▲会見の両者表情にも「明暗」が滲む?

 

 

桜の季節が終わり、春本番となった週末のおさらい。ハイライトになった試合を挙げるとしたら、14日に秩父宮で行われた狼軍団と西の鉄人の一騎打ちだろう。

 

時代が時代なら、東西雌雄を賭けた一戦だったこのカード。終盤の息詰まるような展開に、スタンドはかなりの興奮状態なった一方で、ぶっちゃけた話をすると、この日の勝敗がどう転ぼうとも、実はそう大きな変化はなかった一面もある。ホストがトップ4を確定し、ビジターがかろうじてプレーオフの可能性を残したという現実は、引き分けでもホスト勝利でも変わらなかった。例え敗戦だったとしても、ほぼ手中にする4強確定が1週間後回しになっただけだった。

 

リーグ2位を守り続け、プレーオフ確定を目前にするホストと、4強サバイバルになんとか喰らいつこうとする古豪のバトルは、前半のワンサイドから予期せぬつばぜり合いへと転じたが、このゲーム内容、結果は様々な観点から評価のしようがあるだろう。独断を許していただけるなら、終盤の苦境に好防御で敗戦を回避したホストに軍配を挙げたい。

 

まずは、両チームのHCのコメントをお伝えしておこう。

 

前半を19点のビハインドで折り返し、最後はホストの首根っこを掴んだような挽回を見せながら、最後のコンバージョン失敗で勝利を逃したデーブ・レニーHCは「負けに等しい」と厳しい総括をしている。立ち上がりに相手の〝府中特急〟ジョネ・ナイカブラらに、好き放題走られたのは大きな〝敗因〟にはなったが、タックルの甘さは指揮官もフラストレーションを感じていたようだ。後半の勢いづく中での決定力不足も悔やまれる。

 

一方、ホストの指揮官は、追い込まれながら「負けなかった」という結末と、前半の大量リードから「勝ち切れなかった」というプラスマイナスの評価を「両方あった」と振り返った。当たり前の評価ではあるが、あわや逆転負けを回避したことに意味があるように感じたコメントだった。

 

背景にあるポジティブファクターは、7節を最後にチームを離脱するBRリーチ・マイケルの不在と、父親の訃報で試合前夜に帰国したSOリッチー・モウンガの緊急離脱の中で負けなかったこと。もちろん、この2人の不在で勝ち切れなかったという現実がトッドHCの「両方」というコメントになったのだろう。

 

しかし、グラウンドに立った15人のパフォーマンスをみれば、価値のあるドローと評価するべきだろう。様々な要素が80分間の中に横たわる試合だったが、個人的にインパクトを感じた3つのプレーを記しておこう。

 

最初は73分のSH高橋昂平のジャッカルだ。5点リードで自陣ゴール前に押し込まれていた状況で、東海大時代からワークレートとボールキャリーが光る神戸LOワイサケ・ララトゥプアの突進に喰らいつき、倒した相手にそのままジャッカルに入って、マイボールスクラムにした。チームでは常に1年後輩の杉山優平からの交代でピッチに立つ存在だが、フィジカルを生かした接点や防御に強みを持つ21番は、この日もブレークダウンファイトで価値ある一撃を披露した。

 

リザーブSHの泥臭いファインプレーの4分後に魅せたのはLOワーナー・ディアンズ。日本代表での実績も積み上げるエリート選手だが、高橋のジャッカルと同様、自陣ゴール前での5点リードの中で、縦に突っ込んできたオールブラックLOブロディ・レタリックに対して、閂タックルを決めてボールを落球させている。

 

本人は、その後、結果的に同点トライを奪われたことも踏まえて「満足感はない」と厳しい自己採点だったが、昨秋のフランスでの経験も踏まえた上で、リーグ戦でのフィジカルファイトでタフさを上積みしているのは明らかだ。昨シーズンまでは、注目度は高くても実戦の中ではLOコンビを組むジェイコブ・ピアースに負う部分も多かったワーナーだが、ようやく独り立ちし始めているのが今シーズンだ。

 

最後の評価するべきプレーは、同点に追いつかれるトライまでの組織防御だ。時間にするとトライまでの6分間。スクラムの組み直しなども含めると10以上のフェーズを守り続け、最後のトライも、シンビンで14人になりながらゴール中央への侵入を許さない内側から外へ押し出すような防御を見せた。高橋とWTB濱田将暉の追走で神戸のグラウンディングをタッチライン際に押しやったことで、SOブリン・ガットランドの決勝コンバージョンを阻止することになった。

 

結果的に首位を走る野武士軍団以外に対して初めて白星を逸したゲームにはなったが、その強さを証明したドローでもあったと評価したい。神戸戦までの今季のリーグ戦12試合で5度の7点差以内のゲームを勝ち切って来たチームの、しぶとさ、勝負強さを、この日の負けかけたゲームでも証明しているからだ。

 

勝ちきれなかったとう観点から反省材料があるとしたら、終盤の苦境の中で自陣からエクジット出来ずにプレーをしてしまったことだろう。値千金のジャッカルを披露した高橋も認めているのだが、相手のプレッシャーに苦戦してエリアゲームを出来なかった一方で、トッドHCの目指すスタイルでもあり、自分たちの信条でもあるアタックする意識が、自陣からのエスケープという意識を上回ってしまったナイーブさもあったようだ。

 

局面局面で、どの判断が正しかったのかは、チームが検証すればいい。だが、ノックアウトトーナメントになるプレーオフまで残り3試合という段階で、勝つためにプライオリティーを置くべき選択肢、プレーは何なのかという〝宿題〟をもらったのことが「これから」に繋がるはずだ。より適切に、よりクレバーに戦い、勝ちきるための経験値、選択肢をフィフティーンが現場で体感できたことは、勝ち点2以上に価値のある80分になったはずだ。