4月30日午後5時をもって、遂に我が身にも黄金週間の始まりを示す重い扉がギーッと開かれた。職場を出て通勤用に使っている自家用車に乗ったと同時に、つい魔が差して「やったー!」と車内で絶叫した。次回の仕事着手時間から最も遠いところに居るのだと思ったら、あまりにも嬉しい気分になって、絶叫したい!という魂の疼きを通常の理性ではもはや抑えられなくなってしまったのだ。このハイな昂揚感は帰宅しても低下することなく、この日強制的に利用せざるを得なかったココスにおいて、生ビール中ジョッキーを力強く注文するに至った。…まあ、一応、念のため、うちのカミさんには発動許可を得た上での事だが…。
ここで言う強制的利用とはどういう事かというと、この日で有効期限を迎えてしまう500円オフクーポン券を所持していたことによる、自炊も含め他の飲食店の選択をも許されない絶対的かつ義務的利用の事である。例え満腹状態であってもココス側との口頭による請負契約を締結して、その請負額の一部に500円オフクーポン券を補填しなければならない。金銭と同等の価値があるクーポン券をみすみす無駄な紙クズに変えてはいけないのだ。
そんな使命感を心に抱いて、青天を衝く勢いでココスの扉をギーッと開けた。

さて、各自好きなモノを注文依頼したあと、意を決して、「生ビールの中ジョッキーをお願いします」と、顔を端末機にぐっと近寄らせて操作している若いウエイトレスさんに向かって、メニューを指差しながら一つ一つの言葉をゆっくりとした口調で丁寧に伝えた。その熱い思いが伝わったのか、ウエイトレスさんは注文品を確認した後ひらりと身体を反転し、早々に厨房の奥へと消え去っていった。
藍から黒へ刻々と変化していく窓の外を眺めているうちに、見るからに冷たそうな生ビール中ジョッキーが目の前にコトリと静かに音を立てて置かれた。程なくして、他の注文品も次々と到着した。腰に左手を当て、「よし!」と気合いを入れてゴクリと一口呑んでみた。おもむろにそっと目蓋を閉じ、ここ数日続いた激務の一部始終を振り返った。目蓋の後ろ側に下ろされたスクリーンに、仕事のあんなコトやこんなコトが、ダイジェスト版のサイレント映画となって、カタカタカタ…と映し出されていった…。

あとは、一気に飲み干した。高濃度のアルコール成分を含んだ液体が、空腹状態の消化器系を直に刺激した。一足飛びに酔いが全身にまわり、体は宙に浮いた。このまま、無重力の遊泳を気持ちの趣くまま愉しんだ。もしかしたら、知る人ぞ知る名もなき幻の宇宙飛行士になれるかもしれない…。

ガガーリンの次に出てくる歴史に名を残す世界的宇宙飛行士の名は、ヒロポタンかもしれない…。そんな夢見心地の酔いにココロを浸して、その一方で、身体の運搬はうちのカミさんに委ねて、しばしの間、静かに目を閉じた。