最高気温が27℃とも28℃とも叫ばれた土曜日は、リーグ3位がかかる決戦へ。とはいえ、大分市ではなく港区北青山の会場に。

 

おちゃらけたはなしをすれば、敗者サンゴリアスの全4トライが「尾﨑」さんによるもの、そして全スコアが帝京大学出身者によるものという結果に。このキロクを見ると、尾﨑兄弟と帝京大に勝ち点をあげてもいいほどだったが、残念ながら勝ち点なしの敗戦に終わった。そして、このゲームの最大の関心事は、実は後半20分あたりで幕引きとなっていた。

 

25分早くにキックオフしたイーグルスvsワイルドナイツが、14-43でホストチームの敗北に終わった瞬間に、サンゴリアスのリーグ戦3位も自動的に確定してしまった。つまり、秩父宮で続いていたスピアーズ戦がどんな結果に終わろうが、プレーオフ準決勝はワイルドナイツvsイーグルス、ブレイブルーパスvsサンゴリアスに決まってしまったのだ。

 

「しまった」と敢えて書いたのは、皆さんご存知のように、2週間後のカードが今週と先週のものと同じになってしまったということ。「リーグ戦+プレーオフ」という構成のリーグでは「あるある」ではあるが、なんとももったいない印象だ。もし、これがワイルドナイツvsサンゴリアス、Bルーパスvsイーグルスなら、もうすこし新鮮さもあったのに…。

 

実際にナマで観戦したゲームは、その〝順位確定〟というタイミングより若干早い段階で、急速に「3位」を争っていたサンゴリアスのパフォーマンスが落ち始めた。後半14分のスピアーズWTB山崎洋之のトライ(ゴール)で同点に追いつかれると、同27分のCTBテアウパ・シオネのトライで逆転される展開に。もちろん、大分からの「3位確定」の報に手綱を緩めたわけではなく、後半9分に巨漢PRオペティ・ヘル、17分には日本代表FLピーター・ラブスカフニという大駒を投入してきたスピアーズの戦略に重圧を受けたからだ。

 

だが、この戦略にスピアーズを率いるフラン・ルディケHCの並々ならぬ勝利への執念が込められていた。単なる「勝ち」ではなく、ボーナスポイント付きの勝ち点5での勝利に。

 

伏線はキックオフ前にあった。12:10に三重・鈴鹿で始まったヒートvsスティーラーズは、復活したNo8パブロ・マテーラの驚異的なブレークダウンファイトなどでホストが互角に渡り合いながら、勝負所でラインアウトから仕留められずに、ビジターが2点差(33―31)でかろうじて勝利した。内容では負けに等しかったが、この辛勝=勝ち点4でスティーラーズは自らの5位を確定。つまり、スピアーズは自分たちのキックオフ前の時点で5位になる可能性を断たれていたのだ。

 

リーグ戦6位につけていた昨季王者にとっては試合前の〝落胆ポイント〟ではあった。だが、舌打ちしていられない現実は、勝ち点次第では7位に引きづり下ろされる可能性すらあったことだ。フィフティーンは「マストウイン、ボーナス付き」というモチベーションでキックオフのホイッスルを聞いたはずだ。

 

キックオフ前の時点で6位スピアーズの総勝ち点は39。そして追走する7位ヴェルブリッツの勝ち点は38という背中合わせの状態。明日5日に、すでに入替戦行きが確定するブラックラムズ戦で、ヴェルブリッツが勝ち点5をマークすると想定すると、スピアーズは勝ち点5が是が非でも必要な状況だった。3トライ差以上をつけられない勝ち点4では、総ポイント数で並んだとしても、ヴェルブリッツが日曜に5ポイントをマークすれば総勝ち数で上回ることになるために、スピアーズは「3トライ差以上」がノルマのゲームだった。

 

残り2分を切って、スピアーズが38―26と開幕戦で完敗した宿敵を突き放したことで、スタンドの「オレンジアーミー」は歓喜に沸いたが、スピアーズの15人は時計を見ていた。その思いを証明するように、相手のミスでマイボールスクラムになると、自陣22mラインから迷わず攻めた。ワイドにボールを動かし、この試合で抜群の切れ味をみせてきたWTB山崎に大外でボールを持たせる。リスク覚悟で自らゴールラインに蹴り込んだボールへと山崎が加速すると、追走したサンゴリアスWTB江見翔太が、そのスピードに思わずノーボールタックルを犯してのペナルティートライ。すでにインジャリータイムとなっていた時間での〝7トライ〟目で、チームの6位を確定した。

 

すでにプレーオフも入替戦も回避していたチームにとっては、5位でも7位でも大差はなかったかも知れない。ましてや、昨季は1位に輝いたチームだ。だが、来季のカンファレンス分けを、より優位にするためには順位を1つでも上げることの意味は重い。そして、それ以上に、注目のシーズン開幕戦で26-52と完敗して、現在も優勝争いに残る強豪をねじ伏せて次シーズンへの準備に入ることの価値は重たいだろう。

 

記録上は「PT(ペナルティートライ)」と記されているが、この日の後半8分、14分に続き、WTB山崎の3トライ目と認めていい快走で、順位争いも含めた勝負は決した。最後のトライに繋がる左サイドの激走も素晴らしかった山崎だが、決して潤沢とはいえないプレー時間の中で、ここまで自分のスタンダードを保ち続けている姿勢に驚かされる。

 

最初の後半8分のトライは、ミッドフィールドでの逆サイドのWTB根塚洸雅のタックルの恩恵だった。173㎝、82㎏の根塚の渾身のタックルに、198㎝、114㎏のLOサム・ジェフリーズがノックオンしたボールを、仲間が一気に逆サイドへ展開。ワンバウンドになったボールを持った山崎は、マークに入ったこの日3トライのサンゴリアスCTB尾﨑泰雅の内を切り裂くと、カバーDFに来たSO高本幹也、アルゼンチンの英雄FBニコラス・サンチェスを軽やかに抜き去りインゴールへと駆けこんだ。14分のトライは、PRヘル、LOルアン・ボタ、FLトゥパ・フィナウらスピアーズ自慢のストロングキャリーがダイレクトプレーで繋いだ楕円球を、最後に山崎が仕留めた。

 

スピアーズの今季開幕戦での先発WTBは、根塚と昨季注目を集めた木田晴斗。〝売り出し中〟の快足コンビの陰に隠れるように山崎が初めてメンバー入りしたのは2月のクロスボーダー・チーフス戦だった。この国際試合での2トライで評価を得ると、木田が9節ヴェルブリッツ戦で負傷したこともあり、11節ワイルドナイツ戦からこのゲームまで4試合で「11番」を背負って4トライ。チーフス戦も含めると5試合で6トライと快足を鳴らしている。

 

激戦区のアウトサイドBKでなかなか出場チャンスを確保できない山崎だが、この日のパフォーマンスで証明するのは、ゲーム時間を増やせばさらに可能性を広げるポテンシャルがあるという現実。明治大時代からその足には一目置く存在ではあったが、この〝遅れてきた11番〟のような能力をいかに伸ばせるかが、チームだけではなく日本ラグビーの大きなチャレンジポイントでもある。原石は十分に埋蔵されている。

 

スピ―ドで魅せたのが山崎なら、記録で驚かせたのが同じスピアーズのSH藤原忍だ。この日の試合前には、チームに先立ちピッチに飛び出し、リーグワン、前身のトップリーグ公式戦通算50試合目というアナウンスで祝福された。

 

天理大で2020年度大学選手権優勝を遂げると、21年4月にクボタ入りして、いきなり同月3日のサントリー戦で当時のトップリーグデビュー。その後は、次シーズンに誕生したリーグワンで49試合に出場して、入団わずか3シーズンで大台に立った。リーグワン側では、残念ながら同リーグでの通算出場回数を算出していないが、リーグ誕生からここまでの公式戦を算出すると、プレーオフも含めた総試合数は52試合(5月5日現在)。つまり、ほぼ最速での「リーグワン」での最速50キャップということになる。

 

いまやチームでの「50キャップ」が取り沙汰される時代ではない。実際、鈴鹿で辛勝したスティーラーズの重鎮〝ヤンブー〟ことPR山下裕史は、このゲームで久富雄一を抜いてトップリーグ&リーグワン通算178キャップの最多出場数を更新している。だが、船橋の9番が見せる素早いパスワーク、相手の隙を逃さない抜け目のない速攻、そして常にチャンスを模索する旺盛なプレースタイルが、チームでどう評価され、入団3シーズンで欠かせない存在になっているかが、この〝最速〟50キャップで証明されている。

 

残念ながらチームは、この日の勝利でシーズンを終えたが、この9番には日本代表という挑戦が残っている。もちろんエディーのお眼鏡に適うことが前提条件ではあるが、指揮官が掲げる「超速」という概念に基づいたラグビースタイルでは可能性を秘めた存在だ。本人も、まだ実像こそ現わしてはいないが、エディーが語り、実際に2月の〝候補合宿(15人制男子トレーニングスコッド)〟で取り組んだスタイルに興味を強く抱いている。その2月は、チームのクロスボーダー参戦で選考以前の段階で選考外となっていただけに、近く発表される今月20日からのトレーニングスコッド菅平合宿参加には意欲的だ。

 

ポテンシャルという点で、土曜日のゲームでもう1人触れておかなければいけないのは、敗者の13番、尾﨑泰雅だろう。前述した兄・晟也との競演で4トライ中3本を決めたCTBは、帝京大時代からすこし日本人離れしたフィジカリティーで異彩を放っていた。兄がシャープで引き出しのあるランでトライを築いてきたのとは対照的に、縦に無類の強さを持つランナー。本人は昨年のニュージーランド留学も進化の要因と語っていたが、その〝和製ガイジン〟のポテンシャルは大学時代から強烈に発散していた。この日稼いだ3トライも、外国人選手のようないかついフォルムの体形を生かしながらの猛烈な加速力とパワーで、防御を切り裂くようなランで奪っている。

 

その粗削りさも大学時代からの特徴だが、サンゴリアスでシーズンを重ねる毎に洗練されてはきている。それでも、この日、スピアーズWTB山崎に内を切り裂かれたように、まだまだ粗さは否めない。もちろん、あのシチュエーションでがっつりと山崎を仕留めたとしたら、相当、桜のジャージーに近づくことになるのだが、いまは〝伸びしろ満載のポテンシャル組〟という評価に留めておこう。

 

この日インパクトを残した選手に触れてきたが、確定したプレーオフ準決勝でも、彼らがどこまでポテンシャルを見せるかが楽しみだ。この日、完敗したイーグルスが2週間後に、同じ相手を倒すには大きな変容が必要だろう。もちろん、それは2試合を欠場中のSO田村優や、1月の第4節ダイナボアーズ戦以降ピッチを離れるSHファフ・デクラークの復帰が最上のシナリオではあるが、世界最高峰の9番については疑問符がつく。

 

サンウルブズが、今季2戦2敗のダービーを制するためにも「プラスα」が求められるが、快足チェスリンがコンディションを上げつつある一方で、ここ3試合(1分け2敗)の苦闘の要因にもなる接点でのファイトに欠かせないオールブラックの復帰は極めて難しい。

 

順位が下のチームが、どこまでゲーム自体の変容を起こすことが出来るのか。準備と変化を楽しみに2週間後の週末を待とう。