GWに千葉県と埼玉県で、1日あたり1万人規模のフェスが行われた。
JAPAN JAMとビバラロックのことである。

一昨年、僕はこの2つの競合しているフェスに参加し、その魅力を伝えた記事を書いたが、その後コロナ禍になってしまい、半分くらい参考にならないものとなってしまった(笑)

VIVA LA ROCKとJAPAN JAM、それぞれの魅力

昨年軒並みフェスが中止になってしまい、満を持して行われるフェス、
であったが、コロナ禍における初の大規模フェスであることで、感染対策など、参加するにあたって様々なルールが設けられることとなった。
さらに厄介なことに、4月下旬に東京都に緊急事態宣言が出たこと、千葉県と埼玉県がまん防対象であること、定員の上限が5千人にも関わらず売り切ったチケットはOKということで特例で1万人が参加できること、など、状態が悪くなるときとも重なってしまい、多くの人に眉をひそめられても仕方がないような状態での開催になってしまったのであった。

しかし、それでも開催することを決断した背景には、昨年軒並みフェスが中止になり音楽業界、とりわけライブエンタメ業界が莫大な被害を被ったという背景がある。
それでもソーシャルディスタンスを保つなど工夫をして昨年夏から徐々に赤字覚悟でライブエンタメが再開しつつあり、どの公演も感染者を一切出していないと報告されており、これを信じるならば少しずつではあるがライブエンタメは新しい形で、異様ではあるが取り戻しつつある昨今の状況であった。

とはいえ、指定席を設けない「フェス」となれば、人のコントロールが難しいゆえ、全席指定席で映画館のように安心して見ることができるワンマンライブとは話が変わってくる。
昨年末のCOUTDOWN JAPANの、6日前、設営前に中止の決断があったことは記憶に新しい。
従来のフェスの「騒ぐ」というイメージが抜けきれないことも、フェスの開催が歓迎されない雰囲気を生んだ。
現にフェスファンからもフェスが好きだからこそやるべきではない、との声もあり、いくら運営側が「感染症対策を厳重に」とアナウンスしたところで、賛否の声は止まなかった。
しかし、音楽エンタメをこれ以上止めないためにも、音楽業界に携わるすべてのスタッフの仕事を守るためにも、運営は「批判を覚悟のうえで」「徹底した感染症対策を施したうえで」「客に徹底した理解と協力をアナウンスしたうえで」、JAMとビバラは予定した日程で行うことを決意し、突き進むことを決意したのだ。
(厳密にいえば1万人規模のフェスが初めてなだけで、昨年の大阪のラッシュボールという野外フェスや、屋内フェスのBAYCAMPも行われており、それらを参考にしたと聞いている)

 

コロナ禍のフェスとアリーナコンサートと、ストレス

 

 


ここまでが、開催に至るまでの、私が知る限りでの昨年からの流れである。

もうひとつ肝心なことは、JAMは千葉県と、ビバラは埼玉県と、念入りに行政とコミュニケーションを取り、行政の理解を得ている、ということである。
実際に両方のフェスは「1万枚を販売しても構わないが、まん防が出たらチケットの発売を停止する」という行政の要請を吞み込んでおり、実際に4月下旬に販売を停止している。
さらに、ビバラの話になるが「感染症対策の徹底」を行政に呼びかけられた際には「更なるレイアウトの見直し」等を行うなど対策を強化しており、初日に埼玉県職員を招待し評価していただいた(主催者鹿野氏談)、とのことである。


このように、ライブエンタメの苦境と成功体験の積み重ねの一年があり、行政とも緻密に話を詰めて、どのようにすれば安心安全なフェスを行うことができるかを必死で考え、参加者も例年より大幅に下げ、感染症対策も万全に行い、様々な方の理解を得ながら、時には批判されながらも、地道に「コロナ禍のフェスの成功」だけを考えてきた運営側だったのだ
運営の方の努力や苦労は、察するに余りある。
心から敬意を払いたい。

とはいえ、フラットに考えるのであれば、「このご時世にフェスへ行く」という批判をする人はいるであろう、とは思うし、その意見を否定するつもりもない。
一応運営側のフォローをするならば、JAMもビバラもリセールシステムが用意されており、直前に「行かない」という決断をすることもできるようになっていた。
「行く」も「行かない」も、フェス参加者に委ねられ、通常の心持ちとは違う、なんとも難しい心理状態で参加不参加を決めなければいけなかった。


さて。


フェス開催について、テレビ局各局にスタンスこそ違えど報道され、ネットニュースにも掲載されて波紋を呼んでいる。
僕はビバラの方に行ったのだが、その多くは千葉県のJAPAN JAMについての報道であった。
特に3日のテレビ朝日報道は、人ごみ、禁止されている飲酒、一部の映像を切り取り、あたかも「危険なイベントを行っている」かのような印象を与える内容で、それを真に受けた視聴者の怒りを買い、フェス参加者の反発を買ったのである。

 

 

 


僕はJAMの方には行ってないのだが、みんなルールを守り大声禁止、飲酒禁止、大抵の人がガイドラインを遵守し、安心して楽しめるものだったと聞いている。
ただ、この映像を見る限り「飲酒をしてる参加者がいた」のも、「人の動きが密になっているところもあった」のも事実であろう。
フェスの「人のコントロールが難しい」という弱点を、思いっきり突かれた形である。
この点については事実なのだから弁明のしようがなく、飲酒禁止ルールを破った参加者に対しては「怒り」の気持ちがある。
だが「密」については会場内の話ではなく行き帰りの人の動きのところであり、これが満員電車の人の動きとどちらのほうがより「密」なのか首を傾げるところがあり、危険性を盛った煽り報道だと言わざるを得ない。

フェス参加者の怒りを買ったのは、しっかりとしたところもフェアに報道しなかったから、というのが一番大きい。
JAMもビバラも同じである。運営側が定めたガイドラインを、ほとんどの人が順守し、安全に行われていたことを、参加者は身をもって知っている。
これは自分が行ったビバラの話になるが「大声禁止」「ソーシャルディスタンスの確保」「マスク着用」「分散入場と退場」、日本人はなんて民度が高いのだろうと感動を覚えるくらい、本当に守っているのだ。
運営は口を酸っぱくするほど言っていた「フェスの成功のためにはみなさんの協力が必要です」を、本当に実現していたのだ。


それを、


それを、、


ほんの一部の


ほんの一部の参加者のルール違反のせいで


ほんの一部の映像の切り取りで




フェスの実情を捻じ曲げられて、全国に伝えられたのだ。



あまりの偏向報道のひどさに怒り狂ったのは私だけではないはずだ。



数日が経過してようやく怒りも鎮まったところで、「フェスを悪者に仕立て上げたマスコミ許さない」とか「このテレビ局の番組はもう見ない」などと啖呵を切る前に、何故こんなことになったのか、を改めて考えてみた。
報道番組が、唐突に誰か、何かを悪者に仕立て上げて報道するのは、コロナ禍においては初めてではない。
それどころか、常態化しているのではないか、と思わずにはいられないのである。

思えば昨年2月の一斉自粛ムードの中、東京事変のコンサートが強行されたこと、3月に格闘技イベントが強行されたこと、パチンコ店の営業、まだ「緊急事態宣言」に関する法律が成立していない頃の話だが、メディアが報じ叩かれた。
今年に入ってからは、飲食店を狙い撃ちにした時短要請により主に要請を守らない飲食店がターゲットになり、最近では路上飲みをする若者、旅行する行楽地の人出の多さ、などをカメラは映して報道してきた。
妙な気味の悪さを感じているのは私だけではないはずだ。

コロナ禍では、飲食業界や観光業界、イベント業界など、人が利用してくれなければ成立しない。
昨年は自粛していたがもう我慢の限界、として国や自治体の要請を無視して営業する人たちに向けて、特に何も意見を述べることなどできない。

ところがマスコミはその苦境(報じることもあるが)よりも、国の要請を破っている人たちを探して報道する。
「自粛警察」という言葉が定着しているが、それをテレビが率先している状態である。
だからマスコミは、「危なそうなところ」を探してはそこに赴きカメラを向け、モザイクをかけてインタビューをする、これが昨今のマスコミ報道の特徴である。
そのようなセンセーショナルな印象報道は困ったことに視聴率が良いらしく、テレビ局の成功体験になってしまい、「報道」という大義名分のもとこれからもおそらく続いていくに違いない、残念ながら。


これがたまたま「1万人規模のフェス」というインパクトのあるイベントがターゲットになっただけである。
何もマスコミがコロナ禍のフェス「だけを」悪いように報道しているわけではないと、思う。
胸糞悪い気分に確かにさせられたが、どこかの誰かを悪者に仕立て上げる報道は今日も明日からも、続くことは間違いない
マスコミに改善を期待するのは諦めた方がよさそうである。
それほどまでに、マスコミは劣化、迷走していると言わざるを得ない。



最後に、それを受けて僕はどう思っているか、について述べておきたい。
まず、医療従事者の方は大変なご苦労をなさっていると思うし、感謝してもしきれないくらいだ。
いっぽうで、飲食業や観光業、そしてイベント業など、コロナ禍で莫大な損害を被った方々については、とても気の毒な気持ちでいっぱいだ。
学生の方も、青春時代の貴重な数年、我慢を強いられるなんて、本当に気の毒だと感じている。

と、一応本当に思ってみたことを書いてみるが、「感謝」「気の毒」など本当に軽い言葉だな、と自戒する
なぜなら、自分や身内や親しい人に、医療従事者や、飲食業や観光業やイベント業に携わっている人がおらず、どんなに思いやっても所詮「他人事」との自覚があるからだ。
とある立場なら、もしかしたら僕が行ったフェス開催について、あるいは僕を含むフェス参加者に対して、怒りを覚えることも、あったかもしれない。


だったら、、、



僕は、あらゆる業種の動きについて、


自分と関係がない業界のことは意見を持たない



ようにすることとしている。
ある業界のことを思いやった意見が、別の業界を傷つける、これがコロナ禍の社会であることに気づいてしまったからだ。
だとしたらどうすればいいだろう?と思ったときに、




わからない、


わからないけど、



まずは自分とその周りが気を付けること



あらゆる人や業界を切り捨てる意識を持たないこと






そのくらいしかないのだろう、未曽有のパンデミックの下では。
それでも僕は感染症に気を付けながらコンサートに足を運んだりするだろう。
それを発信することで怒りを買われることもあるかもしれないが、もう八方美人ではいられないのだ。

政治やマスコミに怒り続けるよりも、自分が大好きな音楽を愛し続け、それを守ってくれるライブイベント業界の人への感謝をし続ける方が、よほど大切なことだ。




最後に。




フェスを開催してくださった運営の方々のみなさん、本当にありがとうございました。




これからもたくさんお世話になります。




音楽を届ける場所を、守ってください。微力ながら力になれることがあれば、おっしゃってください。






以上、ビバラロック2日と5日に参加した、音楽好きより。