ラグビー伝統の一戦

そう呼ばれる早明戦の日。

 

12月第一日曜日

 

こう定められた両校の戦いは、今年で100周年というメモリアルマッチだったが、58―38というスコアで明治が、いわゆる「早明戦」では昨季に続く勝利を挙げて、対抗戦2位も決めた。通算成績は明治の42勝2分け55敗となった。ソウメイ史上最多得点での勝利らしいが、このゲームを観ての感想は「大味なゲーム」。すこし胃もたれ気味で、千駄ヶ谷を後にした。

 

立ち上がりでゲームを支配したのは紫紺のジャージーだった。圧倒までいかなくても接点で1歩、2歩と確実に前に出る。早稲田のFB伊藤大祐主将(桐蔭学園④)は「乗っかられた」という言葉を使ったが、勝者側が僅かだが確実なアドバンテージを掴んだ。終盤のドタバタはあったが、この領域で明治が優位に立ったのは、ゲームの行方を占う上ではかなり重要なポイントだった。

 

スクラムでは、早稲田が予想以上に明治のパックをガッチリと受け止め、相手の押しを許さない。現役時代、アカクロの不動の3番としてスクラムで存在感を見せた山口吉博を父に持ち、帝京戦から1番を掴んだ山口湧太郎(桐蔭学園②)の踏ん張りか。この浪人を経て上井草にやって来た2年生が退場する後半までは、これからの戦いにもポジティブ材料となる奮闘をみせたが、それ以上にフィジカルコンテストのエリアでの差はあったようだ。明治が帝京戦で受けたわずかだが確かな重圧を、今度は早稲田が明治相手に受けた印象だ。

 

この接点のエリアで苦戦を強いられると、挽回するには当然ながらコンタクトゲームを減らす必要がある。伝統の早稲田のラグビーが追求してきた世界。だが、いまのアカクロは、もっとオーソドックスで、流行りのラグビーに則った試合運びを志向する。スクラムや接点でしっかりと相手に重圧をかけた上で、自慢のスピードで勝負するのが2000年代の早稲田のラグビーだが、そのぶん相手をテンポで上回りチャンスを逃さない、したたかで卒のないラグビーは若干薄まっている。

 

この日も、防御で密集戦に人をかけない明治の見切りの良さも相まって、ラックの連続攻撃から十分なテンポアップが出来ない。次の攻撃もがっちりと防御されるからだ。フェーズを重ねると、外に高速展開を仕掛けて一気に仕留めるようなBKラインはどんどん内側へ集まり、相手防御の外側への脅威を減らしている。これだけアタックシェイプを作れずにゲームを進めるワセダも珍しい。最後はキックの選択肢だけが残されるようなシーンが何度も見られた。

 

明治フィフティーンは試合後、後半27分から5トライを奪われた展開を恥じている。SO伊藤耕太郎(國學院栃木④)は「前半の展開(23-3)で気持ちに緩みがでた選手が何人かいた」と素直に認めているが、緩んでもしようがないほどに接点のバトルではワンサイドな展開ではあった。歴代、このようなシチュエーションは何度もあったが、春からフィジカリティー、コンタクトを高めてきた今季の早稲田にとっては痛手だっただろう。前半だけで、犯した反則は明治1に対して早稲田は6。レッドゾーンと呼ばれる敵陣22mライン侵入も明治の6に対して早稲田は3。早稲田が22mラインを初めて超えたのも、明治が初めて反則を犯したのもキックオフから26分のことだった。後半は双方似たような数値にはなったが、80分間のトータルでも明治の反則4に対して早稲田は10、22m内侵入も勝者の12回に対して敗者は8に留まる。

 

そんな展開の中で、この試合で最高のプレーが生まれたのはインジャリータイムの後半41分のことだった。早稲田に3連続トライを奪われ46-38とチームが浮足立つ中で、ゴールを背にして早稲田が作ったラックに、明治のゲーム主将LO山本嶺二郎(京都成章④)が激しく重圧をかけてボールをファンブルさせたところをSH登根大斗(御所実③)が拾い上げてインゴールへ飛び込んだ。

 

チームが動揺に包まれる中でも、山本くんは、イケイケムードの早稲田側に気の緩みがあると判断し、勝負を仕掛けたという。191㎝、111㎏というサイズの中に秘めた洞察力と繊細さが、このド派手なサックを成功させた由縁だろうし、1年からポテンシャルを嘱望され、真剣勝負の経験を積み上げてきた選手ならではの判断だったのだろう。PMO(プレーヤー・オブ・ザ・マッチ)は2トライを挙げたHO松下潤一郎(筑紫④)に譲ったが、この一瞬の判断こそが、早明100周年マッチでの値千金のプレーだった。

 

 

 

 

日曜日で大学各リーグの最終順位が確定したが、すこし残念なのは順位による実力格差が結構明確にありそうなことだ。1位帝京と2位明治、最終的には接戦にはなったが明治と3位早稲田も、前半のコンタクトの差を埋め合わせるのは時間との勝負になる。早稲田以下の筑波、慶應も、トップ3に近づき、上回る進化は随分難しそうだ。選手権での初戦までに残された2週間、3週間の準備で大化けするチームがあるのか。サプライズをすこし心待ちにしながら、選手権の本格的な開幕となる17日の3回戦キックオフを待つことにしよう。

 

すでに伝統の一戦の前日に帝京大が1位を確定していたため、〝消化試合〟という意地悪な形容もされた伝統の一戦は、31915人の観衆がスタンドを埋めた。秩父宮のキャパシティ(2万人)ははるかに超えたことで、なんとか国立開催の意義も残せたが、昨季からは4000人減。着実に集客力は落ちている。

 

 

 

 

だが、それもやむを得ない。

 

代表選手を軸としたファンの関心がリーグワンに移る中で、イングランドのバーシティマッチのような、いまの時代の伝統の一戦の〝居場所〟も作れていない。ここは早明戦を主管する関東協会はもちろんだが、〝管轄外〟の日本協会も、国内ラグビーの中で新しい時代の伝統の一戦にどういうストーリーを持たせるかという挑戦になる。正確にいえば、挑戦になるべきだろう。何故なら、客足が減少してもこのゲームは日本ラグビーの財産に他ならないからだ。100周年という区切りは、この先100年、このカードにどういう価値とファンが共有出来るステイタスを持たせることが出来るかを考えるいい機会だろう。