リーグワンについてのコラムを前後編セットでアップした。

 

リーグ戦終了&プレーオフ開幕というタイミングで何を書くかと考えていたが、ストレートな展望も芸がない。明らかに覇権争いの軸になるのは埼玉の野武士軍団だが、この〝主役〟にスポットを当てるのも捻りがない。そんな思いで向かったのは府中市東芝町。

 

一時の低迷を脱して、数シーズンをかけて再び「強豪」という肩書を取り戻した狼の群。その領袖であるトッドさん、そして府中どころか日本のラグビーを牽引するスキッパー。この2人が、2024年シーズンのリーグを戦う中で何を感じたのか、そして最強の野武士を討つシナリオをどう思い描くのか。こんな思惑を胸に、甲州街道を西へ向かった。

 

 

 

 

 

 

ぶろぐのヘッドラインには「トッド」と書いたが、このチームの「ここまで」そして「これから」を語るうえで、マイケルというリーダーの言葉は欠かせない。チームへのインタビューオファーは迷わず2人にした。

 

結果的に前後編というボリュームにはなったが、この長さをしても、泣く泣く切り落とした「言葉」も少なくなかった。〝書けない話〟も多々あったが、オミットした中でもトッドさんのチーム作りのスタンスは、このような形ででも残しておくべきだと、書きながら感じていた。

 

「1人2人の選手に頼らなくてはいけないチーム作りは、正しくないと思っています。選手層、選手を育成していくことが大事だと思っているので、そのような選手たちが常に準備出来るようにしたかった。例えるなら、カードゲームで、手元にないカードのことを考えていい手を打てないと悔やむのではなく、自分の手中にあるカードをどう上手く使っていくかを常に考えているのです」

 

 

 

 

今季、明らかにチームの戦闘力アップになっているSOリッチー・モウンガ、BRシャノン・フリゼルという存在は否定のしようがない。トッドさんも、この2人の貢献を認めながらも、こんな姿勢を貫いてきた。

 

「2人に頼るのではなく、彼ら以外の選手を常に育成して、チャンスが来た時に彼らの力がうまく発揮できるようにしてきました」

 

そのために指導者として意識したのは「選手たちを常に信じているという姿勢をしっかりと見せていく」ことだったという。

 

トップ選手はもちろんだが、それ以外のレギュラーメンバー、ベンチ組、そして23人に食い込もうと日々挑戦を続ける選手たち全てに対して、コーチとしてその可能性を信じ、期待を注ぎ続けてきた成果が、トッド体制5シーズン目の「いま」の収穫に繋がっている。

 

就任から5シーズン。まだ〝最終回答〟という正解は出ていない。チームの強化が「勝つこと」を正解とするならば、プレーオフの結末を待つしかない。だが、その一方で、リーグ戦でわずか1敗(1分け)の2位という答えは出しているのも事実だ。フラン・ルディケさんが船橋に来てから、スピアーズを頂点に立たせるまで7シーズンという時間を要した。そしてトッドさんは、5シーズン目でようやく王者の背中を捉える位置に辿り着いた。

 

多くのスポーツがプロ化への傾斜を強める中で、指導者の首も忙しなく切り落とされる風潮だ。しかし、このラグビー大国を代表し、多くの選手、関係者から尊敬の眼差しを受ける2人のコーチの足跡を見れば、この競技では「結果」という果実を得るには、いかに歳月が必要かがわかる。ラグビーは狩猟民族が作り上げたスポーツだが、農耕民族の生産活動のごとき忍耐力が必要なのだ。

 

もちろん、時間だけではなく、全てのチームメンバーと、どこまで揺るぎない信頼関係を築き、自分たちを裏切らない集団になれるか、言い換えればチーム文化を創れるかが「結果」には欠かせない。

 

実力は圧倒的に1位通過チームにあるのは明らかだろう。あの強固な〝青い牙城〟を崩すためには、練り上げられた周到な準備、ゲームプランの遂行力、自分とチームを80分間裏切らない精神力、そして昨季決勝でも起きた数パーセントのruckではないluck――そんなものが必要だろう。

 

力の差はあれど、そのような〝勝つための素材〟を11チームの中で最も持ち合わせたチーム。そのチャレンジが、どこまで辿り着けるのかは興味深い。