すこし時差アリでイングランド戦のおはなし。

 

エディーのことだから、ここで一発サプライズを起こしたかっただろうが、如何せん「時間」の限界はあった。菅平の予備軍合宿などでゲーム理解を促進させるなどの工夫もしたが、相手も良すぎた。昨秋のフランス同様、各国が日本戦へ向けた準備をそれなりにしっかりとしてくると、やはり容易に足元を掬うような勝利や善戦はない。

 

 

 

 

日本が鮮やかなテンポで仕掛けた、あの序盤戦ですら、ミッチェル&スミスの赤薔薇HB団は冷静さを失わず、日本のラグビーを観察し、ボールを手にしてからは、いとも容易くゴールラインを陥れていた。コラムでは「14分」と書いたが、キックオフ10分あまりで、イングランドのコンピュータは勝利の試算をほぼ終えていたのだろう。

 

その中で、サプライズがあるとすれば、コラムで書いた通りセットピースの安定感。スクラムには賛否あるものの、壊滅的な崩壊はなく、互いにペナルティーを奪い合うレベルで、十分に善戦と称えていい。あのキャップ数なら尚更だ。

 

裏話になるが、惜しまれるのは宮崎でインタビューを相談したヴィクター・マットフィールド、オーウェン・フランクスが、時間を取れなかったこと。この2人に、セットピースの課題と可能性、そして彼らの目には、プレーしたチームとは全く異質の日本代表といチームがどう映るのかを聞いてみたかった!

 

接点でみれば、日本らしいいとも容易くブレークを許すシーンもあったが、ジェネラルな〝遣り合い〟は悲観するレベルじゃない。もちろん「あれだけ海外勢が出ていれば」という指摘はその通りだが、スクラム、ブレークダウンなど相手と接触するチュエーションには、間違いなくリーグワンでの恩恵はあるだろう。ただし、日本は相手と接触を極力減らすラグビーをしなくてはならないが…。

 

「新しい力」はやはりポジティブに受け止めたい。だいぶ贔屓が強いが、やはりティアナン・コストリー。スピードは期待通りだったのに加えて、彼が宮崎の1vs1のインタビューで力説していた「コンタクト、防御での貢献」では、及第点以上のパフォーマンスだった。インタビューでも、イングランドというフィジカルチームにいいコンタクトを見せることが大事と話し合っていたが、その通りのパフォーマンスを見せた。

 

宮崎でのコラムをアップした後、ティアナンを日本に呼び、神戸への道筋をつけた環太平洋大の小村淳監督から電話がかかってきた。

 

「ティアナンの記事、ありがとうございました。アイツも励みになると思います」

 

「いや、彼を特別視したわけじゃなく、彼自身のパフォーマンスが、書かせた記事だから」

 

こんなやりとりをしたが、あのゲームでも「書くべき正当性を持った選手」だったのは間違いない。一方で、同じ土曜日にトゥイッケナムで戦った世界王者をみると、キャップ5のEvan Roosに深緑の背番号8が託されていた。191㎝、109㎏のサイズは、かの国では小兵かも知れないが、スピードに乗ったサイドアタック、防御での運動量で、従来のボカの8番とは異質のパフォーマンスをみせた。「新しいNo8、バックローの可能性」。こんな言葉が頭に浮かぶのと同時に、このトレンドが本物なら、テストラグビーというステージの上で、ティアナンの価値にもいい変化があるだろうと感じていた。

 

ティアナン以外に可能性を感じさせたのは、同じくテストデビューのHO原田衛。コラムでも書いた通り、マイケル、ワーナーという日々ボールを投げ込んでいる相手がいたのは幸運だが、それも含めてイングランド相手にスロー100%は評価すべきだろう。堀江翔太が抜けた「2」を見れば、(翔太もだが)その多くの候補が3列上がりでスローイングに大きな課題を持つ選手が並ぶ。だが、日本がワンステージ上の戦いをするには、従来のスローイング精度では不十分なのは明らかだ。確かにサイズはいまの「8強」レベルじゃないが、超速に見合う機動力とスローで考えれば、この2番の国際舞台での投資は価値がある。

 

注目の矢崎由高については、コラムで触れた通り。彼のポテンシャルを考えれば、あの幻のトライという見せ場も含めて、せいぜい肩慣らし程度のパフォーマンスだろう。肩書と目新しさで騒ぎたくなる心理はわかるが、このゲームでは「才能」の#15より、「エフォート」で魅せた#11根塚洸雅が際立っていた。サイズも含めて、これからも熾烈なサバイバルを強いられるが、彼のワークレートがアウトサイドBKのスタンダードになれば、ジャパンもワンステージ上のチームに成熟する。

 

SH藤原忍も素晴らしかった。ゴール前ラックから簡単に開いてSHに飛び込まれたのは、FWとのコミュニケーション不足を露呈したが、次のプレーを予知する頭脳も含めて「超速」への可能性を秘めた9番。防御でも十分ファイトしていたが、あと1枚厚みをつければテストSHとして十分いける。