近日中に、地図帳を買うことにした。視力の衰えが肉眼でもはっきりととらえる事が可能な程加速度的に進行しつつある現状において、地図帳を購入するという胸ときめく行為からめっきり遠ざかってしまっていたのだが、ある書店の1000円オフクーポン券を有効期限内に使用する必要があることから何が最適か思案したところ、地図帳の更新を思いついたのだ。
現代社会においては、常に最新の情報を得られるスマホの地図アプリで十分なのかもしれない。しかし、あくまでも個人的な感想として、地図帳を開くとアプリにはない不思議な味わいと香りが目の前そして心の中いっぱいに広がるのだ。決して、地図アプリが劣っているということではないのだが、見ていて楽しくかつ空想の世界が無限に広がるのは、おそらく圧倒的に地図帳のほうなのである。
今回購入する予定の地図帳は、高校生が学校の授業で使用するような世界地図である。今自分が愛用している世界地図は1990年代に出版されたものであるため、国や地域も変わっているし、細かいところを言うと地形もかなり変化している。例えば、世界最大の湖であるカスピ海の東側に、かつてはアラル海という広さベストテン内にも入る大きい湖が存在していたのだが、現在は殆ど消失してしまった。また、塩分が極めて高濃度のため体がプカプカ浮いてしまうことで有名な死海の面積も、以前と比較してみるとぐっと縮小している。それらの理由についてはこの場で記すことを控えるが、事実は事実として素直に受け止めつつ、地図帳に広がる夢と空想の世界を、胸ときめかせ大きく翼はためかせながら、心ゆくまで存分に旅したいと考えている。
さて、当該地図帳売買仮契約から約1時間前のことである。我々家族一同は、先日の日曜日に、JR宇都宮駅ビル「パセオ」のテナントとして入居している飲食店「餃子といえば芭莉龍(バリロンと読む 以下カタカナ表記とする)」で昼食を楽しんだ。うちのカミさんが駅前大型商業施設トナリエに時間厳守の用事が入っていたことと、家族3人共通の好物は餃子であるという2つの致命的な理由から、この日の昼食にはバリロンが候補に挙がったのだった。
駅に着いて、うちのカミさんの案内に従って後ろからヒタヒタと歩調を合わせてついていくと、不意にカミさんの足がピタリと停まった。そして、「ここだよ」と、おしゃれで颯爽としたカフェのような店の前を指差した。えっ?と、一瞬、我が目を疑った。

突然の不意討ちに若干および腰で中に入ると、内装には宇都宮名産の大谷石(おおやいし)がふんだんに使用されていて、とても餃子専門店とは思えない洗練された外観だった。既に食べる前から激しくうろたえつつ、恐る恐る手書きのイラストがリアルに描かれているA4縦型のメニュー表をのぞき込んでみた。すると、焼き餃子の他に、様々な餡が内蔵された水餃子や、エキゾチックな興味をそそられて止まないフォーなどもラインナップされていることが分かった。普段口にしないフォーにも気持ちが傾いたが、セットメニューのご飯は大盛無料であるという有力な情報が決め手となって、今回は焼き餃子セットで勝負に打って出た。この焼き餃子セットというのは、大房の焼き餃子が6房とご飯と中華スープで構成されているのだが、さらに200円を加算することで好みの水餃子を2房食べることができる。一房当たり100円の投資が、はたして高額か妥当なところか検証する必要があったため、調査することを美男美女だらけのスタッフ達には告げずに頼むこととした。注文してから10数分後、件の水餃子が、続いてセットメニュー達が後を追いかけてテーブルに敷きつめられた。

