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ヒロポタンの足跡

これは、気まぐれヒロポタンのたどった足跡(主に飲食系 その他諸々)を忠実に、そして、写実的でありながらも叙情的な文章で綴った、臨場感溢れる心温まる手記です。

 幸先は、決して良いとは言えない始まりだった…。

 我々調査員は、先日の大型連休を活用して、栃木県北部の観光商業都市である那須塩原市へ、1泊2日で非公開により温泉宿泊施設利用状況調査を実施した。なお、巷の評価を冷静に分析する必要があり、適正な判断力を長時間にわたって維持しなければならないことから、我々はスタミナをつけるべく初日の昼食会場を中華系レストラン「上海小町」に狙いを定めた。しかし、ほぼ定刻どおり順調に到着したところ、よりにも寄って臨時休暇により、鮮やかに門前払いを食ってしまったのだ。もし、ここですんなり来店を果たせば、家族での利用は通算2度目になる筈であったのに…。なお、個人的には更にそれ以前にも当時の仕事仲間と入店した実績があったので4回目になる筈でもあった。

 件の上海小町は、「困った時の小町だのみ」の言葉が示すとおり、味の良さはもとより盛りの良さにおいても、一部のコアな支持者から一定の評価を得ている栃木県東部地域における優良な食事処なのである。今回も久しぶりに小町のシャレた中華メシを味わいたかったのだったが、敢えなくフラれた格好となった。

 この状況にうちのカミさんも酷く失望し、急きょ調査車内において打ち合わせをした結果、次善の策として浮上したのが、那珂川町馬頭(「ばとう」と読む)地区の中心部に小さく佇む「レストラン道」だった。レストラン道は、同じく県東地域において本格的な洋食の味を存分に味わうことが可能な個人経営の小さな店舗で、町内外の食通から絶大な支持を得ている珠玉の洋食店なのである。我々は再び失恋レストランの扉を開かないよう、今度は行く前に営業の有無を確認して、気を取り直して小一時間ほどかけてレストラン道へと車を走らせた。

 自宅を出発した時は晴天に恵まれ絶好の調査日和だったのだが、気がつけば、上空は所々オドロオドロした暗雲に覆われていた。ラジオを聴きながら那珂川町へ向かうにつれて、時折、「ガガッ!」とノイズが入るようになった。発雷を示していた。我々はまたしても、フラれる事を覚悟した。

 レストラン道の店内に入ったと同時に、轟く雷鳴を伴って大粒の雨が降り出した。瞬く間に路面が水溜まりと化すと、やがて、ひんやりとした突風とともに米粒ほどの雹まで落ちてくる何とも激しい気象にまで発展した。



 寒さに身を震わせながら外の様子を玄関の中から眺めていること約20分。着席の案内が我々の耳に優しく届いた。自称雑食系男子の自分は、刺激を求めてカツカレーライスを、魚食男子のワガコは懐かしさ漂うミックスピザを、乳食女子と思われるうちのカミさんはハンバーグプレートを注文した。


 なお、魚食系のワガコらしく、ピザに含まれていたマッシュルームは皿の片隅にそっと寄せて、目測にしておよそ直径15センチメートル大のピザをほぼペロリと平らげた。
 激しい雷雨のトンネルをもがくように走り抜けて、クイーンの名曲の数々をドライブのお供に我々が次に目指したのは、たとえ満腹でも美味の感覚を得られる「くれーぷばる 千」という、栃木県北部屈指の有名クレープショップだった。到着時、それを実証するかのように、アイドリングタイムにもかかわらず店の周囲は家族連れやカップル等で賑わいを見せていた。


 既に雨は上がり、濡れた路面が、まるで星屑をちりばめたように、雲の切れ間から差し込む西陽でキラキラと眩しい輝きを放っていた。
 1泊2日のささやかな宿泊調査は雨ふりから始まったが、翌日の晴れやかなドライブの展開を信じて、後部座席から聞こえるすやすやとした寝息を耳の奥で楽しみながら、ハンドルを雲の切れ間の先にある宿の方へ静かに向けた。
 路面に輝く星屑をよけて…。