すこしメモ書きレベルで、TMOの新テクノロジーについて。
よい子が注目する今週末のリーグワンファイナルでは、最新のNTTグループの通信システムを利用した〝ジャッジ〟が導入される。これは、従来導入されてきたTMOを、一拠点と各会場を繋いでリモートで行われるように変更したもので、日曜日の国立競技場でのゲームで初めて実施される。
要するに、TMOを試合会場ではなく、一か所の拠点で担当者が映像解析することになる。すでにFIFAワールドカップで観たシステムに似たものだ。例年のラグビーの方の祭典でも導入される。今回は、この「一拠点での管理」とNTT側の「新規通信技術」という2点がトピックスなわけだが、ブリーフィングは後者のNTT側に配慮したものになっていた。
NTTおよびNTTドコモが持つIOWNとい最新の高速通信システムをTMOに活用するということだが、かなりの高速通信で、現在、試合中継などで感じられる映像再生のタイムラグがほとんどなく、ほぼライブで視聴出来るという。極論すれば、理論上ではシドニーでの画像が、今回もTMO基地となる大手町でもラグなしでということのようだ。従来の国内TMOのジャッジに見られがちな遅延、もたつき感が大幅に解消されるという。
まぁ、実際に決勝で、どこまでスムーズなビデオ検証がなされるか、お手並み拝見というところだが、少々疑念、課題もあると感じている。
この日行われたブリーフィングで、リーグ側はTMOに求められる人員などのコスト抑制や画像通信速度の改善による時間短縮などをメリットに挙げている。確かに指摘通り、一拠点で集中的に管理することでの人員のコンパクト化、通信クオリティーの進化によるメリットはあるのだろう。だが、ブリーフィングを聞いていて感じるのは、本来、一番重要なのはTMOに依存するジャッジ、そしてTMOによるゲームの中断、遅延をどこまで減らしていけるかだということだ。
今回のブリーフィングの趣旨からすれば、TMOの介入の是非を問うものでもなければ、新規方式が介入回数にどう影響するかを問うものではない。だが、しかし、観る側やプレーする側に、どんな恩恵、もしかしたら損失があるのかを考えると、TMOがどこまで行われるかは大きな問題だ(TMOを見慣れて「有る無し」が問題だと感じない方々もいるだろうが…)。
確かに、現状のリーグワンを観ていて、TMO:0回というゲームがどれだけあるのかを考えれば、現実的ではないかも知れない。TMOが導入されていない大学や高校の公式戦を観ても、際どいジャッジには「TMOがあれば…」と思い至るケースも少なくない。だが、それでも、シーズン毎に常套化する、あのレフェリーがテレビモニターを示す両手で描く四角い枠のジェスチャーが、プレーの流動性、継続性といったラグビーだからこその醍醐味をかなり奪い去ろうとしているように思えてならない。
野球やアメフトのようなアメリカンスポーツは、攻守が入れ替わるなど、試合を寸断しながら、テレビ中継用のCM時間を作り、現地の会場でもビール購入や生理現象を解消することに役立てている。他の競技でも〝ピリオド〟を設け、増やすことにより、ゲームを切り刻む作業に余念がない。
だが、ヨーロッパ起源のスポーツにありがちな、先にも書いたゲームの流動性や継続性の中に、それぞれの競技が持つゲーム性、戦略性が構築されることを踏まえれば、自ら進んで自分たちの競技を細切れの80分、90分にすることは慎重であるべきだ。何故なら、刻々と、尚且つ継続的なゲーム展開の流れの中にラグビーやサッカーといったスポーツの醍醐味やカタルシスがあるからだ。個人的には「ここをアメリカンスポーツに倣ってどうするのよ」と突っ込みたくなる。
レフェリーの試合中の振る舞いに触れておくと、スーパーラグビーや6か国対抗と比べても、リーグワンは統計上はTMOが極端には多くないし、むしろ少ないケースもあるとは聞いているが、実際に試合を視聴すると、海外のトップレベルの試合を担うレフェリーが、自分のジャッジで笛を吹こうとしている意識は高い。トライシーン等をみても、よほどの視認困難な状況以外は、断固として自分のジャッジを貫いている。勿論、日本の幾人かのレフも、自分での視認を尊重している。
そろそろ、競技団体や大会運営者は、「こんなすごいテクノロジーが導入されます」という発想から、「この競技ならではの特性や魅力をより高めるためにどんなテクノロジーが役立つか(又は、高めるためにどんなテクノロジーはいらないか)」というアプローチで物事を判断する時代に入っていけないのか。勿論、関係者が後者の考え方を否定しているとは考えていない。だが、〝最初に在りき〟は、テクノロジーではなく競技性、競技特性だというスタンスは、この先もブレてはいけない掟のようなものだ。
ブリーフィングで説明されたコストを含めた効率化も、もうすこし詰めた議論、検証が必要かも知れない。説明をさらに掘り下げて聞くと、実際のTMOのオペレーションにかかる人員は、従来とそう大きく変わらない。何故なら、1試合に必要なTMO要員は、この新システムでも受け持つのは1試合のみだからだ。同時に2試合、3試合を兼業で受け持つことは有り得ないのだ。ご存知のように、リーグワンの場合は、ほぼ同時刻で開催される試合がかなりの量に上る。スーパーラグビーなら、キックオフ時間をずらして、1試合が終われば別会場の他のカードがキックオフを迎える流れだが、この国では12時、14時、14時30分あたりでスタートするのが相場になっている。なので、ほぼ同時で試合があれば、TMO要員もそれぞれの試合に、それぞれの人数が必要になるのだ。
勿論、NTT側の技術に関しては間違いなくプラスの恩恵はあるだろう。だが、画像を繰り返してプレーや反則を審議する作業については、課題になるのはむしろ、TMO担当者と画像を操作するオペレーターのやり取りの迅速化が大きな課題なのは間違いない。このエリアの問題点は、過去に上げたぶろぐおよびコラムでも触れている。
分析のための映像は基本的には中継するJスポーツの撮ったものが「公式映像」として使われ、動画再生のオペレーションも同社のスタッフだ。ブリーフィング時にJスポーツ関係者は「担当者の技術アップにも取り組んでいる」と説明してくれたが、ラグビーだけに特化しているわけじゃないスタッフも多い中で、なかなか難しい部分があるのは否定できない。
いずれにせよ、改善が求められるとしたら、ピッチ上のレフェリーがTMOの介入を求めてから、最終ジャッジが下されるまでの時間をどこまで短縮できるかだ。そこに付随する課題としては、画像分析が多角的に行われるためのムービーカメラの台数を、さらに充実させていくことだろう。試合によっては、観るべきシーンが十分に撮影されていない試合も少なくない。すこし極論すれば、これだけ技術が進む中なら、1会場に於いて、中継用の高度なカメラを補足するスマホないしスマホ程度の撮影機器を数台設置してもいいのではないか。
ブリーフィングおよび、先のJスポ関係者の話では、来季レギュラーシーズンには、幾つかの会場、これは秩父宮などの主要施設になりそうだが、ここで導入される方向だという。決勝戦単発の今回より、複数会場で行われるとしたら、来季からの導入で、その恩恵がより具体的になるかも知れない。
但し、繰り返しになるが、大事なことは、よりレフェリーの〝四角いジェスチャー〟が少ない試合を増やせるかだと個人的には思っている。先日覗いた大学春季大会でも、あるチームコーチから「レフェリーのレベルが厳しい」という話も聞いた。協会公式戦レベルをしっかりと吹けるレフェリーは、大幅な若返りの影響も含めて人員不足と感じている。滑川剛人というトップレフェリーもピッチを去る中で、いかに生身の人員を養成、確保していけるか。テクノロジーでは埋め合わせることが難しいエリアでのクオリティーの向上という継続的な課題は、変わらず横たわる。

