ロフチン・ホワイト・アンプの設計方法と
 2A3ロフチン・ホワイト・アンプの製作 ②
 
  今回は2A3ロフチン・ホワイト・アンプ製作の第2回目として、2A3アンプを例にして設計方法について詳しく説明します。・・・・・
 
■回路の設計方法
 ロフチン・ホワイト・アンプについては、ドライブ管の違いやドライブ方法など、製作者によって多少、回路も異なりますが、ここでは最もシンプルな回路の設計とし説明します。
あくまで私なりの設計法ですが、ポイントを理解していただければ、2A3に限らず、他の出力管でも設計が出来ると思います。
 
 まずはドライブ管を決めますが、その前に2A3のA級での動作例を規格表で見てみると・・・
 
   Ep(プレート電圧):250V
   Ip(プレート電流):60mA
   Eg(グリッド・バイアス)-45V
 
 この時の出力は3.5Wとなっています。今回は、一応この動作例を基本に設計してみましょう。
 
■Rkの求め方と必要なB電圧の求め方
 単純に普通のCR結合であれば自己バイアスの場合、Rk(カソード抵抗)・・2A3は直熱管でカソードはありません(この表現は適切ではないとコメントを頂きました)のでフィラメントになりますが、オームの法則で、45V÷60mA=750Ωを使用すれば良いのですが、ロフチン・ホワイト回路の場合には自己バイアスですが、カップリング・コンデンサを使わずに、ドライブ管のプレートと出力管(2A3)のグリッドが直結になりますので、このRkを大きくしなければなりません。それは2A3の例ですと2A3のフィラメントからみてグリッドが-45Vが必要なので、2A3のフィラメントとアース間の電圧が45V+ドライブ管のプレート電圧にならなければなりません。
 
 バイアス電圧が-45Vと結構深いので十分なドライブ電圧を必要とします。ST管なら6C677、GT管なら6SJ7やMT管なら62676AU6などなど・・・五極管なら大きなドライブ電圧が得られ楽なのですが、今回は回路を超シンプルにしたいこと、出力管が三極管なので「三極管の音」にこだわり、ドライブ電圧が多少低くなることを承知の上でドライバーに高増幅率(μ=100)の三極管を、あえて使用した場合の設計で説明します。
 μが100だとST管なら6Z-DH3Aや、古いですが752A6、オクタルベースの6B6Gの3極部、GT管なら、6SQ712SQ7の3極部や6SF5、MT管なら6AV612AV6の3極部などがあります。12AX7の片ユニット(1/2)もμ=100です。これらは、ほぼ同じ特性と考えていいと思います。(但し12AX7は、片ユニットだけ使用した場合なので、強力にドライブするためにパラ接続とした場合には、計算値が異なります)
 
ドライバーに、これらの高増幅率3極管を使用した場合のロフチン・ホワイト・アンプの最もシンプルで基本的なNFB無しの無帰還アンプの設計回路例を次に示し、抵抗値の定数をどのように決めていくのかを説明しましょう。そのために使用部品は必要最小限とします。
 イメージ 2
この回路設計の中では、抵抗値を決めるのがもっと重要です。どの抵抗も重要ですが、特に出力管のバイアス抵抗(回路図のR3)、R4のブリーダー抵抗、R5のB電源平滑回路のデカップリング抵抗値は重要です。このうちR4のブリーダー抵抗は省略することもできますが、ドライブ管の電流が少ないことや、ドライブ管への安定したB電流の確保、またドライブ管の断線時の出力管へのダメージ軽減のためにも入れておきたい抵抗です。製作者の方によっては、このブリーダー抵抗を出力管のバイアス抵抗の上(バイアス・コンデンサのプラス側)に繋いでいる回路が多いようですが、ここでは単純にアースに落としています。
この回路の場合、R4のブリーダー抵抗と、R5のデカップリング抵抗の抵抗値を変えることでドライブ管のプレート電圧の調整ができます。つまり出力管のバイアス電圧(グリッド・バイアス電圧)の調整ができるということになります。これは直結のために2A3のフィラメントとアース間の電圧と、ドライブ管のプレート電圧との差が2A3のグリッド・バイアス電圧になるからです。
 
2A3のRk(この回路図のR3)の値ですが、高μのドライブ管の6SF5などから高いドライブ電圧を得るためにも、6SF5のEp(プレート電圧)は100V以上、できれば150V位は欲しいところです。しかし、あまり高くすると必要とするB電圧も高くなってしまい電源トランスの選定が難しくなります。ここでは中間をとって、仮に、Epを125Vとして設計すると・・・・・
 
ここは前記のように2A3のフィラメントとアース間の電圧が2AのEgである45V+ドライブ管のプレート電圧にならなければなりません。従って、ここの電圧は125V+45V=170Vの電圧が必要となります。2A3の前記の規格の動作例で2A3のIp(プレート電流)は、60mAですから、ここの抵抗値(Rk)は、オームの法則から170V÷60mA=2.83KΩとなりますので近似値の3KΩとします。また、ここのW数は170V×60mAで10.2W、出来れば余裕を見て30W位の抵抗を使いところですが、20Wのホーロー抵抗などで構いません。
そうすると、2A3の動作例から2A3のEp(プレート電圧)は250Vですから170V+250V=420Vとなり、2A3のプレートとアース間の電圧となります。ですから2A3のプレートに420Vが供給できるB電圧が必要ということになります。
使用する出力トランスや、B電源部のチョーク・トランスの直流抵抗値によって多少異なりますが、出力トランスで約5~10V、チョーク・トランスで約10V位は電圧が下がりますので整流管の整流直後の電圧が大体、450V位になるようなB電圧タップ(整流管によりますがAC約380V位)のある電源トランスと、整流管を選ぶことになります。使用する整流管は、出力管2A3が直熱管のため、ドライブ管のヒーター・ウォーム・アップ時間と合わせるために傍熱管を使用します。そうしないと、ドライブ管に電流が流れる前に2A3のグリッドに高電圧がかかり過大な電流が2A3に流れてしまい球を壊してしまうことになります。(ごく短時間なら大丈夫で壊れません。)
なお、整流後、チョーク前に数十Ω~100Ω程度の抵抗を入れた方が良いでしょう。ここの抵抗でもB電源の電圧調整が出来ます。ケミコンの保護のためにも使用した方が良いと思います。
 
 ドライブ管のプレート抵抗値(回路図のR2)は、ここでは240KΩとしました。(手持ちの関係)
R1のカソード抵抗値にもよりますが、規格表の動作例などから見て2~3KΩでR2を240KΩとした場合、使用する6SF5場合、球のバラツキもあり、1本当たりのIp(プレート電流)は大体、約0.4~0.6mA位です。0.5mAで計算するとプレート抵抗が240KΩですから、ここでの電圧降下は240KΩ×0.5mA=120Vです。必要なEp(プレート電圧)は125V、つまりB2での電圧は、電圧降下分の120V+Ep125V=245VであればOKということになります。
 
■ブリーダー抵抗値と平滑回路でのデカップリング
  抵抗値の計算方法
 回路図のB2の部分でブリーダー電流をアースに流します。前述のように、ドライブ管が小電流であること、ドライブ管への安定したB電流の確保、またドライブ管の断線時の出力管へのダメージ軽減など安全のため数mA位は必要と考えます。ここでブリーダー電流を5mA程度、アースに流すとすると、ブリーダー用の抵抗値(R4)は245V÷5mA=49KΩということになるので50kΩ位の抵抗とします。
W数は245V×5mA≒1.2Wなので3~5Wの抵抗を使いますが5Wが安全でしょう。
 また、デカップリング抵抗後の電流は、ブリーダー電流5mA+ドライブ管0.5mA=5.5mAということになります。ここまで計算したら、あとはB1での約430Vから245Vに電圧を下げるためのデカップリング抵抗値(R5)を求めればよいのです。
 つまりR5を求める計算式は、(430V-245V)÷5.5mA≒33.6KΩとなります。ここは電圧降下が430V-245V=185Vで5.5mA流れますから185V×5.5mA≒1Wなので3~5Wの抵抗を使用します。
 
■電圧配分の調整方法
 このようにして抵抗値の定数を計算するのですが、私のやり方なので他の計算方法もあるかも知れません。前記のように出力トランスやチョーク・トランスなど部品の違い、使用する抵抗の精度、真空管のバラツキ等により、計算とおりの電圧にはならないことが多くあります。理論値で計算した電圧配分で実測値が約±10%位ならOKで問題なしです。±15%位でも動作上は大丈夫です。
 特にロフチン・ホワイト回路では前記のように、直結のために2A3のフィラメントとアース間の電圧と、ドライブ管のプレート電圧の差の値が2A3のグリッド・バイアス電圧になりますので、2A3のバイアス電圧を調整するためには、ドライブ管のプレート電圧を調整すれば良いことになります。
 つまり、ドライブ管のプレート電圧を高くするときはブリーダー抵抗(R4)を少し大きな値にするか又は、デカップリング抵抗(R5)の値を少し小さくすればOKですし、逆に低くしたいときには、ブリーダー抵抗値(R4)の値を少し小さくするか又は、デカップリング抵抗(R5)を少し大きな値にすればOKです。
 
 このようにロフチン・ホワイト・アンプの設計は2A3に限らず、真空管の規格と、オームの法則がわかれば設計をすることが出来ます。
 興味のある方は、ぜひ、ロフチン・ホワイト・アンプを作ってみてください。
 ロフチン・ホワイト・アンプの特徴ともいえる低域が良く伸びた音と、カップリング・コンデンサを排除したストレートな音にきっと魅了されるはずです。
 
■実際に製作するアンプの設計回路
 今回は、とにかくシンプルなアンプを作ることも、目的のひとつ。
そのために、説明用の回路と同様に高μ3極管でドライブした、NFB無しの無帰還アンプとします。しかも省略できる部品は少しでも減らし、必要最小限の部品で設計することにしました。計算で得られた抵抗値は、家にある手持ちの近似値の抵抗を使用、2A3のハムバランサーのボリュームも省略し、30Ω(10~30Ω位でOK)抵抗2本の中点から、バイアス抵抗とコンデンサを繋ぎます。2A3は2.5Vのフィラメントなのでハムの防止はこれでも充分。よほど能率の高いスピーカーを使わない限り、ほとんどノーハムに近くなるはずです。DC点火は必要なし。
 B電源整流後のケミコンに繋ぐ抵抗も電源トランスの電圧が少し低いので、これも省略。
 B電源部もチョークは10Hを使いたいところ、手持ちの5Hです。500V耐圧のケミコンも手持ちが少なく容量が多少不足気味ですが、これで大丈夫でしょう。
また、あまり好ましくはありませんが、ドライブ管へのB電圧デカップリング抵抗とブリーダー抵抗は両チャンネル共通とし、1本だけで賄います。そのためにデカップリング抵抗は約半分の16KΩとしましたが、ブリーダー抵抗はそのままの値としました。これは2A3の計算値のRkが2.83KΩのところを3KΩとしたために、ここの電圧が170Vより若干高くなるはずです。そのためドライブ管のEpも多少高くする必要があるためです。多分、この定数で6SF5のプレート電圧は130~140V位と高くなるでしょう。
 使用する電源トランスのB電圧端子の電圧タップは、350Vが最高なので、この回路で作ると、2A3のEp(プレート電圧)は多少、下がると思います。各部の電圧配分は説明用の回路の電圧とは変わりますが、2A3のPd(最大プレート損失)15W以内には収まるはずです。
 
回路図です。もう、これ以上、シンプルにすることはできません。
今回は2A3と同じST管の6Z-DH3A75も手持ちがあるのですが、6SF5の新品手持ちが数本ありましたので、これを使用します。
 
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このブログでは、同じ回路のアンプの製作を、おすすめしているものではありません。また、アンプの試聴結果は、個人的な感想です。したがって、このブログ内記事の回路図等は、参考にしないで下さい。同じ回路のアンプを、お作りになるのは自由だとは思いますが、全て自己責任の上、製作くださるよう、お願いいたします。投稿者としての責任は一切持ちません。真空管アンプ製作は、高電圧等による感電死や、火災、火気事故、シャシー加工時での怪我など、注意が必要です。安全第一で楽しいアンプ作りをしましょう。
 
 製作用の設計が終わったので、あとは作るだけです。回路も簡単ですし、シャシーが中古で穴あきですので、配線作業は半日あれば十分です・・・・?
次回は完成後の報告です。お楽しみに。。。。