日曜日の私用のため、深夜のオンデマンド観戦を終えて週末のおさらいを。

 

日曜日はだいぶ息詰まる展開のゲームが続いたが、負けかけたリーグ2位、そして今季未勝利だった12位の逆転勝ちは、その接戦を楽しみながらも順位争いに大きな影響はなかった。影響があったのは、札幌ドームで行われた北海道でのリーグワン初開催のカード。最終スコアこそ10点差まで迫ったものの、スティーラーズの苦杯で自らのプレーオフ入り絶望、そして4強チームの顔ぶれを確定してしまった。

 

10点差に触れたが、惜しまれるのは〝チャレンジャー〟であるはずのチームから「背水」の思いを、そう強くは感じられなかったこと。スコアでは常にスピアーズに喰らいつく展開ではあったが、総力戦のはずのゲームで、欠かせないメンバーのはずのBRアーディ―・サヴェアをベンチスタートさせざるを得なかったことが、いまのチームの現実、自力を物語っていた。そして、そのアーディ―がピッチでみせた、でんぐり返ししてでも前進を試みた勝利への貪欲さを、他のメンバーがどこまで持って80分間を戦っただろうか。

 

8-7というタイトなゲームになった鈴鹿での戦いは、様々な理由でメンバーを落したリーグ2位と、ようやく役者が揃ってきた11位は、こういう展開になることを証明していた。上位チームに慢心があったとは主張しないが、最後は自分たちのミスで攻撃権を失う展開を映像でみると、どこかに「いつかスコアできる」というマインドがあったように感じていた。

 

不動の司令塔の不在は大きく影響したが、それは単なる彼への「依存」ではなく、あまりにも彼を軸としたパッケージでシーズンを戦い続けてきたことの影響のようにみえた。今回もそうだが、アクシデンタルな理由で不動のメンバーを急遽欠く状況がプレーオフで起きた時に、どうチームがその穴を埋めて自分たちのスタンダードを貫けるかという課題を得たことは大きな収穫だろう。

 

生駒の10位―12位決戦は、多くは触れないが、敗者の新鋭指令塔が、与えられた投資のチャンスに攻守で着実に経験値を上げていることだけは間違いない。

 

結果的に最もインパクトを感じたのは、春から夏の装いになろうとしている秩父宮でのゲームだった。

 

4位イーグルスが9位ダイナボアーズに43-19と快勝したが、前半は19-19という白熱のバトル。金曜日のドローも含めて、接戦続きの週末だったが、土曜の後半は勝者が24-0と圧倒して、ボーナスポイントまで奪い獲った。

 

苦闘しながらも勝ち点5獲得まで相手を突き放したイーグルスの地力を、セットピース、フィジカル、スコアを取り切る力で感じさせられたゲームではあったが、個人的には、80分間いや前半40分で最も輝いたのは敗者の#10ジェームス・グレイソンだ。

 

 

 

 

父ポール・グレイソンは、イングランド代表の2003年ワールドカップVメンバーで代表通算400ポイントを稼いだ指令塔だ。その息子は来日1シーズン目の今季、開幕から3戦連続も含めて、ここまでの14試合中13試合で10番を背負う、まさに不動の指令塔。ボアーズで強烈なインパクトを残したジェームス・シルコックの後釜として、随分と廉価なサラリーで相模原市にやってきた〝サラブレッド〟だが、その父親にも劣らない才能に気付いたチームは、シーズン中にさらに2年の追加契約を結んでいる。

 

この可能性を秘めた10番の最大の魅力は、そのパススキルと視野だと再認識させられた。「プレーオフ」めがけて突っ走るイーグルス相手に、その才能をいかんなく見せつけた。ハイライトは、前半28分のWTBベン・ポルトリッジのトライ。自陣10mライン付近のスクラムからの右オープンで、仕掛けながらパスを受けると、外側へと走り込むCTBマット・ヴァエガにベストのタイミングでパスを送り、内をサポートした快足WTBの3人抜きのフィニッシュを生み出した。

 

パススピード、正確さ、そこに自ら仕掛ける意識と、どこで誰に持たせればスペースを突けるかという視野を兼ね備えた10番。そんな評価が妥当だろうか。この日は前半14分のチーム初トライも敵ゴール前の右展開で、パスを意図的に一拍遅らせての2人とバスで同じくポルトリッジにキラーパスを放ち、21分にも再びダミーパスで相手防御をズラしてWTBタウモハパイ・ホネティ-CTBヴァエガ-SH岩村昂太と繋いだ鮮やかなトライを演出した。

 

試合当日に、ある関係者との雑談で「SOは南半球よりヨーロッパがいい」と話したが、まさにこのグレイソンがヨーロッパ産SOの典型だろう。リッチー・モウンガのような華麗な個人技はないが、アタックラインをいかに効果的に動かし、アタッカーをスペースに走らせるかに挑み、防御を崩していくかが大きな魅力だ。

 

グレイソン本人はアタックの完成度の高さに、アタック担当コーチのジョー・マドックの存在を指摘している。プレミアシップの古豪バースのコーチとして頭角を現し、前任地のブレイブルーパスでも手腕を発揮したマドックだが、相模原でも28分のトライが象徴するように、セットピースからの1次フェーズで一気にトライを奪い獲るアタックを落とし込む。

 

10年以上に渡り世界でトレンドになっているポッドラグビーだけに徹すれば、なかなかお身にかかれない1次フェーズでのスコアだが、現在リーグ9位に甘んじるこのチームはリーグワン参画チームの中でもトップクラスのセットピースフェーズアタックの完成度を見せる。もちろん状況に応じてポッドを形成しての連続アタックも使うが、グラウンドをワイドに使って防御を崩すアタックには、マドックのビジョンに加えて、この10番のパススキルがその脅威度を高めている。スコアに直結しなかったが前半23分の自陣からの左オープン展開でも、攻撃ラインの浅さと深さのコントラストを駆使した華麗なワイドアタックを見せている。

 

新鋭SOは現在25歳。UKでのインタビュー記事では、サラブレッドの日本挑戦という見方に対して「常にプレー時間を持て、自分が成長できる環境こそ正解」と日本での挑戦を語る。文化も大きくことなる生活も「周りの日本人もとてもいいし満足」と気に入っている。こちらもからかい半分「相模原はいい人ばかりだが、ここ(秩父宮)周辺のダウンタウンは悪い人もいるからね」と話すと「気を付けるよ」と笑っていたが、はたしてこの指令塔が日本代表規約をクリアする4年後まで、この極東の地でラグビーを続ける可能性はるのか。

 

本人は「2年の契約をまず全うする。それからだね」と明言を避けたが、この人材をおめおめと母国か第3国へリリースするのは大きな損失だ。日本代表の10番は、昨秋のフランスでは松田力也(ワイルドナイツ)が不動の位置でチームを引っ張ったが、選手層をみれば、まだまだ潤沢とは言えないのが実情だ。

 

個人的には、テストマッチで相手に立たれて一番嫌だと感じるのは、相変わらず田村優(イーグルス)であるし、その一方でW杯でもわずかながらプレー経験を得た李承信(スティーラーズ)、エディー体制での復帰が期待される山沢拓也(ワイルドナイツ)、将来性が期待される伊藤耕太郎(ブラックラムズ)とまだ経験値を積み上げる必要のある候補者が多い。グレイソンの日本代表問題はかなり未来のテーマなのだが、本当に世界のトップ4に食い込み、優勝を目指すチームになるためには、来年で規約をクリアするアイザック・ルーカス(ブラックラムズ)や、このイングランドから来た10番のような、ティア1ネイションズ相手にも厄介な存在と成り得るSOが欠かせないだろう。

 

先にも触れたが、このチームは前任者のシルコックに続いて、可能性にあふれた10番をイングランドから仕込んでいる。マドックのようなNZ人ながらUKにネットワークを持つコーチの情報もプラスに働いているようだが、そのシルコックは、さらに高みをめざして相模原を離れて、昨季はイングランドAでポルトガル戦にも出場している。彼の選択は間違っていなかったのだが、では〝後釜〟は2年にどんな選択をするのだろうか。

 

ノーザンプトンからやって来た指令塔の才能を、いかにチーム、そして日本ラグビーが、この極東の島国に引き留めておくことが出来るのかに注目したい。チーム側では、本人の希望もあり、数人の外国人選手が居を構える、グラウンドからはすこし離れた海沿い町への引っ越しも容認するなど、好待遇で代表入りも含めた長期の在籍を求めている。これから、さらに活躍、チームの躍進があれば、その存在感は日本内外で注億度を増していくはずだ。魅力的なオファーも、母国やヨーロッパ諸国から囁かれるはずだし、父と同じ純白のジャージーに憧れを持っても不思議ではない。

 

ここは、天下の三菱重工という世界規模の大企業と、イングランドの選手にとっては無視できない存在でもあるエディーらがタッグを組んで引き留め工作を練るしかない。