○ちょっと長いですが、小説です
名前は仮名です。









ヒロキは言った




彼の遠回しのプロポーズ






何年か前にも、喧嘩するたびに
私が癇癪を起こしこの恋に終わりを告げていた。

最初は強気でいて、どこか俺様な彼に
私は翻弄されていた。
いわゆる自己中タイプで、散々振り回されていたのだ。


その頃は、私が彼を好きな気持ちが大きくて、多分嫌われたくなくて、言うことを聞いていたのだろう。



人間というものは、日々変わっていくものだ。
そんな風に私が甘やかしていたせいで、彼はどんどん付け上がっていった。


そして私は、客観的に自分を見つめて見る事を学んだ。
このままでいいわけない。
何か変だ…私は何をやっているのか?
これじゃあ、ただの都合のいい女じゃないか?



*****




ある日私は意を決した。
彼と約束していた日に、敢えて一人で街に出た。
もちろん、わざわざ彼にその事を電話で伝えて、勝負に出たのだ。



いつもいつも、彼のやりたいことに
合わせていた。
でも私にだって、やりたいことはある。
だったら思うように、気の向くまま
行動してみよう!



「もしもし、今日はね、待ち呑みしない?」


「は?なんでだ?」


「なんか、そうゆう気分なの」


「………」



しばらくして、彼は口を開いた。


「オレは行かないぞ」


「どうして?」


「帰り、一人で電車に乗れない」


「電車に乗れない?…ふっ。何言ってんの?」


「とにかく行かないからな!」


彼はそう言って口を噤んで
何もその後話そうとしなかった。


ちょうどその時、電車が来た。


「あ、電車来たから…じゃ、
行ってくるねー♪」


と言い電話を切った。



私はたまには一人でいたかった。
いや、本当は一緒に街へ行きたかった。



駅で待ち合わせをして
ふらっと立ち寄った店で
さらっと呑む。



時間が来たらそこで
バイバイ。



そんなデートもしてみたかった。



彼のいう「電車に乗れない」という言葉は、
乗れないのではなく
一人で乗りたくない
という意味と解釈した。



普段から電車に乗る生活をしていなくて
車移動ばかりの人。

乗り換えも含めて、彼の家から街までは
一時間ほどかかる。
酔っ払ってしまったら、帰りの電車で
不安なんだろう。

それに、わざわざ電車に乗ることも
面倒なんだろう。


そんなことはわかってる。


だけど、もういい。
そんなこと知らない。



私は強行突破した。
ふらりと立ち寄ったお店の暖簾をくぐり
カウンターでロックグラスを傾けた。


グラスの中で溶け出す氷が
カランと音を立てて
少しずつ溶けていく。
と、同時に、今までのことが頭の中でグルグル回る。

そして三杯目をゆっくりと口に付けた時
マナーモードの携帯がブルブル鳴った。




きっと彼だ。
おそらく家で不貞腐れながら
ビールでも呑んでいるんだろう。




一回目はスルー。


15回ほどなって切れた。


再びまたブルブル。
もー!何なのよ!しつこい
でも、何て言って出ようか?
一瞬だけ考えたけど、


「もしもしぃ〜♪」


楽しげに呑んでる風を装って
ちょっとばかりハイトーン。



「…何してるんだ?」


低ーい冷ややかな声…。


「〇〇ってお店で呑んでるよ♪」


別に悪いことをしているわけじゃない。
たまには、私だって、こうゆう事してみたい。一緒に行こうと誘ったのに、彼は断った。
だから一人でやりたいことをしてるだけ。



そんな風に思っていたけど
予想外の言葉が返って来た。



「早く帰って来い」



「…え?…な、なんで?」



「いいから、早く帰って来い」



怒ったような口調で
しかも命令形。



そこに私はムカついた。



「何?なんで命令するわけ??
私、黙って呑みに行ってないじゃん?!
来て〜って誘ったのに、断ったのはヒロキじゃん。」


「…〇〇駅近くの公園で待ってる」



いつもそうだ。
答えたくないことには答えない。
ヒロキはすぐ話を変える。
そして、自分の言いたい事だけを言う。



「も〜…。とにかく今これ呑んでるから。呑んだら出る」


チッ!と思いながら
ほとんど原液のままのお酒を
一気に飲み干すと
お勘定をして、店を後にした。



本当のところ
お酒はそんなに強くはない。


このぐらいでやめたほうがいいのも
わかっていた。
ほろ酔い気分で駅の階段を降りていき
帰りの切符を買う。



地元の駅の改札を出て、少し歩くと公園がある。
小雨がパラパラ降っていたけど
彼の車はすぐにわかった。



すると電話が鳴った。



「何?わたし、もう帰るけど」



「ちょっとこっちへ来い」



はぁー?もう何なのよ!
用があるならそっちが来いよ!

ホントにいちいち腹が立つ。
助手席のドアを開けてムスッとした顔で乗り込む。


「5分しか時間ないから」



こうなったら宣戦布告だ。
そっちがそうなら、こっちも戦闘モード!



唇を噛み締める私に


「なんでだ?    なんでこんな事するんだ?」


と聞いてきた。



「あのさ、やっぱりどう考えても
おかしいと思うの。

いつも私ばっかりが、ヒロキの家まで行くって事が。
そこそこ離れてるんだから、せめて真ん中辺りで待ち合わすとか
たまには街デートとかしてみたかった。
私、運転苦手なんだよ。
すっごい緊張するし、下手だから疲れるもん。やっぱりできれば迎えに来てもらいたい。
それが嫌だっていうなら、もう無理。」





「俺を一人にしないでくれ」



「え?……」



「俺には、必要だから」




あんなに偉そうで俺様なヒロキが
こんな事言うなんて意外だった。



嬉しいはずなのに素直になれない。

もうこれは愛情なのか?
ただの情なのかさえもわからなくなっていた。


どれだけ懇願されても
その日の私は苛立っていて
胸がムシャクシャして
もし猫なら思いっきり爪とぎしたい気分だった。





幾度とない山を乗り越え
壁にぶち当たるたびに
苦しくなって泣き叫ぶ


こんなに辛いのはもういやだ
もう私のことなんて
放っておいて!


そう言いながらも
放っておいて欲しくなんかない
本当はもっと愛して欲しかった。


ありきたりでもいい
ちゃんと言葉で伝えて欲しかったのだ。


言わなくてもわかるだろうという
思い込みは、私には伝わらない。
言ってくれないと、不安で
胸が押しつぶされそうに感じる。



そして今、
、、、



その言葉がやっと聞けたのに
すごく嬉しいはずなのに
流れてくる涙の理由がわからずにいた。