メンチカツによる食中毒と予防について
※2016/11/02 23:40 少し文章を追加投稿しました。
※2016/11/03 0:50 文章を追加投稿しました。
今回、神奈川県平塚で発生した、メンチカツによる腸管出血性大腸菌O157(オーイチゴーナナ)による食中毒事件。
まずは被害にあわれた方のご回復を祈ります。
この食中毒は、どのような食中毒なのか、どのような予防方法が大切かなどを説明しましょう。(食中毒については大学講義での私の専門分野のひとつです)
この食中毒は命にかかわる重大な食中毒です。チョット初めは難しい話も出てきますが、最後のほうでは、なるべくわかりやすく予防法などについて説明したいと思います。
・・・初めにチョット一言・・・
大したことではありませんが、あるテレビ局の報道で、「O-157」と-(ハイフン)を入れて表記していますが、現在はO157と、ハイフンは書かないのが正式な表記です。(個人的には入れたほうがわかりやすいと思うのですが、何年か前から-は書かない事になっています)
腸管出血性大腸菌O157(オーイチゴーナナ)とは?
大腸菌は、腸内細菌の一種ですが、人の健康を脅かす大腸菌を「病原大腸菌」と言います。
病原大腸菌は、専門的な言葉ですが、菌体(O抗原)や鞭毛(H抗原)などの種類により番号で型別に分類します。今回、食中毒を起こしたO157は、157番目のO抗原の大腸菌と言うことなのです。
病原大腸菌には多くの種類があり、種類によって潜伏期間(感染してから発症するまでの期間)や、症状なども異なります。ここではチョット難しい話ですが、主な病原大腸菌の種類を説明した後、今回発生したO157食中毒について特徴や潜伏期間、主な症状、感染源、主な原因食品、そして注意することとして、予防法についてお話します。
主な病原大腸菌の種類
・・・これはだいぶ専門的な話ですが・・・
①腸管病原大腸菌
乳幼児の胃腸炎の原因菌として知られていますが、成人にも腸炎を起こすことがあります。潜伏期間は、感染3日後に発症した事例もありますが、一般的には12~24時間位です。主な血清型にO44、O55、O86、O126、O128などがあります。
②腸管侵入性(侵襲性)大腸菌
赤痢菌のように腸粘膜に侵入し下痢を起こします。人から人へも感染します。潜伏期間は1~5日、水溶性下痢で重症な場合には血液や粘液が混じります。主な血清型にO28、O112、O124、O136、O173などがあります。
③腸管毒素原性大腸菌
腸管内で増殖する時にエンテロトキシンという毒素をつくります。激しい下痢を起こし、脱水症状になる時もあります。潜伏期間は12~72時間です。
主な血清型にO6、O8、O11、O15、O20、O25、O148、O159、O169などがあります。
④腸管出血性大腸菌
大腸の粘膜に付着して増殖する時に「ベロ毒素」という毒素をつくります。非常に少ない菌数で感染し、強い感染力で人から人に感染します。潜伏期間は1~10日と長い時もあります。下痢や血便、腹痛で重症では溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発し、死亡する場合もあります。主な血清型にO26、O111、それに今回、食中毒を起こしたO157などがあります。O111による食中毒では2011年に焼き肉チェーン店「焼き肉酒屋えびす」の富山、神奈川、福井の3店で牛肉の「ユッケ」を食べて、117名が食中毒にかかり、5人が亡くなった事件は記憶に新しいでしょう。この原因となったO111もO157と同じ種類の病原大腸菌です。
そのほか、腸管凝集接着性大腸菌と呼ばれる大腸菌もあるのですが、大腸菌の大別は文献等によっても多少名称が異なる場合もあり、「腸管凝集接着性大腸菌」については不明点が多いとされています。
さて、前置きが少し難しい話でしたが、今回の冷凍メンチカツでの食中毒について詳しく説明しましょう。
---- 腸管出血性大腸菌O157について ----
前記の腸管出血性大腸菌のところで説明のとおりですが・・・
あらためてお話をします。
■主な特徴
・非常に少ない菌数でも発症する。
・感染力が強い(人から人に感染する)
・ベロ毒素をつくる。
・菌そのものは、加熱には弱い。
■潜伏期間
1日~10日位と幅がある。
■主な症状
発熱、激しい腹痛、水様下痢、血便など
初期症状が風邪に似ているためと、潜伏期間が長い時もあり
見過ごしやすく手遅れになる場合もあります。重症になると、
溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発し、死亡する場合もあり
ます。脳症(痙攣や意識障害)を起こす場合もあるようです。
■感染源
感染源で最も多いのは牛と言われ、主に牛の腸管に生息して
います。
■主な原因食品
牛の糞便によって汚染された食肉や、その加工品・井戸水など
が主な原因となりますが、生野菜が原因となった例もあります。
※ほとんどが牛肉によるものです。牛肉がO157やO111が汚染
されるのは解体時に汚染する場合が多いのですが、実は検査
の結果、腸管出血性大腸菌が「牛の生レバー」の中からも検出
される事がわかったので、厚生労働省では牛の生レバーの提
供を禁止としたのです。
■主な予防方法
①病原大腸菌は熱に弱い菌です。
加熱調理品は十分に加熱する。
今回のメンチカツは冷凍食品で、コロッケやメンチカツなど
の冷凍食品は解凍しないで、凍ったまま油で揚げるのが普通
です。(解凍してから揚げると揚げ作業中にドリップなどで
パンクし、油がはねます)
冷凍食品は揚げて、表面上は色がついて熱が通ったように思
っても、中心は完全に熱が通っていないこともあります。
出来れば調理用の中心温度計があれば良いのですが、なけれ
ば揚げた後、包丁で切ってみて熱が通ったか確認することが
大切です。
病原大腸菌の予防では加熱調理品の中心温度は85℃1分で十
分です。
今回の食中毒は前記のとおり非常に少ない菌数でも発症する
食中毒菌です。そのため調理時の揚げ時間が十分ではなく、
中心温度が上がらず汚染されていた菌が生き残ったことが考
えられます。また、冷凍食品には食品衛生法で必ず調理方法
が表示されていますので、表示されている調理方法を良く読
みましょう。
※ご参考
スーパーなどの鮮魚売り場等でトレーに入れてラップされた
ものが凍結されて販売されているのを良く見かけます。
(エビや、イカなど)これは食品衛生法上の冷凍食品ではあ
りません。単なる「凍結食品」で賞味期限を延ばすために凍
らせたものです。ですから調理方法や凍結前の加熱の有無や
解凍後、加熱するものか、生で食べるものなのかの表示は、
されていませんし、調理方法も記載がありません。
②牛の生レバーは絶対に食べない。(禁止されています)
また、牛刺しやユッケは法律上、禁止にはなっていませんが、
肉の表面を切り落とすトリミング処理などが必要で食べない方
が無難です。また、腸管出血性大腸菌の他にカンピロバクター
という細菌による食中毒が牛肉で発生することも多くあるので
す。
※ご参考
鶏肉の「鶏刺し」などの生食も避けましょう。鶏肉にはカン
ピロバクターという食中毒菌がほぼ100%付着しています。
この食中毒は「新鮮な鶏肉ほど食中毒になるリスクが高い」
のです。これについてはこちらで説明しています。
あとから読んでみてください。
③焼き肉やバーベキューでは食べる箸と焼くための箸
(又はトング)は別にして食べる箸では肉は焼かない事。
また焼く時の箸(トング)は2個で、生肉を網や鉄板に乗せる
ためのものと、焼きながら肉をひっくり返すものと分けるとよ
い。
④二次汚染に注意する。
非常に少ない菌数でも発症する食中毒菌です。感染しますの
で、良く手を洗うなどの二次汚染に注意が必要です。
今回の冷凍食品工場では、O157に汚染されていた肉が、そ
もそもの原因ですが、汚染されていた肉が工場内で他の肉と
一緒にミンチされ混ぜてしまうと、すべてが菌で汚染され、
そのまま同じ製造機械で製品を作れば二次汚染で、別の原材
料も汚染されてしまいます。
家庭では生肉を取り扱った後は必ず手を良く洗ってから、他
の食材料を扱いましょう。生肉を扱った手で、生サラダなど
の調理は厳禁です。二次汚染の原因となります。
⑤調理器具等の十分な洗浄と消毒、使い分け
まな板、包丁などの調理器具類は十分、洗浄し熱湯消毒や塩
素系の消毒液(ハイターなど)で消毒をしましょう。
また、生肉等に使用する、まな板や包丁は特に注意しましょ
う。
出来れば生肉用のまな板や包丁は専用として使い分けるの
が良いのですが家庭では難しいので、生の肉の下処理後など
には必ず洗浄し、熱湯消毒などを行いましょう。
・・・細菌性食中毒の予防の基本は・・・
清潔・・・・(細菌をつけない)
増やさない・・・・(適正な保存など)
加熱等の温度管理・・・・(加熱等で菌を殺す) です。
食中毒にかからないよう、注意しましょう・・・・・
では、今日はこのへんで・・・・HIROちゃんでした。