ワンサイドゲームが多発した今週のリーグワンだったが、ラストゲームで息詰まる好ゲームを味わった。

 

勝負どころで決定力をみせた勝者のフィニッシャー#14ベン・ポルトリッジのスピード、昨季王者が乱発したペナルティーなど、見所は多かった80分だが、個人的には「花道よりいつも通り」を選んだリーダーの勝利と称えたいゲームだった。

 

三菱重工相模原ダイナボアーズ#9岩村昂太主将

 

神奈川にやってきたのは2021年初夏のことだった。182㎝、87㎏。日本では破格のサイズを誇るSH は、東福岡高校-同社大学そしてトヨタ自動車(現トヨタヴェルブリッツ)と、どのステージでも名門と呼ばれるチームでプレーをしてきた。ダイナボアーズは2020年シーズンにリーグワン前身のトップリーグで初勝利を挙げた、まだまだ成長段階のチーム。岩村は入団2シーズン目から主将としてチームを引っ張って来た。

 

この日の秩父宮でのビジター戦。ホストチームの#1海士広大が、チームで通算50キャップ目というメモリアルマッチに、選手入場に先駆けてただ一人ピッチへと走り出てスピアーズファン〝オレンジアーミー〟から拍手と歓声を受けた。ラグビーでは世界のどこでも見られるセレモニーだが、その直後に、控え目に登場したのが岩村主将だった。

 

ホストチームの元フロントロー、広報を務める岩爪航から、試合前にこんな話を聞いた。

 

「岩村君も50キャップと聞いたので、海士と一緒に2人揃って入場すればいいと誘ったんです。でも彼は『自分はいいです』と断ったんです」

 

聞くのと同時に1つや2つの理由は頭に浮かんだが、取材を終えたスキッパーに声を掛けると、はにかんだような笑顔でこんな話をしてくれた。

 

「いつも通りにしたかったんです。本当にそれだけです。50キャップは1つの節目ですが、僕は皆に祝福されてというのはすこし恥ずかしいという気持ちもありますし、いつも通り試合に臨みたいという気持ちがあった。ヘンに浮かれずにでいいのかなと思って…。すごくいい提案をしてもらったんですけど、ちょっとお断りさせていただきました」

 

 

 

 

相手チームへの配慮をしながらも、この試合で何が大切なのかを、地に足を着けて考えていたスキッパーがいたからこそ、最後までボアーズのゲームを貫徹できたのか―。話を聞きながら、そんな思いが浮かんできた。

 

圧倒的なフィジカルをベースに、相手に重圧をかけてエリアを獲り、敵陣でPKを得ればショット、スペースが出来ればボールを動かしトライを奪う―。チームの伝統と、南アフリカの強豪ブルズでスーパーラグビーも制したフラン・ルディケHCの流儀をミックスさせたラグビーで、昨季リーグワンを制したスピアーズ。この日も接点での重さと強さ、203㎝、199㎝のセカンドローの高さで重圧をかけてきた相手に、互角以上に渡り合った。

 

犯した反則はボアーズの7に対して、昨季王者は倍近い13。ブレークダウンでの猪突猛進ぶりで、相手に主導権を掌握させなかった。チャンスボールを持てば、相模原のスピードスター#14ベン・ポルトリッジが抜群の決定力をみせる。前半終了目前に、キックパスから陸上200mの16歳以下NZチャンピオンの加速でインゴールへ駆け込み同点で折り返すと、後半33分には勝利を決定づける逆転トライを決めた。

 

「もちろん陸上の経験が(加速の速さ)にプラスに働いている。いまは日本代表もチャレンジしたいし、エディーさんの目指すラグビーも自分には向いている」

 

 

 

 

相次ぐ怪我で、なかなか日の目を見ないスピードスターは、昨年9月で31歳になったが、そのイッキにギアをトップに叩き込む加速力と絶対的なスピードは、リーグワンでも屈指の存在だ。そんなフィニッシャーに、フィジカルバトルで奪ったボールを持たせて、3連勝と昨季の強さを取り戻しつつあるディフェンディングチャンピオンを振り切った。

 

前節でリーグ屈指のスクラムを誇る静岡ブルーレヴズを8点差で下したのに続き上位チームに連勝して、8節を終えて4勝4敗でシーズンを折り返した。昨シーズンは開幕5節までを3勝1分け1敗と好スタートから失速して12チーム中10位で終えたが、今季は2週前のサンゴリアス戦もレフェリングにも泣かされ2点差で逃したが、トップ4争いの常連とも渡り合える戦いが続く。

 

次節の相手も強豪コベルコ神戸スティーラーズ。この日のボアーズの金星にも助けられ、4位に浮上したチームを、ホストの相模原ギオンスタジアムで迎え撃つ。誰もが認めるスター軍団を相手に、どこまでスキッパーがこだわる「いつも通り

で戦えるか。チームの真価と進化が問われる80分になる。