週末に行われたセミファイナル。個人的には、トップ4の激突と評価できる160分だった。

 

■ノーぺナで真価を見せたWナイツ 負けて進化を明かしたイーグルス

 

まずは、土曜日のゲームから。

シーズン中の2度の対戦でも圧倒したワイルドナイツが、予想以上に梃摺ったゲームにはなった。チャレンジャーであるイーグルスの健闘を称えるべき80分ではあったが、勝敗を分けたのは「反則」だろう。

 

反則数を見てみよう。

 

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前半  4 2

後半  5 8

合計  9 10

 

トータルではワイルドナイツが優位? いや、大差ないだろう。むしろリーグ戦の1試合平均の反則数が8.56(リーグ2位)のワイルドナイツに対して8.93(同3位)で若干多かったイーグルスが、この反則数だったことは評価していい。このチームは、過去のぶろぐでも書いたように、ディシプリンの面で昨季までより遥かに進化を遂げている。後半に反則数で差をつけられたのは敗戦に少なからず影響しているはずだが、それ以上に反則が勝因、敗因になったのは、その内容だろう。

 

これは、先週アップしたコラムで書いたワイルドナイツとブレイブルーパスの〝決勝展望〟とも重なるものだが、準決勝でのワイルドナイツとしては多すぎの反則ではあったが、相手がPGや、陣地を稼ぐためのタッチキックが欲しいシーンでは、このチームは容易には反則を犯さない。逆に、敗れたイーグルスは、スコアに繋がる反則を安易に犯している。このスコア(差)の競り合う展開のなかでは、1つの反則からの失点は致命的だ。

 

象徴的だったのは後半20分以降の展開だ。19分にワイルドナイツが逆転トライを奪い20-17とリードを奪うと、このトライシーンでのシンビンで1人少ないイーグルスに猛反撃を受けながら自陣10mラインを跨いだ8次攻撃をペナルティーなしで封じ込んだ。追うイーグルスとしては、好位置なら同点ショット、難しい距離ならタックキックでゴール前ラインアウトからの逆転トライ狙いを思い描く戦況だったが、最後はキックの選択肢しかなかった。

 

ワイルドナイツは、その直後に自陣22mラインでの相手ラインアウトから攻め込まれたが、ブレークダウンで相手反則によりエスケープに成功している。

そして真骨頂は、残り1分のミッドフィールドでのイーグルスの猛反撃。攻撃は12フェーズに及んだが、ここでもワイルドナイツは反則、ミスを犯さず守り続けて、最後は相手のノックオンを誘っている。

 

この都合20分、追う側のイーグルスが攻め込む展開は、いつ反則をしてもおかしくない状況ながら、このチームは適陣での1回しか反則を犯していない。もちろんその後の展開でスコアを許していない。対するイーグルスは、ラストプレーになったスクラムを含めて、逆転のための猛攻の中で3回笛を吹かれている。沢木敬介監督は試合後の会見で、チームの戦いぶり、反則についてこうコメントしている。

 

「勝負どころ、時間をわかっているワイルドナイツは、経験ある選手がたくさんいる。そこは一つ上手だったと思います。反則については、ここでしちゃいけないという場面での我慢は、たぶんそこまで改善出来ていない。きょうもシンビンから流れを取り戻すのは難しかった。もうすこしナレッジ的な部分も経験していかないと思います」

 

会見の場で、相手チーム(イーグルス)がPKを欲しいところは反則しないのがワイルドナイツの強さかと聞くと、間髪を入れずにこう答えている。

 

「それがたぶんワイルドナイツが強いチームでずっとあり続けるところだと思います」

 

試合前の会見でも、CTB梶村祐介主将は反則の〝質〟の部分で満足していないと指摘していたが、やはりこのゲームも相手に多くの反則をさせながら、レギュラーシーズンでの質を劇的には向上出来なかった。

 

そして、このゲームで平均9分に1度反則を犯した勝者が、苦境の20分間を反則1で守り切った集中力、反則を犯さない意識の高さには、3点差というスコアとは大きくかけ離れた実力差を感じさせられた。

 

もちろん、このような意識の高さは前半から顕著だった。

 

前半18分のイーグルスの攻撃で、中央36mのSO田村優のPGはポストを直撃してノーゴールだったが、そのボールを再びキックカウンターから敵陣22mライン近くまで攻め込まれながら、ワイルドナイツは6次フェーズをノーペナルティーで守り切り、相手モールパイルアップにより攻撃権を奪い返している。

 

イーグルスにとって、この局面がただ3点を失っただけではない痛さがあったのは、7分の田村のPG成功からの流れが伏線にある。

 

4分にワイルドナイツが先制トライを奪い、その3分後に3点を取り返すまでは、このゲームの肝である「僅差で喰らいつく」というセオリーでは最善の流れだった。だが、PGのさらに2分後には鮮やかな展開から再び勝者にトライを献上。この状況で、イーグルスが再びスコアで喰らいつき、相手にプレッシャーを与えるためには、どうしても自分たちがスコアを取り返す必要があった。その状況の中で、ワイルドナイツにノーペナルティーで6次攻撃を守り切られたのだ。

 

 

▲試合前、結構気合の入ったハドルを組む野武士たち

 

 

付け加えると、田村は7分のPG前のアドバンテージをもらった状況から中央33メートルのDGを外している。相手にスコアされての3-10という状況なら、3点でもいいからより早い段階でスコアを詰めておきたいと判断したのだろう。この判断は間違っていないが、アドバンテージが出ていてPKは確定していた状況なら、アグレッシブなスピード勝負が信条のチームには、ダメモトでのトライ狙いを挑んでほしかった。結果的には3点すら確保できなかった最悪のシナリオに終わっている。

 

田村がどうしても3点でも取り返しておきたいという判断をしていた背景には、9分のワイルドナイツFB山沢拓也の好判断による左オープンへのランから、WTBマリカ・コロインベテの豪快な防御突破→LOジャック・コーネルセンのトライという強烈なフックが影響していたかも知れない。

 

そして、前述した敵陣22mラインでのパイルアップから自陣22mライン内へと攻め込まれたイーグルスは、26分に、驚くべきことだが、この試合始めてのペナルティーを、相手の乾坤一擲のスクラムで犯して、そのままPGを決められている。

 

長たらしくはなったが、開始4分のワイルドナイツの初トライから27分のPGまでの23分間に及ぶ一連の攻防、ペナルティーとノンペナルティーという両雄のストーリーが、まだまだ僅差ながら、80分間のシナリオにも大きく響くことになった。

 

しかし、敗者は悔しさが先行するだろうが成長の足跡を残した敗退を印象づけた。WTB竹澤正祥のトライなど、印象的なアタックを〝防御のワイルドナイツ〟相手に何度も披露したが、ここは従来以上に徹底してファーストフェーズで大きくBK展開を封印して、No8アナマキ・レレイ・マフィ、LOマシュー・フィリップといったフィジカルキャリアーを縦に走らせ、それを2次、3次と繰り返す中で、微かに内側に寄せられたワイルドナイツのライン防御に、竹澤らランナーを走らせた。終盤は相手に上手く対処され反撃を断たれたが、常勝チームをあそこまで悩ませたゲームプランは、指揮官と首脳陣の手腕に他ならない。いつもは選手に手厳しい沢木監督も、会見後はチームを高評価した。

 

「たぶん、今シーズンベストゲームだったと思うし、皆今持っている力を出せたと思う。負けるならこういうゲームをやりたかった」

 

 

 

 

ディシプリンの進化で一流チーム入りを果たしたチームが、ディシプリンの質の差で最上級のチームに格差を見せられたゲームだった。

 

勝ったワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督の試合評も紹介しておこう。

 

「イーグルスはいいゲームをしてきたし、来シーズンのプレーオフでは、違う相手と戦いたいものだ。ただ、プレッシャーは掛けられたのだが、チームは抜け道を見つけ出して戦えた。来週へ向けて、いい準備になるゲームではあった」

 

■仕留める力で明暗を分けたBルーパス&サンゴリアス

 

日曜日に行われたシーズン3度目の府中ダービー。こちらも土曜日同様、リーグ戦で勝ったブレイブルーパスがサンゴリアスを退けたが、こちらの試合で明暗を分けたのはエクスキューション。つまり決定力だと感じさせられた。

 

象徴的なのは「レッドゾーン」、つまり敵陣22mライン突破回数だ。さらに1歩踏み込むと、22mライン内に攻め込んでからの決定力に、明らかな差があったゲームと解釈したい。

 

象徴的な数値がある。敗者サンゴリアスは、キックオフから30秒という光速アタックで22m内に攻め込んだのに対して、ブレイブルーパスが敵22mラインを初めて超えたのは、前半32分のことだった。

 

この数字だけを切り取ると、サンゴリアスの快勝かのごときだが、前半の22mラインを超えながらのスコアを見ると、サンゴリアスが3度の突破で1トライ(ゴール)、1DGの10点だったのに対して、ルーパスは2度の突破で1トライ(ゴール)。スコアに至らなかった1回も、終了目前の猛攻からのミスと、ゴールラインに肉迫するアタックをみせている。敗れたサンゴリアスのHO堀越康介主将は、こんな敗戦の弁を語っている。

 

「3フェーズ内でミスする場面が前半で2回くらいあった。大事な時間帯での本当に小さなミスが、 勝敗に関わったのかなと思います」

 

前半はサンゴリアスが3点リードという展開ではあったが、効率的にチャンスをスコアに繋げていたのはルーパスだった。但し書きをしておくが、個人的には22mライン突破回数は、一連の流れの中で22mから後退しながら再度攻め込んだシーンは1回の突破と解釈してのカウントしている。

 

後半に入っても同じ傾向が見られた。サンゴリアスは4回の侵入で1トライに対してルーパスは5回攻め込み3トライ奪っている。攻めても獲り切れない敗者と、チャンスを着実にモノにした勝者の格差は、実は緊迫した接戦の中でも歴然としていたのだ。サンゴリアス田中澄憲監督の会見最後のコメントが、この80分間、そしてサンゴリアスの今シーズンをよく物語っている。

 

「今日のようなゲームで、1つの小さなミスというか、簡単にボールを相手にあげてしまうというのが、やはりシーズン通してあったのかなと思います。特に22mの中に入ったときに、相手を生き返らせるというカ、どう相手にプレッシャーをかけていくかというところでは、他のチームがすこし強かったのかなと思います。東芝さんは、ほとんど22m内に入っていなかったが、入ったときにはスコアしていくというのが、こういうゲームで主導権を握る大きな要因になるので、そこの部分はしっかり見直せるかなと思います」

 

これまでも何度か触れてきたが、接点のコンテストでチームが頼りにするオーストラリア代表No8ショーン・マクマ―ンを開幕前から、オールブラックス闘将FLサム・ケイン、そしてブレークダウンから攻撃を組み立てる日本代表SH流大をシーズン途中で失いながら、ここまで爪痕を残したのは賞賛に値するシーズンだった。

 

敗れはしたが、ゲームに「緊迫」を演出したのは、やはりサンゴリアスのゲームプランだろう。先にも触れたキックオフからの電光石火の22m突破が象徴するように、過去★度の対戦では使わなかったキックオフリターンのサインプレーなど、ルーパスが想定しないプレーと、攻め込んだラックから、相手が次フェーズの陣形を整えられない早いタイミングでSHからのショートパントなどを駆使してボールを動かすことで、相手に陣形の整備と、防御時の考える時間を与えず攻めたことが〝開始32分間の優位〟を創り出した。

 

敗者にすこしシビアな捉え方をすれば、「32分しかもたなかった」というのも現実かも知れない。余程のワンサイドにならない限り、どんなチームでもゲームが進む中で、相手の動きに対応し、どこかのタイミングでペースや主導権を取り戻すものだ。いまやチームのコアメンバーに成長するLOワーナー・ディアンズは、試合後にキックオフ32分をこう振り返っている。

 

「出来るだけ自分たちのDNAに戻って、自分たちがやりたいようなラグビーをやるという基本的なシンプルな事をやって、モメンタムを取り戻そうと話していた。相手、最初の20分くらいはスピードで勝負すると分かっていたが、前と違ったことをやってこられた。それで出遅れた感じはありましたね。でも、チームに焦りはなかったと思います」

 

レギュラーシーズンでも強豪相手の接戦に競り勝ってきたのが、今季のルーパスの特徴、いや成長ポイントだ。32分間の劣勢は想定外だったかも知れないが、そのような苦境の中でも、自分たちのスタンダードを忘れず、シーズンを通じて培ってきたゲームスタイルを貫けたことが、今季身に着けたルーパスの貯砂であり、このゲームの前半終盤からの反撃を支えた。

 

 

 

 

エクスキューションという点で興味深いのはスコアの時間帯だ。先にも触れたように、立ち上がり32分の苦闘を10点のビハインドで耐えると、初の相手22mライン突破でトライをスコアしている。終了目前の猛攻はゴール目前のミスで逃したが、後半わずか2分でFL佐々木剛がBK級のサポートラン、スピードでスコア。13分のPGでサンゴリアスが1点差に迫った直後には、途中出場のCTB眞野泰地の鮮やかなライブレークからFLシャノン・フリゼルが仕留めて、再びリードを広げた。

 

相手がスコアした直後、そして前後半の立ち上がり、終了目前にスコアを狙う――こんな勝つためのシナリオを、過去に2人の男から聞いたことがある。一人は元オールブラックス、神戸製鋼でも活躍したSHアンドリュー・エリス。そしてもう一人は、決勝で対戦相手を率いるロビー・ディーンズ監督だ。

 

共通して語ったのは、オールブラックスがどんなことを意識しながらゲームを戦うのかという質問に対してだった。「相手が単なる失点の5点や7点よりもダメージを受けるような得点が大事だ」というのが、オールブラックスの掟だという話だった。この時間帯、シチュエーションになると、黒衣の男たちの集中力は各段に高まるという話も聞いた。もちろん、この代表チームに多くの選手を送り出すクルセイダーズにも、同じような価値観が落とし込まれるのはエリスも認めていた。

 

2人と同じカンタベリー出身、黒衣のメンバーでもあったトッド・ブラックアダーHCは、ルーパスでも同じような価値観、考え方を話しているのかと聞いた。「意識的にそこに寄せていくような話はしていないが、東芝は東芝として自分たちのプロセスで、このような状況ではこうやっていこうということを意識しています。結果的に似てきているのかも知れないが、あくまでも自分たちのプロセスを大事にしています」とオールブラックス流ではないと話していたが、勝つためのシナリオというのは、強いチームのそれと共通項がでてくるということなのだろか。いずれにせよ、ルーパスがサンゴリアス以上に効率的、効果的なスコアを奪ったことは、このチームの進化を示しているだろう。もちろん、仕留め方のバリエーション、より組織的にここが機能してトライを生み出しているのも、昨季からの成長の賜物だ。

 

この試合はルーパスが主導権を掴んでからの、先にも触れた眞野、佐々木、そしてWTB桑山淳生といった20代半ばの日本選手の活躍が印象的だった。ここもチームの厚みを支えている。試合後の取材でも彼らが報道陣に囲まれていたが、〝サンドバッグ状態〟の開始32分の中にも目を見張る隠れたファインプレーがあった。前に触れたサンゴリアスのキックオフからの猛攻の中で、ルーパスのゲームメーカーとして注目を集めるSOリッチー・モウンガが見せた献身的な防御だ。

 

モウンガは自陣左サイドで、独走態勢に入ろうとしたサンゴリアスWTB尾﨑晟也をワン・オン・ワンのタックルで止めると、わずか16秒後には右中間に駆け戻りながら、ライン防御を突破してきたPR垣永真之介にもトライセーブタックルをお見舞している。

 

派手目のアタックが注目されるモウンガだが、このようなカバーディフェンスや危機管理能力も出来るのが、ラグビー王国の指令塔でも群を抜いた存在感を持つ由縁だ。共に見所のある2試合だったが、関心は早くも次の日曜日にまるワイルドナイツvsブレイブルーパスへ切り替わる。

 

■8シーズンぶり野武士vs群狼F群狼al展望はコラムをご参考に

 

この2チームが決勝で相まみえるのは、リーグワン前身のトップリーグ2015-16以来のこと。そのシーズンは、ワイルドナイツが27-26の大接戦を制してリーグ3連覇を果たしている。こちらは、端折って先週アップのコラムご参考に(何度も恐縮)。

 

 

 

 

 

前回激突当時から今も主戦メンバーとして戦うのはワイルドナイツでは堀江翔太、ベンチスタートの内田啓太、負傷離脱中の稲垣啓太、ルーパスはNo8リーチマイケルといった顔ぶれ。長らく日本ラグビーを牽引してきた2チームの戦いについては、リンクしている昨週アップのコラムで肩代わりするが、まさに真価を決する5.27のシーズンファイナルが楽しみだ。