▲アズーリの前日練習はドームの感触の確認のみ

 

 

サマーシリーズ最終戦が近づいてきた。

いつも通り、試合後にコラムを上げるので、先ずその前打ちとして前日練習の様子を挙げておこう。

 

イングランド、ジョージアとテストマッチに限れば、再始動から勝ち星のないエディージャパンにとってはどうしても勝ちたい試合。世間様は喫煙問題も含めた〝パリ〟へと関心が移る中で、またまたパッとしない成績なら、ラグビーは埋没してしまう。それ以上に、チーム内で目指すスタイルに自信をつけ、チームの求心力を強めるためにも勝利が欠かせない。

 

そんなマストウインの状況で迎え撃つには、「アズーリ」は結構厄介な相手であり、別のアングルからみれば、いまの2連敗を挽回するには絶好の相手でもある。

 

日本が連敗でワールドラグビーランキングを12位→14位と下げる一方で、アズーリは8位に浮上している。過去最高の位置に立つ。この夏は、敵地アピアでサモアに25-33と惜敗したが、ヌクアロファではトンガを36-14で退け札幌へやって来た。

 

前日の練習はアズーリから。11:30のスタートは20分ほど遅れたが、イタリアでは〝定時〟。チーム練習なしで、ドームのスペース感覚、照明などの確認と、キッカーが感触を確かめていた。我々には披露せず、その前に月寒グラウンドでしっかりと練習をしてからドームにやって来た。その練習を見た某関係者は、関心するほどに立体的な、周到に準備されたムーヴを幾つも確認していたという。

 

日本同様に昨秋のワールドカップ後に新たな体制に切り替えたイタリアだが、新指揮官のゴンサロ・ケサダは、1999年ワールドカップで日本とも対戦したロス・プーマスのFB。日本戦での得点(33-12)の恩恵もあり、通算102点で大会得点王にも輝いた実績を持つ。

 

 

 

 

プレーヤーとしての足跡もなかなかのものだが、ジャージーを脱いだ後の経歴が素晴らしい。「得点王」のおかげ? で主にフランスでプレーしていたが、ジャージーを脱ぐと直ぐにフランス代表のアシスタントコーチに就任。その後、ラシン92、スタッド・フランセとパリの強豪チームでコーチ、HCを歴任して、2019-20年には母国でハグアレスのコーチも務めた。そして、24年シーズンからイタリアを指揮して、1シーズン目からチーム浮上へ兆し以上の戦績を積んでいる。

 

日本と同じ新体制とはいえ、すでに2、3月の6か国対抗でハイレベルの戦いを経験している。前任のクローリーHCが築いたボールを積極的に展開するスタイルはさらに洗練され、ウェールズ、スコットランドを倒し、フランスと引き分けて9シーズンぶりに5位に浮上するなど、実戦経験は日本より先んじている。あのレベルの相手と毎シーズン5試合を組めるなんて贅沢で羨ましいはなした。「新体制」とはいえ、スタートラインはビジターがかなり前にあったのだ。

 

そんなゴンサロHCが組んだ、明日先発する15人の総キャップ数は348。日本の200に比べれば経験値は高いが、1人平均23キャップは、ワールドカップで8強入りする経験値ではない。では、この日本戦は強化のプロセスの中でどんな意味を持つ試合なのか。

 

「若いスコッドですが、今回の遠征には国際経験豊富な選手も連れてきています。それはツアーの流れが全体的に厳しいからです。まずローマからドバイに飛んで、ドバイから、冬で雨ばかりのオークランド。そこから真夏のサモアに飛んで、再びオークランドに戻って、今度はトンガに向かい、そして東京から昨日札幌に来ました。行程自体が非常に複雑です。ですから、若い選手だけでは厳しいと思い、経験のある選手も混在させて、いいミックスのチームができたと思います。また、選手としての経験も、こうしたベテラン選手から、若い選手が学べると思います。日本とイタリアのラグビーの関係は非常に友好的です。そうした日本との関係を生かして、私もそうなんですが、初めて日本に来た若い選手もいるので、貴重な日本戦のチャンスを生かして、夏の厳しいツアーをいい形で締めくりたい」

 

話を聞きながら感心させられるのは、代表のツアーというものの位置づけであり、意味するもの、そこから得られるものについての指揮官のビジョンだ。代表という寄せ集めチームを、どう組織としての質を高めていくかの示唆に富んだ話だと感じた。

 

そんな指揮官に、選手時代に対戦した日本代表と今のチームに変化があるのかを聞いてみた。

 

「日本のラグビーというのは、しっかりとしたアイデンティティーがあります。特別な強さとスキルをずっと生かしてきたのです。強さというのはスピードで、勢いに乗って攻める能力を持っています。そのアイデンティティーは変わらないと思いますが、では対戦した1999年当時から何が変わったかといえば、スピードとハンドリングを生かしながら、セットピース、スクラム、ドライビングモール、ラインアウトそれからディフェンスの面でさらに強くなってと感じています」

 

まぁ、だいぶ持ち上げられたが、指摘していることは的を得ているだろう。99年のカーディフ・ミレニアムスタジアムで戦った時と変わらないもの、そして、あの当時はなかったものを身に着けているのは事実だ。

 

ハードタックラーで知られるミケーレ・ラマロ主将は、日本戦をいかに戦うかを語っている。

 

「日本のFWというのは本質的にハードワーカーで、スクラムをしっかりと組んでくることに長けています。それに加えてフィジカルでも強みがある。なので、明日の試合ではどちらが先に就かれるかが勝負の要になると思う。この前の2試合は、共にFWが非常に強かったが、フィットネスという点では高くなかった。でも日本はそこも高いチームです。そこで負けないようにしたいし、最初のコリジョンから凌いでいきたい」

 

 

 

 

日本の選手についてはこんな印象を持っている。

 

「マイケル・リーチは勿論ですが、No8はフィジカルですし、HOにはジャッカルが上手い、強い選手がいます。ただ数人の選手だけじゃなく、まだ国際試合にあまり出ていない選手も多くいるので、そういう選手もしっかり注意していきたい」

 

この日から札幌は猛暑に襲われているが、幸いなことに試合会場は空調完備のドーム。イタリアがコンディションをキープして戦えば優位性は揺るがないだろう。勝負は、日本がまだ建設途中の「超速」をどこまで発揮出来るかにかかる。アズーリを予想以上に消耗させ、後輩優位に立てば〝8位喰い〟の期待は高まるのだが。