昨晩、国際サッカー連盟(FIFA)が公式に5月〜6月に開催予定だった「U-20 WORLD CUP」(U-20とは20歳以下の意)の開催権をインドネシアから剥奪したと発表しました。

 

 

先日、U-20W杯の抽選会が延期と発表されていましたが、昨晩の発表によってインドネシアでW杯が開催されないことが確定し、インドネシアではメディアやSNS上で非常に大きな論争が巻き起こっています。

 

どうしてこうなった?

なぜ、開催権が剥奪されたのか?

だれのせいなんだ?

 

様々言われていますが、インドネシア国内のニュースを紹介しつつ少しまとめながら見ていきたいと思います。

 

国際サッカー連盟(FIFA)の見解

 

まずはFIFAの公式ページから見てみましょう。

 

https://www.fifa.com/fifaplus/en/articles/fifa-removes-indonesia-as-host-of-u20-world-cup-2023

 

このステイトメントに書かれていることは大きく分けて二つ。

 

「U-20W杯はインドネシアで開催されないことが決定」

 

「2022年10月に起きた悲劇的な事件からインドネシアサッカーがより良く変わっていくプロセスをジョコウィドド大統領、インドネシアサッカー協会(PSSI)と連携を取りながら進めていく」

 

昨晩、先日新しくインドネシアサッカー協会の会長に就任したErick Thohir氏(イタリアセリエA、インテルミラノの元オーナー)とFIFAのGianni Infantino氏が緊急会談を行った結果、この決定となりました。

 

代替開催地は近日発表されるとのこと。

同時に主催者としての責任を果たせなかったインドネシアにはFIFAから制裁が下される可能性が高まりました。

 

FIFAはインドネシアから開催権を剥奪した理由について明確には言及しておらず、2022年10月カンジュルハンという街のサッカースタジアムで起きた、死者120人以上を出した事件からの立ち直りを手助けするということのみ書かれています。

 

では、今回のW杯開催はなぜ叶わなかったのか。

インドネシア国内で起こっていたことを追っていきましょう。

 

 

インドネシア国内で起こっていたこと

 

事の発端は「イスラエル」がヨーロッパのW杯予選を自力で突破し、出場を決めた事。この時点でイスラエルチームをインドネシアでプレーさせるべきではないとする個人や団体が現れました。

 

 

これは2021年のニュースですが、インドネシアはイスラエルとの外交関係を未だに正常化していません。これはインドネシアのイスラム教徒を中心としたイスラエルに対する反発を受けてのことですが、イスラエルとパレスチナの紛争問題でパレスチナを支持している人が多いと言い換えることもできます。

 

「記事タイトル:インドネシアがイスラエルと国交を正常化しないいくつかの理由」

 

歴史を遡ると、1955年に西ジャワ州のバンドンにて行われたアジア・アフリカ会議において、当時のスカルノ大統領はイスラエルを招聘しませんでした。

 

「記事タイトル:スカルノ大統領がインドネシア代表にイスラエルとの試合を拒否するよう命令した当時を振り返る」

 

1958年のサッカーW杯スウェーデン大会の予選、台湾やオーストラリアが予選の出場を辞退し、中国との一騎打ちを制してプレーオフに駒を進めたインドネシアがプレーオフでイスラエルと対戦することになりました。

 

この時、スカルノ大統領はイスラエル代表チームのインドネシアでのプレーを拒否する声明を発表し、インドネシアはプレーオフへの出場を辞退、FIFAから制裁を受けています。

 

さらには1962年にジャカルタで行われた「アジア競技大会(Asian Games)」でも、スカルノ大統領の指示でインドネシア政府はイスラエル選手団に対してVISAを発給しないことを決め、オリンピック委員会から制裁を受けています。

 

こうしてスカルノ大統領はかつて明確に「イスラエル拒否」の姿勢を貫いてきました。では、なぜこれをここに書いたのかというのを次の記事に繋がるので、見ていきましょう。

 

「記事タイトル:闘争民主党(PDIP)出身の知事Wayan Kosterがイスラエルのバリ島での試合を拒否」

 

今回、イスラエル問題でU-20W杯開催権剥奪を決定的なものとしたと言われているのが、上記の記事にある事柄です。

 

開催権剥奪に先駆けてまず決定されたのが、3月31日にバリ島で行われるはずだった抽選会の中止なわけですが、イスラエルが出場を決めた当初はまだ騒動はここまで大きくなっておらず、インドネシアサッカー協会のMochamad Iriawan氏、青年スポーツ省のZainudin Amali氏は揃って「イスラエル代表チームがインドネシアでプレーすることに問題はないと政府含めて認識している」と発表していました。更にAmali氏は「スポーツと政治を分けて考えてほしい」とも発言していました。

それがなぜ抽選会の中止に追い込まれたのか。

風向きが変わったのは闘争民主党(PDIP)が党のSNSに「イスラエル代表チームのインドネシアでのプレーに抗議する」という旨の投稿をしたこと。

 

 

それを受けて闘争民主党(PDIP)出身であるバリ州知事のWayan Koster氏が青年スポーツ省のZainudin Amali氏に「イスラエルのバリ島でのプレー、及び抽選会参加を拒否する」という書面を送ったことで、国際サッカー連盟(FIFA)がこの事態を重くみて抽選会を中止としたと言われています。

 

闘争民主党(PDIP)の現代表は何を隠そうスカルノ元大統領の娘で、自身も大統領経験者であるメガワティ・スカルノプトゥリ氏で、PDIPとしては明確にイスラエルを認めないとするのは必然でした。

 

それに呼応するように今回のイスラエル入国反対も「スカルノ大統領の意思を継ぐのだ!」とSNS等で声高に謳っている人が大勢います。

 

この反応を受けて、FIFAは「イスラエルチームの安全」及び「観客・大会運営上の安全」を担保することが難しいと判断したのではないかと言われています。

 

この決定が下される直前にはジョコウィ大統領から「政治とスポーツを混ぜて考えてはいけない。イスラエルが今回W杯でプレーすることはインドネシアとしてイスラエルを支持するのととは無関係だ」と会見で述べていましたが、時すでに遅し、FIFAは開催権の剥奪を決めました。

 

開催権剥奪の理由は果たして本当にイスラエル問題だけなのか?

 

ここからは他にも様々なソースで語られていることを紹介していきます。

 

イスラエルの問題が大きく取り沙汰され、中止の全ての原因がその一点に集約されているように報道されていますが、実はそのことだけではなく他の要因も積み重なっての開催権剥奪だと僕自身は考えています。

 

 

これはインドネシアの現役サッカー選手の投稿になりますが、「開催権が剥奪されたのは本当にイスラエル問題だけなのか?」と疑問を投げかけています。

 

本来、サッカーU-20W杯は2021年に開催される予定でした。

 

当然、当時は世界的に新型コロナウイルスのパンデミックに襲われていた時期ですから延期が決定したわけですが、この2年間でインフラを含めたスタジアム周りの改修、改善はほとんど行われませんでした。

 

FIFAが再三に渡って、スタジアムの安全性向上とスタジアムに辿り着くまでのインフラの整備を要請していたにも関わらず、リーグが中止になっていたことも含めて全くと言っていいほど動けなかった。

 

そこにきて2022年10月カンジュルハンの悲劇でのスタジアム内での100名以上の死者。インドネシアのスタジアムの安全性、警備体制、それを取り巻く環境が十分ではないことを露呈しました。

 

カンジュルハンの事件はその裁判が引き続き行われていますが、争点となっているのは「FIFAが全面的に禁止している催涙弾を警察が観客席に打ち込んだこと」ですが、

先日の判決で催涙弾は観客席に打ち込まれたものではなく、空に放ったものが風で流されて観客席に着弾したという耳を疑うような見解で2名の警察関係の容疑者が無罪となりました。

 

明らかに観客席に向かって打ち込まれているビデオがSNSには多数存在しているにも関わらずそれは証拠にならないと却下されています。

 

FIFAはこの事件以降、頻繁にインドネシアと連絡を取り、このプロセスももちろん調査しているのでこの流れを把握しています。

 

そして抽選会が3月31日に迫りながら、FIFAは繰り返しスタジアムやその周辺の実地調査を行っていました。

 

「記事タイトル:FIFA、U-20W杯2023のバリ、スラバヤ、ソロの会場を急いで調査」

 

この時期の調査は本来であれば最終確認程度で、細かいクオリティーの調査などは済んでいるはずなのですが、本当に開催可能かどうかをFIFAはギリギリまで現地で調査していました。

 

一部では2022年10月のカンジュルハン事件以降、スタジアムの安全性(特に出口や通路の幅やその導線)の強化を求められてきたインドネシアですが、FIFAが最終のチェックでこれが十分に満たされていないと判断したという噂もあります。

 

ともあれ、インドネシアでの開催権は剥奪されてしまったわけなので、予選を勝ち抜いていないインドネシア代表は開催国出場枠も剥奪され、出場が叶わなくなりました。

 

各選手たちがSNSにその心境を書き込んでおり、中にはイスラエル拒否を表明した州知事のSNSにコメント書き込んでいる選手もいます。「インドネシアの未来を潰す事があなたたちがやりたいことですか?」と。

 

FIFAはこのあとW杯開催を遂行できなかったインドネシアに何かしらの制裁を課すことを示唆しているので、最悪2026年のW杯予選にインドネシアが出場できない可能性もあります。

 

そうなると、いよいよインドネシアのサッカー界にとっては大きな痛手となります。インドネシアは以前にもサッカー協会への政治の介入で国際大会出場停止の処分を受けた事があり、また闇の時代に入ってしまわないか心配です。インドネシアサッカー界の未来になんとか光がまた灯ることを祈りたいです。

 

この後のFIFAの発表や、インドネシアサッカー協会(PSSI)会長Eric Thohir氏の会見を待ちましょう。

 

 

2024年インドネシア大統領選挙への影響

 

最後に今回のことが2024年の大統領選挙にも影響を与えるかもしれないね、という話を書いてこの記事を終わりたいと思います。

 

今回、声高に「イスラエル拒否」を訴えたのは上記の通り闘争民主党(PDIP)です。

 

その後、バリ島でのイスラエルの試合を拒否した州知事もPDIP。

 

闘争民主党としてはスカルノ大統領の意志を今も胸に灯し、インドネシアを引っ張り続けるという覚悟を示す「イスラエル拒否」表明だったように思います。

 

実際にこの「イスラエル拒否」に賛同している人も多く、スポーツと政治の混同はいけないが、「イスラエルを拒否」することには大賛成というのはSNSでもニュース記事についたコメントでも多く見られます。

 

そして現在、事前調査で大統領候補員最も近いとされているのが、現中部ジャワ州知事Ganjar Pranowo氏ですが、この方、闘争民主党(PDIP)なんですね。

 

昨晩にFIFAから開催権剥奪の報が出てから、今日までにGanjarさんのSNSには大量の批判・不平コメントが書き込まれています。

 

 

今までは市民に寄り添う心温かき知事として大人気を誇っていたGanjar氏ですが、ここにきてすでに「Ganjar拒否:#tolakGanjar」というハッシュタグも出回り始めました。


※これはtolakganjarのハッシュタグは付いていませんが、今回イスラエル拒否を表明した主な団体の名前が書かれていて、2024年2月14日にこいつらに投票しないことで仕返しをしようというTwitterでの投稿です。


闘争民主党(PDI-P)の熱狂的なファンはいて、その人たちはイスラエル拒否を支持してますが、同じくらい今回のことに腹を立てている国民はいて、今後人気にどう影響が出るかは見ものです。

 

インドネシアは国民の直接投票によって大統領が決まるので、感情的な要因に票が流されやすいという特徴があります。ここから2024年の大統領選挙までこのような駆け引きは幾度となく繰り返されるので心の準備が必要です。

 

というわけで、駆け足でまとめてきましたが、今回の事の顛末はだいたいこのような感じです。これから新たな情報が出てきたりすると思いますので、その際はまた続きを書ければとも思います。

 

長々と読んでいただき、ありがとうございました!

 

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それでは、今日があなたにとって昨日よりちょっとでもいい日になりますように。

 

ひろ。