3位決定戦にしては(恐縮)いいゲームだったね。

 

観衆9509。狂信的な両チームサポーター∔真のラグビーファン。これくらいの数字か。ま、「決勝優先」「入替戦命」という方もいただろうが…。

 

で、ゲームのほうは、スピード、そしてボールが動く期待通りの80分。両チームの意識、そしてラックからの球出しにもスピードを求めた手束伊吹レフェリーの三位一体が、好ゲームを創り出した。

 

コーチボックスも含めてサンゴリアスの現役&OBマッチの様相だったが、大雑把に見れば「アタッキングラグビー」という両チームの、それぞれの異なるキャラクターも出し合った試合と感じた。

 

最初に主導権を握ったのはリーグ戦4位のイーグルス。1週間前に野武士を苦しめたスタイルを通してきた。ナキを中心に強いランナーを縦にぶつけて、相手防御を1歩でも2歩でも内側に引き付けてから外を攻めた。

 

準決勝以上に印象的だったのは、大外でアウトサイドBKを走らせるばかりじゃなく、SO田村優くんがライン防御のギャップとキックを巧みに使って防御を崩すシーンが多かったこと。蹴るか、走るか、回すか、そしてキックの質に、かれの引き出しの多さを感じるパフォーマンス。このアタックは、もうすこし熟成させると、攻撃のバリエーションが増える期待感がある。

 

対するリーグ3位・サンゴリアスは、個々のポテンシャルと〝一日の長〟があるボールを動かす個人の、そして組織の意識で渡り合った。

 

イーグルスがリスク覚悟で、何度もピンポイントでFB松島幸太朗ら要警戒のランナーを仕留めようと何度もナイスタックルを見せたが、厚みのあるサポートでボールをリサイクルし、そこから再び切り返してチャンスを作っていたのは流石。個人と組織のバランスは、こちらが上だった。

 

イーグルスは#9ファフ、サンゴリアスは#7サム(個人的には#8マクマ―ン)と、キーマン不在は一応イーブンとしておこう。余談だが、イーグルスは準決に続きそのファフ、サンゴリアスも流大というゴージャスなウォーターボーイを配しての戦い。またまた余談だが、一部では「あのスター選手が給水係」なんて「あるある」記事もあるが、あれだけのサラリーなら水運ぶくらい安いもんだ。

 

前半のスタッツを見るとこんな数字だ。

 

 

          Ⓢ    Ⓔ

ゲインメーター  279   214

防御突破      12   12

タックル/ミス  86/11 113/17

反則        4    7

ポゼッション   52%  48%

テリトリー    44%  56%

 

 

前半の26-14というスコアをみてもイーグルスが若干ながらゲームを優位に進めていたという印象だが、数値では互角とみていい領域だ。

 

ボールを持たれ、走られながらよく抑えたイーグルス、攻めていても十分な見返り=スコアまで辿り着けなかったサンゴリアス。前半終了目前にサンゴリアスが、ショットを狙わず敵陣ゴール前に攻め込んでのスコアレスが前半をよく物語っていたのだろう。

 

数字で勝つわけではないが、リードした側にいくばくかの懸念材料があるとすれば反則数。相手の4に対して6。2つの笛はとるに足りない差ともいえるが、この傾向は後半も変わらなかった。

 

前半最後の最後にスコアを許さなかったイーグルスが、後半開始2分にスピードで獲り切っている。ハーフタイムを挟んだ攻防でイーグルスに勝機が傾いたようにも感じたが、サンゴリアスが前半も含めて決定的なビハインドを許さなかったことが結末に繋がった。まぁ前後半での勝者PRの2トライは出来過ぎだろうが…。

 

勝者の凄みを感じさせたのは、後半中盤のNo8 タマティ・イオアネのトライに直結したゴール前スクラム。試合途中で重圧を受けるシーンもあったが、このスクラムでは右からの快心のプッシュで相手の8人をぐらつかせて押し込んだ。こういう集中力が、伊達にリーグワン誕生から3シーズン連続プレーオフ進出、トップリーグ時代から毎シーズンのように覇権を争ってきただけじゃない底力だ。

 

両チーム合わせて11トライ。若干取られ過ぎではあるが、この2チームのアタックマインドを考えれば止むを得まい。スコア、トライ数含めて後半しっかりとまとめた勝者を称えるべきだろう。

 

そんな華麗な(?)トライを差し置いておいて、独断で「キョウイチ」と感じたプレーは前半20分過ぎのサンゴリアスCTB中村亮土のパスだ。ミッドフィールドでの右展開、かぶり気味にプレッシャーを掛けてきたイーグルスのタックラーに対して、一拍パスを溜めてからSO高本幹也へパスを放って防御網を崩した。

 

スコアに繋がったパスでも、スタンドを沸かせたウルトラプレーでもなかったが、あの状況で自分で間合いを作れる判断力、スキルを持ったパッサーはそうはいない。日本のラグビーは、あんな好状況をクリエートできるパスを世界に発信するべきだ。

 

フルタイムのパフォーマンスで評価するなら、先にも〝引き出し〟に触れたSO田村優だろう。桜の指令塔は、23年のフランスで松田力也が存在感を見せた。李承信も爪痕を残したが、ここ数シーズンの「10」を見ると、そこまで他を圧倒する存在は現れていない。

 

確かにキック、防御での減点を問題視する意見もある。代表の座から遠ざかるが、あの引き出し、ナチュラルな判断力は、対戦相手がトイメンに立たれて嫌悪感を催すものだ。もちろん純粋に1プレーヤーとして、日本トップクラスの10番と感じているが、最高のお手本としても、まだまだ経験値を身に着ける必要がある追走者にも学びのある存在だ。

 

もう1人、インパクトを残した個人名を挙げるなら、敗者のインサイドCTB田畑凌だろう。タックル、接点でのファイトと外連味の無いプレーで、チームのピンチの芽を摘みチャンスをクリエートする。リーグワンで一世を風靡する南アフリカ系、NZ系のCTBのような派手も豪快さもさもないが、中村亮土の後を継ぐ数少ないポテンシャルを秘めたミッドフィールダー。代表に注ぎ込む強化予算の、ほんの爪の垢くらいでいいので、こんな素材を磨き上げるための投資に使うべきだろう。

 

すこし個人にスポットを当てた3決戦だが、チーム外の人間なら正直3位でも4位でも正直関係ない。いいゲームだったという現実と、チーム以外にもプラスの影響力を及ぼせるポテンシャルを堪能できた80分だったと称えたい。