ヒロポタンの足跡 -10ページ目

ヒロポタンの足跡

これは、気まぐれヒロポタンのたどった足跡(主に飲食系 その他諸々)を忠実に、そして、写実的でありながらも叙情的な文章で綴った、臨場感溢れる心温まる手記です。

 リビングの照明をつけた。気にもしなかった、カーテンの緩やかなひだ。木工細工でできた、時計の振り子。赤マジックで書き込まれた、文字だけの無機質なカレンダー。無造作に放り投げられているティッシュボックス…。見慣れた光景に、不思議な懐かしさを感じる。

 軋んだ肩に深くめり込んだバッグをフロアにゴトッとおろした。今までこの身体の相談役になってくれていたソファが、「おかえり」と、フワリ包み込んでくれた。

 時を忘れて、無我夢中で通り過ぎていった業務上多忙の日々は、ようやっとピークを越えつつある。まだまだ以前のように情感を込めた文章を紡ぐエネルギーは戻ってきていないが、空腹感というこれまた懐かしい欲求を満たすため、とりあえず、自宅からほど近い「すき家」へ、ゆっくりと歩きながら食べに行った。

 テイクアウトの人集りをかき分けて、空席の目立つカウンターに独り腰を落ち着けた。テーブルの左右には仕切り板が設けられているので、やや狭さを感じつつも、誰からも邪魔されない自分だけの空間が確保されていたことは、今の自分には嬉しかった。パネルで注文を済ませ、目を閉じて、いつの間にか置かれていた麦茶をこれまでの一週間の出来事と一緒にゴクリと一口飲んだ。



 紅ショウガの酸味を多めに加えて、甘辛い並盛の牛丼を無心にひたすら食べ続けた。

 すき家からの帰り道。ゆっくりとした歩調で、てっぺんに広がる夜空に向かって、「ただいま」と呟いた。