▲松島&松田のサプライズゲストの登場で、ついに

決壊のフミくん。会見最後に「らしさ」をみせていた

 

 

引退会見を開いた〝小さな巨人〟のコラムをアップした。

 

 

 

 

伏見工高時代は「アイツが田中かぁ」とプレーを眺める程度。大学でも、当時の京都産業大と遭遇したのは夏合宿、大学選手権といったところ。本格的に話を聞き始めたのは、彼が三洋電機入りした後の太田でだった。

 

その資質はコラムで書いた通り。確かに伏見工高、パナソニック(三洋)と直系の後輩でもある内田啓介、代表で9番の座を争った流大のような、高いスキルのイメージは薄い。だが、状況に応じた集中力は卓越していた。フミくんよりもスキルフルで華麗なパス、ラン、キックをみせるSHでも、チャンスどころのパスアウトで力み過ぎて、ボールの回転軸がぶれ、山なり気味の〝へぼパス〟をしてしまう選手も少なくないが、この9番は、そこは抜かりはなかった。日本代表のテンポでボールを捌き、確実に仕留めるキラーパスは見事だった。エディー、ジェイミーと体制が継承される中で、当時の(今でも!)ジャパンが求めるスピードでボールをアタックラインに供給出来る9番だった。

 

引退会見の翌日に、エディーさんが日本代表予備軍の学生14人を集めて開催したJTS(ジャパン・タレント・スコッド)の囲み取材でも、指揮官はこの小さな9番について、こう評価している。

 

「彼は本当に日本のラグビーを変えてくれた。2015年のチームを思い返すと、メディアはリーチ(マイケル)や廣瀬(俊朗)が注目されていた。だが、フミはいちばんチームを変えるためにドライブしてくれた選手でした。自分が日本人だということに誇りを持ち、チームの考え方を誰よりも変えてくれた選手でした」

 

これだけの称賛をあのエディーさんから受けるのだから、代表選手としても本望だろう。エディーは、そのプレーヤーとしての資質を「グッドタックラーではなくグッドディフェンダーだ」とも評したが、その迷わず前に出て、どんな相手にも怯むことなく、遮二無二にプレッシャーをかける姿勢に、日本選手の可能性を見出したのではないだろうか。

 

涙脆さも、この9番のキャラクターだった。2015年大会をプール敗退で終えて帰国したときのチーム会見でも、話し出すのとどちらが先かというほどの早さで泣きながらのコメントをしていた。今回の会見では、コラムの冒頭に書いた引退挨拶を、なんとかこらえて会見終盤まで漕ぎ着けたが、代表合宿で先輩のフミくんをいじり続けていた松島幸太朗、伏見工高とワイルドナイツで後輩の松田力也が、サプライズで登壇すると、いとも容易く涙腺を決壊させていた。

 

簡単にいえば人情家で、情熱家。鼻っ柱の強さも持ち併せたSH。高校、大学時代はスキルは持っていても、随分と強引なプレーが目についたが、3度のワールドカップで苦杯と美酒を味わう中で、自分のプレーよりも、コンビを組むSOとチームの仲間たちにいかに生きたボールを供給できるかをコントロール出来る洗練された9番へと成熟していった。

 

先のエディーは、この日の合宿で、いま注目のSH高木城治(京都産業大)にも「田中フミのようなSHになってほしい」と語ったという。これからの日本代表は、流が昨秋のフランスを花道にサクラのジャージーからの卒業を表明したため、同じくフランスを体験した齎藤直人(サンゴリアス)、代表経験豊富な重野海人(ヴェルブリッツ)に、昨季キャップを獲得した福田健太(同)、今季のリーグワンで活躍する藤原忍(スピアーズ)、小山大輝(ワイルドナイツ)、杉山優平(ブレイブルーパス)ら若手がどこまで食い込めるかがが注目される。U20での世界挑戦に備える高木や、同じ京産大の土英旭も、正代表とはそう離れた位置にいるわけじゃない。

 

伏見工高時代からだと20年を超えるトップ選手としてのキャリアを終えるのは寂しいことだが、田中史朗の後を継ぐ者は誰なのかは楽しみしかない。

歴史を築いた9番が去ったいま、ピッチに残した偉大な足跡を追う〝ポスト・フミ〟のレースが始まった。