どうやら巷は黄金週間なるものに突入したらしい。

円安にヒーヒーいいながら海外に旅立つ奇特な方々もいるようだが、〝週間〟最初の週末は港区が舞台の府中ダービーと、今週2度目の八幡山へ。

 

先ずは目新しいほうのカードからだ。

世田谷区環八沿いの平地にある〝山〟を根城にするのはご存知明治大学ラグビー部。創部100周年を迎えた昨季は、惜しくも帝京大に決勝で敗れてメモリアルイヤーの日本一には届かなかった。

 

新たなシーズンに、名門軍団が掲げたスローガンは「奪還」。

誰もが明白に分かるもワードになったが、その奪還を賭けた第1歩となるゲームを覗いておこうと、真夏のような陽射しの下を北西へと向かった。


同じ日に、大学最強の帝京大も法政大との今季初戦を組んでいた。前勤務先のニーズを考えれば、「王者」の始動にプライオリティーを置いてもいいのだが、個人的には、「勝者がいかに強さを継続するのか」よりも「敗者がいかに王者に喰らいつくのか」が興味深い。大学ラグビーに最近冷たいなと自己認識する中で、数日前に明治・神鳥裕之監督と顔を合わせたときに、こんな会話をしたこともあり、八幡山詣に赴いた。

 

「今度、すこし時間をかけて今季に挑む思いを聞かせて欲しいんだけど」

 

「いいですよ。いつでも来てください」

 

すこしコラムの骨格を練る必要もあり、どのタイミングで何を聞き、いつ書き始めるかも含めて、後日、あらためてインタビューを考えているので、GW最初の日曜日は、ゲーム中心に書き残しておきたい。

 

流通経済大学を相手にした関東大学春季交流大会。結果は89-38というバスケットボールのようなゲームになった。序盤こそトライを奪い合う展開になったが、雌雄はかなり早い段階に決していたようにみえた。

 

紫紺のファーストトライの獲り方がいい。

 

連続攻撃からLO佐藤大地(國學院栃木④)、小椋健介(桐蔭学園③)が次々とダイレクトプレーで縦を突く。明治伝統のストロングスタイルで重圧を掛けると、撓んだ相手防御にSH柴田竜成(秋田工③)が仕掛けて、浮かせたボールをもらったWTB坂本公平(東福岡④)がインゴールに飛び込んだ。1人ひとりが、しっかり自分たちの役割をこなして生んだ先制パンチ。まだ粗さも、準備不足も満載のはずの開幕ゲームで、この精度は上々の出来と実感した。

 

直後のキックオフアタックからも、捕球した福田大晟(中部大春日丘④)がバランス抜群のボディーターンを生かしながら前に出る。CTB山田歩季(京都成章④)は身長174㎝、体重92㎏のサイズを生かした力強いキャリーを披露。U20日本代表候補組らが不在な中でも、選手たちのポテンシャルは十分に感じさせるプレーを、紫紺は何度も見せた。

 

101年目の明治で、伝統のFWの核となるNo8木戸大士郎(常翔学園④)は、主将としてのファーストマッチを、こう振り返った。

 

「想定内という感じですね。フレッシュなメンバーが多くて、連繋が取れない部分とか、ラグビー的な部分で共有できていない部分が出た感じです。今季のチームは、去年ですごくタレントが抜けたので、全員がハードワークして、監督の言葉なんですけど凡事徹底、当たり前のことを誰もが出来るチームにしていきたい」

 

昨季のチームからは10人を軽く超えるメンバーはリーグワン入りした。FWならPR為房慶次朗(スピアーズ)、LO山本礼二郎(ブラックラムズ)、BKはSO伊藤耕太郎(同)、CTB廣瀬雄也(スピアーズ)ら、コアメンバーが大量に抜けたシーズン。チームを率いる木戸主将は、神鳥監督と同じ高校で同じポジションという直系の後輩で、紫紺の軍団で1年から公式戦に名を連ねてきた。伝統的に「エースポジション」と言われてきた8番を背負うリーダーに負う部分はグラウンド内外が大きいはずだ。この日のゲームでも、相手の留学生に何度も渾身のタックルを浴びせ、ボールを持てば1歩でも前へと仲間を引っ張り上げようとするスキッパーの姿を見ることが出来た。

 

昨季の4年生の能力を考えると、普通のチームなら相当な戦力ダウンが見込まれるだろう。もちろん、この八幡山の男たちも同じ苦難を迎えているはずだ。だが、毎年のように全国区の強豪高校からエリートが集まるこのチームには、そのマイナスが致命的に感じられないの分厚い選手層を誇る。

 

数日前に試合観戦の旨を伝えた時に、神鳥監督は「メンバーは、まだまだですよ。選手は揃ってないし」と控え目に語っていたが、試合後の言葉は戦前よりも前向きだった。

 

「まだほとんどラグビーしてない段階での試合。ストラクチャーの部分も、(戦術の)インストールもまだ始めたばかりなので、3月、4月はとにかくフィジカルとS&C(ストレングス&コンディショニング)とユニット、あとは基本スキルに徹底的にフォーカスしてきた。そういう意味では接点の局面とか、熱さの中での80分間のタフさとかは相手を上回れる部分も結構あったので、そこは評価できると思います。怪我人が多くて、今日は初紫紺もたくさんいましたので」

 

及第点という感触だった指揮官4シーズン目のファーストマッチ。後半20分過ぎからはノーガードの打ち合いのような展開になったが、シーズン初戦、夏日の暑さを考えれば止むを得まい。失点については監督、主将とも厳し目ではあったが、後半途中までの相手の4トライ目までは、留学生の個人技で2本、パスインタセプトから2本という、崩されて奪われたものではない失点だった。

 

そんなゲームの中で、指揮官が評価したのが、まだ入学1か月に満たない段階で紫紺のジャージーに袖を通したFB為房幸之介(常翔学園)、ベンチスタートのSO萩井耀司(桐蔭学園)、CTB白井瑛人(同)のルーキーたち。唯一の先発でデビューした為房は、金昂平(大阪朝鮮高④)、坂本両WTBのアグレッシブなランもあり、見せ場は多くはなかったが、キックカウンターから相手の陣形を冷静に把握した50/22の好キックでトライの起点を創るなど高い判断力を見せた。神奈川・桐蔭学園の昨季花園Vメンバー萩井も、途中出場から大学生相手にラインを動かし、角度のないキックも含めてコンバージョン3本全てを成功させた。

 

昨季まで不動の指令塔に君臨した伊藤耕太郎の〝後釜〟争いは、実弟でU20代表でも活躍する龍之介(國學院栃木②)、同期の伊藤利江人(報徳学園②)が軸になるが、神鳥監督は「1年生の3人良かったですね。萩井は存在感を出してくれた。10番は渋滞しているが、ちょっと面白いかも知れない。チーム方針でも、コーチには頑張ったら上に上がれる事例をたくさん作ろうと話しているので」とルーキーへの期待も膨らませる。

 

昨季で抜けていったコアメンバーの穴を埋めるためにも、積極的に新しい力にも投資していくのが今季の明治の戦い方。揺るぎない強さを持つ王者・帝京に、どこまで迫れるのか。秋までの熟成に注目だ。