合唱指導から亡くなる直前まで続きました。木下氏の得意とする、やまとことばが良く感じられます。なお、この曲では第5曲の「鴉(からす)」での狂言風の歌い方が独特で、奥が深く面白い演奏です。

それにしても慶應義塾ワグネル・ソサイティー男声合唱団の素晴らしい男声合唱には感動です。

 

■信時潔作曲

いろはうた/痩人を嗤ふ歌二首/

子等を思ふ歌/やまとには(國見の歌)

 これらの4曲は木下氏の喜寿祝賀演奏会として1979年9月8日、東京文化会館大ホールでのライブ録音。慶應義塾ワグネル・ソサエティ男声合唱団、日本女子大学合唱団、聖心女子大学グリークラブとの3大学合同演奏です。

 信時潔の合唱曲というとHIROちゃんは蒲原有明作詞による「おもひで」という曲を合唱コンクール全国大会で歌ったことがあるのですが、美しい旋律と力強さ、重厚さを持った曲でしたが、このCDでの「やまとには(國見の歌)」も少し「おもひで」と共通した点が多く、美しいハーモニーと重厚さ、力強さを感じる曲です。この曲を聴いていると、木下氏のやまとことばに対する情熱と言ったものが感じられるのです。

 前述の「おもひで」を歌ったときには、木下先生に合唱団に来ていただき、歌詞の歌い方、発音など、やまとことばについて熱心に指導を受けたことを思い出しました。

 

 合唱曲の邦人作品というと、あまりクラシック・ファンの中には興味を持たれない方もいて、ほとんど聴かない方もおられると思いますが、ぜひ、美しい日本の合唱曲も聴いてもらいたいと思いますね。

では、今日は、このへんで・・・HIROちゃんでした。 (^^♪