駅の広い構内を通り抜けて、東口に降り立った。見上げると、どこまでも澄みきった典型的な冬の青空が広がっていた。自分も、晴れやかな気分で無事ゴールした。それから、その約10分後に、3連休をゲームアプリやユーチューブで謳歌したかったであろう筈のバラ色の予定を大幅に狂わされ、あろう事か学習塾で授業を受ける身になってしまった憐れな我が子が塾の玄関前に姿を現した。その姿と顔の表情は重い疲労感に満ちあふれていた。「お疲れさん!」と、彼の小さくも頑張ってきた肩をポンと軽く叩き、ウチのカミさんが待つ車へ誘導した。なお、記憶の片隅にあった件の塾の程近くにひっそりと佇む小さなパン屋さんは、案の定、カーテンが閉められていた。残念ながらこのパン屋とは縁が無かったのだと気持ちをあっさり切り替えたが、思えばドンクで買っておいて本当に良かったと、ホッと胸を撫でおろした。
必要最小限の用事を済ませ、帰宅したのはカーテンの隙間から西陽射し込む午後3時過ぎ。さて、いよいよ、これより購入した3つのパンの切断面をじっくりと入念に観察すべく、猟奇的お楽しみの時間を迎えた。衛生上その身に纏っていた最後の砦ともいえる半透明の袋を無造作に引きちぎると、生まれたままの艶かしい素肌が否応なく露出した。恥じらう表情も見せず、むしろ切断されることを待ち望んでいるかのように、じっと宙を見つめながら柔和な微笑みを浮かべていた。それはまるで、「いつでも、スキにしていいのよ」と官能的に誘っているかのようにすら錯覚した。その誘いに導かれ、生唾を飲み込みながら強く包丁を握り締めた。鈍い光りを放った刃の尖端が、キュッと微かな音を立てて、小麦色に輝く素肌の奥深くへゆっくり沈み込んでいった。一つ、また、一つと、切断は時間をかけて丁寧に進められた。そして、ついに…。
ウチの子は既に満腹状態だったため、購入したパンはウチのカミさんと分け合って食べることにした。
慎ましくも長いようで短かった半日足らずの孤独なパン旅に、「ごちそうさま」の一言を付け加えて、小さく終止符を打った。


