あまりダンマリも良くないので、女ジャパンについても書き残しておこう。

 

「過去最強」

 

そんな礼讃の空気感の中で、チームは〝無敵艦隊(とはいえ世界ランク13位、日本は11位)〟に2戦2勝。さらにポジティブな空気が色濃くなる中で、27日にはイングランド行きのメンバー32人が発表された。

 

メンバーは既にご確認の方も多いだろうし、こんな顔ぶれだろう。経験値の高い選手、つまり前回大会までの苦杯を味わってきたメンバー、そして2000年以降に生まれた選手たちも、経験者組に食い込んできている。素材だけではなく、新任S&Cコーチらの取り組みもあり、フィジカル面、スピード面などのパフォーマンスも、〝桜〟は確実にステップアップしてきている。なので、冒頭に挙げた礼讃は決して絵空事でも、単なる空気感でもない。

 

だが、それだけで世界最高峰の鎬を削る大会を勝ち抜いて行ける保証はない。勝ち抜く可能性は高くなっているかも知れないが、だからと言ってサクラXVは〝RWC一日乗車券〟を貰ったわけではないのだ。

 

パンデミックのとばっちりもあり、2022年に開催された前回RWCニュージーランド大会。プール戦勝利、あわよくば決勝トーナメント進出を期待されたサクラだったが、プール戦でことごとく敗れた。

 

対カナダ    5-41

対USA          17-30

対イタリー   8-21

 

善戦しても勝てない。手が届きそうで届かない。大会直前にNZに12-95と大敗したこともブレーキになってしまったという選手の声もあるが、「それでも1勝くらいは」という期待は見事に打ち砕かれた。2大会連続でプール戦全敗という苦難の旅を続けている。

 

この苦難のトンネルは世界最高峰の舞台に留まらない。

 

【WXV2 2024】

対南アフリカ           24-31

対スコットランド  13-19

対ウェールズ           10-19

 

HCレスリーさんの下で強化が進んだのは間違いない。JRFUも、そのHCを更にサポートしようと投資も続けてきた。ワールドラグビーから派遣されたサイモン・ミドルトン(ハイパフォーマンスアドバイザー)も含め、FW担当マーク・ベイクウェル、BK担当の〝バンジー〟ことべリック・バーンズ。錚々たる経験値、キャリアを誇る指導陣がレスリーを支えてきた。

 

大袈裟にいえば必勝態勢で臨むレスリー・ジャパン2度目の世界挑戦。勝利のための堀はかなり埋め立てられているのは間違いないのだが、繰り返しになるが、勝つための切符も免罪符も手にしてはない。

 

「期待されながらことごとく勝てないのは何故か?」

 

それがわかりゃ天才監督ではあるが、女ジャパンにつて考えると、この思いが後頭部辺りを堂々巡りする。

 

もしかしたら、正解ではなくともかなりいいヒントになる光景が、昨宵(26日)の秩父宮で観られたのかも知れない。

 

象徴的だったのは、前半14分の日本代表#10山本実のコンバージョン失敗に見られた。

角度のない左隅からのキックではあったが、キックモーションに入った大塚に対して、身長157㎝のスペイン#9アネ・フェルナンデス・デ・コレスが、壁に思い切り投げつけられたゴムボールが跳ね返って来たようなスピードでチャージ―を仕掛け、山本の蹴ったボールはクロスバーに当たりインフィールドへと跳ね返った。

 

スペインのアネさんが、どんな俊足かは知らない。だが、彼女のあの全身からスピードを絞り出そうとするような走る姿を見れば、誰でも彼女が持てる脚力、筋力、全身をフル稼働させてチャージに走ったのは判るはずだ。

 

そして、この小さな#9が見せたパッションは、胸にライオンが綴られたジャージーを着た15人全員が持っていた。まだまだ主導権争いの続く中でも、ボールポゼッション、テリトリーと苦戦を強いられたスぺインだったが、まさにライオン並みの寧猛さで桜のジャージーに何度もラッシュアップディフェンスを浴びせてきた。あまりの勢いに、自分の体のコントロールが出来ず、ブレークダウンで自立できないオフフィートを連発したが、「連敗して国に帰れない」という一途な思いだけは伝わった。

 

この試合から得るものがあるとすれば、ここではないか。

 

「おめおめ負けて帰れない」。

 

負けた言い訳はいくつでもある。相手を騙し、サポーターを騙し、自分自身をも騙す言葉は。

 

でも、そんな湧き出る言い訳ではなく、自分自身と代表チーム、そして国を背負って戦うという誇りと責任。それらが、ライオン女たちを突き動かしていた。

 

スキルレベルはもう一歩だ。ラインアウトの不安定さ、イージーにボールから目を離したノックオン…。粗探しせずとも課題は明白だった。だが、あの何度でも繰り返したラッシュアップして桜のジャージーに襲い掛かった気迫、いや藁をも掴もうとする必死な思い。こんな抽象的、感情的な領域のプレーが、世界最高峰の舞台で勝つには必要じゃないか。そんな思いで、刻々と涼しさを取り戻す秩父宮でのゲームを見守った。

 

ある選手は、試合後のミックスゾーンでこう話した。

 

「スペインは第1戦から変わっていた。必死さに立ち上がりプレッシャーを受けた」

 

ある選手は、この日のRWCメンバー発表会見でも、こう話す。

 

「ワールドカップになると、どの相手もいつものテストマッチではない力を出してくる」

 

では、自分たちはどうか?

 

当然彼女たちも、自分やチーム、これまで積み上げてきたもの、努力への誇りもロイヤルティーも、どの参加国に負けていない。だが、この形骸化しつつあるとはいえ平和主義国家を謳う国の善良な市民たちは、「テストマッチ=全てを賭けた戦争」という殺伐とした、血なまぐさい程の殺し合いという観念がどこか欠けている。

 

そんな抽象領域の勝負の一端を、地力的にはもう一歩だったライオン女たちが、少なくとも第2戦であからさまに見せてくれた。あのパッション、自分をコントロール出来ない程の必死さ、激しさで相手に突き刺さろうとする闘志…。あの汗だくで、形振り構わない姿を、ラグビー母国で桜のジャージーが見せることが出来れば、数年越えられそうで越えられないままの壁の向こうの景色が見えるかも知れない。

 

スペイン戦のパフォーマンスで、本番はますますアイルランドとのプール初戦が勝負になった。ここで勝てば2勝、そして〝山〟が動くかも知れない。だが、負ければ…。

 

だからこそ、薄暮の秩父宮でビジターが見せてくれた全てを賭けたようなパッションを、エメラルドのジャージーに浴びせて欲しい。

 

最後に、すこしだけプレーについて。

 

繰り返すが、桜の乙女は間違いなく進化している。フィジカリティー、スキル、戦術理解…。でも、試合運びに〝過激さ〟はない。過激というのは、22年RWC前のオーストラリア戦のようなパフォーマンスだ。確か史上初めての勝利だったか? その過激さというのは、サイズとパワーに物を言わせて相手がブレークダウンでプレッシャーを掛けてきた時には既にボールがパスアウトされている、グラウンドの縦軸に一瞬たりともボールを止めないようなラグビーだ。個人的には「百姓一揆ラグビー」と呼ぶ。

 

今のジャパンは、22年より強くて、上手くて、賢い。でも、どこまで相手が嫌がるラグビーをしているだろうか…

 

 

桜の乙女たちよ

イングランドで一揆を起こせ