きょうは簡単に。

 

総入場者数の最多記録を更新した新年度最初の週末ラグビーは、駒沢と外苑で。

やはりハイライトは、船橋と府中に本拠を持つハードヒット軍団による〝武蔵野線ダービー〟(だいぶ距離は離れているが)。

 

ラスト数分の、狼チームのセタさんの大暴れがインパクトに残るが、その〝演出〟をしてしまったのは「裁定」だった。

 

セタの幻のトライから、本物のトライという数分間。最初のトライ召し上げについて、外から観ていた側は、滑川剛人レフェリーのポイントと、セタさんのタップした位置がズレていたのが問題と解釈したが、選手に聞くと、どうやらポイントより前方で、ルーパスLOジェイコブ・スピアースが倒れていたことによる〝リスタート〟ということらしい。

 

でも、プレーに関与していない味方選手が前方で倒れていても、タップからのアタックは認めていいだろう。実際に倒れていたジェイコブは、セタさんがタップからアタックしようという動作に入ったのをみて撤退する姿勢に入っていた。ジャッジを前向きに解釈すれば、撤退しようとしていたジェイコブとセタさんの位置で、防御を阻害されたスピアーズ選手がいたとう解釈での〝差し戻し〟というリクツか…。

 

トライ成立か不成立かの議論がある一方で、もう1つ文句のつけどころがあるとすれば、ファンサービスという観点でだ。

 

確かに、そんなルールがあるわけじゃないが、あのような勝敗にも直結し、尚且つ判然としないジャッジやプレーが起きた時は、どのような状況が起きて、どのような裁定が為されたかを、観客に説明するべきだろう。より判りやすいラグビーを提供するのも、事業化を進めるリーグでは重要なサービスになるはずだ。

 

でも、TMOが行われたのは、すでにルーパスSOリッチー・モウンガがコンバージョンを決めた後だ。まぁ、その段階でTMOサイドから指摘があり、ビデオチェックが行われたというのであれば、やはりトライからコンバージョンの間に、ゲームを止めるべきだっただろう。

 

勘違いしちゃいけないのは、ワールドカップで笛を吹きたいという思いで選手からレフに転じた滑川くんが、誤ったジャッジをしていたということではない。彼は世界に挑もうとするスキルも身に着けるトップレフェリーの1人でもある。むしろ、TMOサイドとのコミュニケーションやコンビネーション、今回のような予期せぬ状況の中で、どうゲームを動かし、止めるのがベターなのかという判断の問題だ。今後のためにも、このような状態の中で、レフ、アシスタント、TMO担当者が、どう判断し、行動するかを確認、場合によってはマニュアル化することも含めて検討するべきだろう。

 

終盤のいざこざにフォーカスを当ててしまったが、忘れちゃいけない、この80分間で最も大事なこともある。勝敗に関係なく、両チームの30人が終盤戦、春の陽気の中で、素晴らしいゲームを見せてくれたことだ。

 

敗れはしたが、船橋側の復帰したSOバーナード・フォーリー、そしてコンビを組むSH藤原忍の組んだHBは見事にゲームを組み立て、チームを先鋭化させていた。そして、今季〝やや湿りがち〟だった自慢のFWも、接点でリーグ2位を走る相手を相当に苦しめた。今季、なかなか上位に浮上できない中で、この日の昨季王者は十分に〝取り戻し感〟を印象づけた。悔いることがあるとしたら、最後にセタを2度も抑えきれなかったことではなく、チームが流れを掴んでいた前半戦で、もうワントライ(ゴール)ぶんリードを奪えなかったことだろう。

 

ちなみに、最初のノートライの後、府中がPKからリスタートしたシーンで、ファンブルボールに鮮やかなフロントセーブをして、一度は相手の流れを寸断したのはCTB立川理道主将。あのままゲームが終われば、勝利を奪い獲るファインセーブと語り継がれただろう。

 

勝った府中のチームも接点を軸にプッシャーを受け、10点のビハインドを背負う中からゲームをひっくり返したのは、この先にも大きな意味を持つ。4年前なら、すこしおかしな展開から、そのまま切り返せないまま敗者になるゲームも少なくなかったが、今季はこの日のゲーム以外でも、苦境から勝ち切るゲームを何度も見せてきた。ラグビーでは持てはやされるレジリエンスを着実に身に着けながら、トップ4トーナメントへとステップを上がっているのが、いまのチームの在りようだろう。

 

これまでのキャリアはLOながら、だいぶブラインドサイドFLも板についてきた伊藤鐘平は、この日も敵陣での左ワイド展開からタッチ際でパスを受けると、ディフェンダーにタックルをさせながら見事なオフロードで、WTB森勇登のトライを生み出している。

 

この技ありのプレーも、本人は「勇登からも指示が出ていた」と2人の冷静なコミュニケーションがあってスコアに結び付いたものだと話してくれた。このような連携が、チームに厚みを増し、結果的に勝敗を引っくり返すことにも繋がっているのが、2024年のルーパスの強さだ。ちなみに、このトライに関わった2人、船橋サイドで好パスでアタックラインを引き上げた藤原は揃って25、26歳。この世代に、日本人のポテンシャルのあるプレーヤーは、実は目白押しだ。

 

トライを決めた森勇登も、本職はCTBながら居並ぶ世界クラスのBKラインの中でなかなかプレー時間を伸ばせない若手の1人だが、ボールを持てば常にクリエーティブなプレーをしようと常にチャレンジを続ける好プレーヤー。モウンガ、リハビリ中のリーチ・マイケルら注目選手も多く、なかなかスポットが当たらない存在だが、高い個人技、視野の広さで勝利に貢献するビッグプレーを期待したい。