■岩城宏之指揮/ベートーヴェン交響曲全集
ベートーヴェンの交響曲というと、どうしてもベルリン・フィルだの、ウィーン・フィルだのと言って、巨匠と呼ばれるような外国の有名指揮者の演奏をつい、聴いてしまいますが、日本人の指揮者や日本のオーケストラのベートーヴェンも悪くありません。昨年は水戸芸術館での小澤征爾氏指揮の水戸室内管弦楽団定期演奏会に2回、行くことが出来、ベートーヴェンの交響曲第4番と、第7番を生で聴くことが出来ました。とても感動する素晴らしい演奏だったのですが、後日、NHKで放送された時は、全く別の音に聴こえ、がっかりしました。このライブ演奏はCD化もされています。CDは購入していませんが、音はどうだったのでしょうか・・・?・・気になるところです。
さて、私の持っている86種類のベートーヴェン交響曲全集の中の日本人演奏者として、指揮者としては、小澤征爾氏や、朝比奈隆氏をはじめ、飯森泰次郎氏、岩城宏之氏の全集が、ライブラリーとして手元にあります。また札幌交響楽団としての全集も持っていますが、この全集は、指揮者の山田一雄氏が、第1番のみを残し、亡くなられたのが残念です。その後、第1番は、矢崎彦太郎氏によって演奏され、全集となっています。
その他、全集ではありませんが、近衛秀磨氏の指揮した第5番、第6番、佐渡裕氏の第9番など、他の日本人のベートーヴェンも結構、持っています。
小澤征爾氏や、朝比奈隆氏、飯森泰次郎氏のベートーヴェンは、機会をみて後から紹介するとして、今回は岩城宏之氏のベートーヴェン交響曲全集2種類について紹介します。
■岩城宏之指揮/NHK交響楽団
(1968~1969年録音)

この録音は、1970年のベートーヴェンの生誕200年と、日本コロンビア創業60周年に合わせ製作されたものです。岩城宏之=N響というイメージだった1970年代でしたが、この全集を録音した時の岩城氏は、まだ30歳代です。N響の水準も高く、ベートーヴェンの交響曲全集としてかなり、クオリティーの高い演奏だと思います。
全体的に纏まりのある演奏です。特に奇数番号が良く、第3番「英雄」、第5番は名演。第3番「英雄」の出だしの音は、迫力があり、全体として緊張感や力強さを感じる演奏。第1楽章、第4楽章が素晴らしい。また、第5番では第1楽章にやや迫力の点などで不満が多少ありますが、曲が進むにつれて緊張感や、迫力が増していき、聴きごたえあり、第4楽章は「素晴らしい」の一言。。。
第7番も好演。また、第9番「合唱」では、やや物足りなさはあるものの、ソロのソプラノ常森寿子さんと、アルトの荒道子さんのソロは、すばらしいと思いました。合唱は「コロンビア・アカデミー合唱団」となっていて、この録音のための寄せ集め合唱団だと思いますが、録音の取り方が悪いのか、合唱団が悪いのか、女声がややこもりがちに聴こえるのが残念。
その他では、第6番「田園」の第1楽章、第2楽章が印象に残る好演。
なお、このBOXでは、第4番、第8番、第9番「合唱」のセッションにおけるリハーサルの一部が特典盤として聴くことが出来ます。
あらためて、この全集を聴いてみると、この全集は、今では、うずもれてしまった名盤・・・かもしれませんね。
ついでに・・・もう一つ・・・うずもれてしまった・・・?ベートーヴェンの交響曲全集・・・それは、朝比奈隆氏が1973年に初めて全曲録音した、最初の全集。朝比奈氏は何度もベートーヴェンの交響曲全集として録音を残していますが、プロの評論家は、どちらかというと、晩年のライブ録音ばかり推薦し、この最初の録音全集を推薦するプロの評論家は少ないように思います。
あくまで個人的な好みかもしれませんが、朝比奈氏のベートーヴェンを聴くなら、セッション録音(第9番はライブ)ですが、この最初の全集がおすすめですね。
■岩城宏之指揮/N響メンバー達による管弦楽団
コンサート・マスター:篠崎史紀
釜洞裕子、黒木香保里、小林一男、福島明也
晋友会合唱団(合唱指揮:関谷晋)
2004年12月31日~2005年1月1日
東京文化会館大ホール(ライブ録音)

この録音は、なんと・・・岩城宏之氏が一日でベートーヴェンの交響曲全9曲の指揮を振るということで、2004年12月31日に行われた、"振る(フル)マラソン"の演奏会を収録した5枚組の全集アルバム。
この日の曲の演奏順は第1番から・・・演奏開始の時刻等が曲目の脇に書いてありましたので、紹介すると・・・正にマラソン演奏会・・・・このようなとんでもない演奏会を良くも当時、72歳だった岩城氏がやったものだと、感心せざるを得ません。会場に来られた方も、演奏者も体力の限界に挑戦した?演奏会かも・・・・
・・・この時の演奏開始時刻と終演時刻・・・
第1番:演奏開始2004年12月31日 15:33
第2番:演奏開始2004年12月31日 16:03
第3番「英雄」:演奏開始2004年12月31日 16:59
第4番:演奏開始2004年12月31日 18:35
第5番:演奏開始2004年12月31日 19:12
第6番「田園」:演奏開始2004年12月31日 21:05
第7番:演奏開始2004年12月31日 21:46
第8番:演奏開始2004年12月31日 22:45
第9番「合唱」:演奏開始2004年12月31日 23:45
第9番終演時刻:2005年1月1日 0:50
・・・・・とありますが、このBOXに入っていた解説書では、一切、演奏会場の様子どころか、各曲ごとの感想や評価にはまったく触れず、各曲目の解説が書いてあるのみです。
オーケストラは、レコード会社の契約等?の関係か「N響メンバー達による管弦楽団」となっていますが、実質、ほとんどのメンバーがN響のようです。なお、第9番の合唱団「晋友会合唱団」は合唱指揮者として「全日本合唱コンクール全国大会」で数多くの金賞を受賞している関谷晋氏が指揮者として指導しているアマチュア合唱団で組織した合唱団です。
さて、聴いた感想ですが・・・・・続けて9曲を演奏した割には、驚くほどミスはありません。・・・というか、もしかしたら後から一部修正しているかもしれません。それほど纏まりのある演奏と言えば演奏なのですが、やはり曲によっては、荒削り的に聴こえる部分も多くあるように感じます。このBOXは興味本位で購入したものですが、この録音は、「一日でベートーヴェンの交響曲全9曲の指揮を振った・・・」 という記録としての録音のように聴こえてなりません。決して聴きづらいとか、悪い演奏ではありません。ここは、亡くなられましたが、指揮者の岩城氏とオーケストラ、そして全曲聴いた観衆の方に敬意を表したいと思います。
まあ、この演奏は一度聴けば・・・何度も聴く演奏ではないかもしれません。

最後に・・・「おまけ」というわけではありませんが・・
岩城宏之氏の残したベートーヴェン交響曲の中で、「オーケストラ・アンサンブル金沢」を振った「第5番」と、「第7番」のCDが手元にあります。この演奏は2002年、石川県立音楽堂コンサートホールでの演奏会でのライブ録音ですが、録音が非常に優れている上、演奏も素晴らしいものがあります。これは一聴の価値有りのおすすめ録音ですね。
では、今日は、このへんで・・・・・HIROちゃんでした。