今回はこの前の続きの話なのであらすじはありません。
第6話 悲傷と憎悪③
すると次のページには、グ ロテスクでエ グイ絵が載せ
られていた。
人間とは思えない形相に、異様に奇形した姿。
呪いの恐怖と苦痛を絶望にたち、叫ぶ人間の姿。
それはもう人間ではなくて・・・まるで・・・怪物・・・。
「うっ・・・」
気持ち悪い・・・吐き気をもよおした俺は、本を机に置いてその場にしゃがみ込む。
どうなってるんだ。以前はこんなグ ロテスクな絵なんて、どのページにも載っていなかったのに。
「ちょっとした発想の転換から生まれた・・・呪術・・・」
不信感を抱く俺におかまいなしに、本は儀式の説明を続ける。
「その名は腐怨術・・・人を腐らせもがき苦しめる呪術・・・」
腐・・・怨術・・・立ち上がった俺はもう一度本を手に取り、ページに目を通しながら読み上げる。
「藁人形を使った高度な呪術。釘を打ち付ける代わりに、その怨みの念で腐らせる・・・」
読み上げている途中であることに気づき、そこで口をつぐんだ。
これって・・・藁人形を使って心臓を突くか腐らせるかの差だけで、普通の丑の刻参りを変わらないだろ。
確かに ゛腐らせる呪い゛ なんて聞いたこともない儀式だが、所詮は丑の刻参りだ。
何度も言うが、それじゃあ相手は死なないのだろ・・・。
もしかして、俺はからかわれていたのか・・・ボロボロの本のクセに人間を馬鹿にしやがって。
「俺、忙しいから」
くだらない無駄話で、貴重な時間を使ってしまった。苛立ちと後悔を覚え、俺は本を閉じようとする。
「藁人形ごときじゃあ・・・そんなもんさ・・・」
それでも本は無理やり次のページを捲ってみせる。
「藁じゃない・・・別のものを使うんだよ・・・」
藁人形じゃないその儀式・・・こいつは、そんなに俺に呪いを押し売りしたいのか。
仕方なく話を聞く俺の前に開かれたのは、先程よりも数倍恐ろしい絵が載せられたページだった。
人間の腐った様子が事細かに説明され、それは何度見てもおぞましいものだ。
「藁も板も・・・わざわざヒトガタにして、怨みのある相手に見立てていただろう・・・?」
できれば、二度とそういう気持ち悪い部分には触れたくなかった。
でも本が強いるので、俺は恐る恐るページを覗き込む。
「あんな空の器を使うより・・・何十倍も威力発揮する ゛生きた器゛ がある・・・」
そこにはグ ロテスクな絵以上に、陰湿で冷酷な内容が記されていて、再度恐怖する。
「人間は、それを家族にたとえたりもする・・・あるモノ・・・」
本が俺に記した、新たな儀式の方法・・・それは・・・。
「その手の・・・指を使うんだ・・・」
その名も腐指怨術・・・藁人形では効き目が薄い呪術を、何者かが改良した新しい儀式。
「儀式が成功すれば・・・確実に恨人は死ぬ・・・」
そう、死ぬ。それはそれは恐ろしい呪いによって。
惨たらしい呪いによって、絵のごとく死ぬ。
そう考えただけでも、悪感で背筋がゾクッとする。
こんな恐ろしいモノが、この世に存在する何て。
俺は吐き気に堪えながら急いで本を閉じ、机の引き出しに押し込む。
・・・見てはいけないものを見てしまった。
恐怖から・・・本から逃げるように、慌てて部屋を後にする。
俺は困惑する頭を必死に宥める。
見なかったことにしよう、知らなかったことにしよう。
人を怨む方法なんて、人を呪う方法なんて、殺め方なんて覚えてはいけないんだ。
廊下を早足で歩く。俺の心は醜く動揺し恐怖に駆けられた。
「あんな危険な本・・・」
明日にでも図書館へ返しに・・・いいや、破いて燃やして消してしまおう。
「消えてやるよ・・・言われなくても」
俺の心の声への返答が聞こえてきて、驚いて足を止めた。
そこは仏間の前。
まさかと思いながらも、扉の影から恐る恐る仏間の中を確認する。
「愁真・・・オマエに道を示したらな」
すると、仏壇の親父の遺骨の前に、堂々と居座るあの本を見つけた。
「なんでそんなところに・・・」
確かに机の引き出しに押し込んだはずなのに。
わけもわからず困惑する俺に、本は話しかけてくるんだ。
「怨んでも怨みきれない・・・お前がそう言ったんだろ?」
あいつらは怨んでも怨んでも・・・怨みきれない・・・。
それは俺が心の奥底で思っていた言葉。
絶対に考えてはいけない恐ろしい感情。
「そんなことは言っていない!!」
俺はそんなふうには思っていない。
本のほうへ駆け寄り、慌てて否定する。
その姿を見て笑う本を、俺は掴んで畳に叩きつける。
「思っていない!! 人を殺したいなんて・・・思っていない!!」
ただただ必死になって叫ぶ俺に、本は言うんだ。
「親父さんの最後・・・惨かったよな・・・」
まるですべてを見ていたかのように。
「顔も体も・・・原形を留めてなかったもんな」
あの日の光景を、何もかも見ていたかのように。
親父がどんな最後をつげてどれほど無念だったかを、全部知っているような口調で言うんだ。
「あれじゃ・・・焼けた肉の塊だな」
その言葉を聞いた瞬間、自分の頭の中で線が切れるようなピンッと言う音がした。
同時に心の底に押し込めていた感情が、記憶が一気に噴き出してくる。
全身がわなわなと震えて抑えられず、困惑する頭と心の中に何度も響いてくるその言葉。
そう・・・焼けた肉の塊だったんだ・・・。
第6話 悲傷と憎悪③ 完 ~ 次回 悲傷と憎悪④ に続く