ちょいとした小咄を備忘録代わりに
先日、船橋のチームを訪ねた後に、近くの巨大ショッピングモールへ
残っていた〝宿題〟に手を入れるため
施設内にあるカフェを書斎代わりにという魂胆だ
モールの中はもう、そこいら中クリスマスムードを掻き立てる
客の購買欲をそそろうという雰囲気に包まれていた
その中を歩くと、聞き覚えのあるアルペジオが
オリジナルではなくコピー演奏ではあったが
紛れもなくかのThe Pretendersの名作2000 Milesだ
この曲、ここら(つまりショッピングモールにBGMを提供するような業者)
の認識では、Xmasソングということなのだろう
確かにクリスマスが近づく町のスケッチのような歌詞と
このキリスト教の祝祭日を感じさせるような曲調とも解釈できる
だが、この曲を聞くと、すこし悲しい思いに駆られるのは
Chrissie Hynde率いるこのバンドを愛する人たちには
共通する感情なのではないだろうか
この曲はクリスマスソングであってクリスマスソングではない
2000mile彼方へと旅立った仲間を想う曲だ
1982年6月のことだった
米国アクロン出身のChrissieがUKで結成したこのバンドは
オリジナルメンバーのギタリスト
James Honeyman-Scottをオーバードープで失う
同じくクリッシーとこのユニットを立ち上げたベーシスト
Pete Farndonを解雇した直後の悲劇だった
ちなみにFerdonも83年に薬物の影響で生涯を閉じている
露骨に急逝した仲間を嘆くような曲を書かないのが
Chrissieという女ロッカーならではだ
歌詞を聞けば、遠く離れた愛する人
もしくはサンタクロースへのオマージュのようにも解釈できる
だが、バンドの悲劇を知るファンは
誰しも亡き天才肌のギタリストを思い浮かべる
演奏を観ても、一見、クリスマス・ラブソングを
しみじみと歌っているように見える
だが、この背景を知ると、受け止め方は変わる
この季節の曲を奏でるには似つかわしくない
笑みのほとんどないChrissieの演奏する姿が分かる
感情を押し殺すような表情と魂を込めて歌う姿に
ジャニス亡き後最高のオンナRock’n'Rollerの
豊かな人間性と、仲間への深い愛情が滲む
オリジナルメンバーの〝生き残り〟
ドラマーのMartin Chambersはじめ
新しいメンバーたちの表情も然り
そしてギターのアルペジオとMartinのシンバルが
まるでエターナルな鼓動のように最後まで貫かれる
クリスマスという
誰もが心躍り、晴れやかなマインドになる季節だからこそ
失ったものの喪失感はさらに大きく感じる
だが、亡き盟友の死を悲しみ、溜息をつくだけではなく
このような美しい旋律に替える
これこそ音楽を奏でる、選ばれし者のやるべきことであり才覚だ
そして2人の仲間をほぼ同時に失ったバンドは復活する
なんとも美しく、物悲しい曲
だが、間違いなくChrissieの代表曲の1つであり
Rockの歴史の残る傑作だ
彼女も、いまでも演奏を続けるいわゆる〝十八番〟の曲だが、
それはあたかも亡きJamesのことをいつまでも忘れない
そんな思いに駆られているようにも映る
この数週間、12月25日までの間に
またどこかでこの曲が聞こえるかも知れない
そんなときは、Chrissieとバンドの想い
そして25歳で命を落とした2000mileの遠くにいる男の
ギターリフを思い浮かべることにしよう