明日未明には6カ国対抗も始まる中、日本ではクロスボーダーなる大会が幕を開ける。

 

リーグワンが発足前から開催を目指していた国際大会だが、発足から3シーズン目でようやく実現した。開幕前日の2日には、サンゴリアスと初戦を行うブルーズが試合会場の秩父宮で練習を行い、新任のヴァーン・コッターHCとトヨタヴェルブリッツでもプレー経験を持つLOパトリック・トゥイプロトゥ主将が取材に応じた。

 

海外のリーグと連携して大会を実現することの難しさは間違いなくある。その観点から考えると、リーグ側の努力、困難も多かった大会のキックオフは価値があるだろう。だが、その一方で、3シーズンという時間がかかっての開催実現、そして大会自体の「いま」のクオリティーを考えると、ここからどこまで大会の価値を高めることが出来るかというチャレンジは山積のようにも見える。

 

とりあえず大会日程、概要を書き記しておこう。

 

2.3  東京サントリーサンゴリアスvsブルーズ 12:00 秩父宮

2.4  埼玉パナソニックワイルドナイツ vs チーフス 14:30 熊谷

2.10  横浜キヤノンイーグルス vs ブルーズ 12:10 ニッパツ三ッ沢

          クボタスピアーズ船橋・東京ベイ vs チーフス 14:30 秩父宮

 

この4試合が行われるが、優勝などのタイトルはない。いわば交流試合のようなものではあるが、段階的にバージョンアップしていくための第1歩というのが実情だろう。今回の開催でも、スーパーラグビー王者のクルセイダーズが不参加という事実が大会の価値を下げている。この顛末は以前もどこかで触れたの多くは書かないが、すこし悪い言い方をすれば、エキシビジョンマッチという現状から本当のチャンピオンシップのような価値のある大会になるには、リーグワン、スーパーラグビー運営母体であるSANZAR、そして日本協会も巻き込み、どこまで各組織が大会の意義を描き、ファンやステークホルダーに提示出来るかにかかっている。

 

スーパーラグビーチームにとって、この時期のゲームの位置づけは明白だ。2月23日(ブルーズは24日)に開幕するスーパーラグビー・パシフィックのウォームアップゲームであり、加えて真夏のオセアニアでの開幕を考えれば、極寒の日本での実戦が果たしてどこまでヴァリューがあるかという疑問もある。

 

実際に、明日サンゴリアスと対戦するブルーズの出場メンバーを見ても、トゥイプロトゥ主将、No8ホスキンス・ソトゥトゥというインタナショナル選手はいるものの、若手ベースの布陣。開幕を前に、新しい戦力にこのチームでの実戦経験を積ませることが主眼と考えていいだろう。ツアーメンバーの中にはオールブラックスの主力メンバーでもあるCTBリーコ・イオアネ、昨秋のワールドカップで活躍したWTBマーク・テレアというスター選手もいるが、コッターHCは「オールブラックスメンバーについては、コンディションを優先させたい」と次週のイーグルス戦も含めて、起用は限定的もしくは投入なしという可能性を示唆している。

 

迎え撃つサンゴリアスも、リーグワン序盤戦を終えた段階で、別大会が挟み込まれたという状況の中で、SH齎藤直人、FB松島幸太朗ら主力の中に若干名の若手、ノンメンバー、リザーブメンバーが混じる布陣を用意している。スーパーラグビー勢にとってもVIP格のチェスリン・コルビ、サム・ケインはメンバー外だ。

 

リーグワンチームを応援するファンにとっては、コルビのようなスーパースター不在のチームを観戦することになり、海外チームに関心のあるファンにとってもコアメンバーの出場は限定的と、すこし訴求力の弱いゲームになる。その影響もあり、チームネームの価値の割にはチケット販売は苦戦しているとも聞く。リーグワンのゲームを見た方が、お目当ての選手のプレーを数多く楽しめるという現実もある。

 

リーグワン誕生前の構想の中では、さすがに明言する関係者はいなかったものの、クロスボーダー大会を日本チーム・サンウルブズのスーパーラグビー除外を補う大会と印象づけるような言い回しもあった。だが現実的に考えると、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの代表クラスのメンバーたちと20試合近いゲームを毎シーズン経験出来たサンウルブズと、リーグワンの上位数チームがスーパーラグビーチームと1、2試合対戦することの違いは明らかだ。加えて、今回のようなスケジュールでのウォームアップゲームでは、各国代表クラスとの実戦経験も十分ではない。

 

個人的には、この日の会見も含めて、コッターHCがどのようなラグビーを見せるのかが関心事だ。日本代表HCに就任したばかりのエディーさんとも接点があるこの指導者は、2015年ワールドカップで、桜のジャージーの初の8強入りという夢を砕いた指揮官だ。

 

 

 

 

南アフリカからの金星から中3日というスケジュールもあり、試合前から日本の形勢不利は明白ではあったが、それ以上に9年前のグロスター・キングスホルムでの一騎打ちは、日本代表がコッターHCと知将グレイグ・レイドローの掌の上で試合をさせられたゲームだったと記憶している。当時のジャパンのパワーハウスだったNo8アマナキ・レレイ・マフィの弱点などもしっかり踏まえた戦術で日本代表の強みを出させない戦い方は、日本中がまだに酔い痴れていた南アフリカからの奇跡が、まだまだ実力ではないことを明確に示したゲームでもあった。

 

昨年のワールドカップイヤーに入ってのフィジー代表HCの電撃辞任、そして急遽就任した知将サイモン・ライワルイHCがチームをフランスで躍動させたことで、相対的に株価を下げたようなコッターHCだが、第1次エディージャパンを封じ込み、スコットランド代表HCとしてトップクラスの勝率を残した手腕は侮れない。

 

確かに、生き馬の目を抜くようなプロラグビーの指導者レースの中では、2大会前のワールドカップでの手腕は、これからの成功につて何の保証にもならない。オールブラックスへとステップアップしたレオン・マクドナルドがブルーズで築き上げたものと同じかそれを上回る成果を残すのも容易な事ではない。だが、もしオークランドのアタッキングチームで、9年前の日本を丸裸にした対戦相手を読み取る力と、チームを1つの方向に向かせるリーダーシップが発揮できれば、興味深い結果も期待できる。

 

もちろん、この日の会見でも、代表チームとクラブの違いはある中で15年当時といまの日本ラグビーの違いを感じたかという質問をした。回答は核心に触れるまでには至らなかったので割愛するが、「15年も翌年の対戦でも、日本代表への警戒は怠らなかった」と語っている。

 

オークランドの宿敵でもあり、不動の強さを誇ってきた〝十字軍〟も、我々の良く知るコーチによる新体制に移行している。期待がある一方で、一寸先はわかならい。ラグビー王国での新たな覇権争いのレースとともに、その先にある、日本代表も含めた国際舞台で再び手腕を振るうためにも、ブルーズでの挑戦に注目したい。