勝者と敗者の明暗が浮かび上がる巨大スタジアムに、聞き覚えのあるギターリフが響く。そして、すこし人を食ったようなレノンの歌声がこう流れ出した。

 

きっつい1日だったよ

まるで犬のように働いて、

きっつい1日

丸太のように眠れるさ

でも、帰れば君が僕を元気にしてくれる…

 

勝者への主催者からの粋な計らい。

大英帝国最高のバンドによる祝福だ。

戦いは終わった。さぁ愛する人の元へ帰ろう―。

そんなメッセージを選手に投げ掛けるように、マッカートニーのベースラインが体を突き動かす。

 

プレーする側は困憊でも、観る側は充実に満ち溢れたノーサイド。

〝史上最高の消化試合〟と揶揄されるカードを、ここまでA Hard Game Nightにした30人に、77674人の目撃者が惜しみない拍手を降り注いだ。

 

ゲームを引き締めたのは、両チームが誇るハードワーカーだった。

 

最初に魅せたのは、赤薔薇の6番トム・カリー

密集戦で、南米のプーマの群れにがっつりと帝国のジャッカルが嚙みついた。ボールに伸ばした手を見極めて、ニック・ベリーの鋭い笛の音が響く。開始3分の先制PGをお膳立てした。

 

このプレーに触発されたように、プーマの7番マルコス・クレメルが反撃を食らわす。

24分のチーム初スコアは、こちらもブレークダウンでの激しい絡みで奪い獲ったPKから。

30分にはカリー、オープンFLサム・アンダーヒルのダブルタックルを受けたクレメルが頭部から流血すれば、40分にはクレメルがカリーに激しいチャージを食らわせた。

 

80分を通じてのタックル回数はアンダーヒル24回、クレメル18回、イングランドNO8ベン・アール14回、そしてカリーはプレー時間50分ながら11回も突き刺さった。この試合での最多はアンダーヒルに譲ったが、プーマの7番の大会通算タックルは92回。トップ30までの選手に決勝メンバーで入っているのは57回のフランコ・モスタート一人のため、このスタット・フランセのバックローが過去最多のタックル回数で〝タイトル〟を掴むのは間違いない。

 

緊張感に満ちた80分だったが、勝負の行方は前半20分でほぼ固まっていたかも知れない。プール戦の直接対決も含めて、南米の猛獣は序盤戦でスコアできていない。今回も、個々のプレーでは互角にやり合っても、立ち上がりにスコアできない戦況は、決して思い描いたものではなかっただろう。それだけ、イングランドのゲーム運びがステディで手堅かったのだ。エリアゲームを、純白のジャージーにしっかりと支配されていた。

 

でも、勝者が A Hard Day’s Night なら、敗者は Don’t Cry for me Argentina だ。

 

クレメル26歳、才気を輝かせる同じFLのフアン・マルティン=ゴンザレス22歳、175㎝、80㎏のサイズで、日本戦もこの日もパワフルなランを見せ続けたWTBマテオ・カレーラス23歳。4年後のオーストラリアでも大暴れが保証されている才能が脂の乗った世代としてチームを引っ張る。

 

それでも、二コラ・サンチェスの男泣きには、こちらも涙を誘われた。

 

前回の〝銀メダル〟から銅へとステップダウンしたイングランドも、プラチナ級のブロンズメダルを手に入れた。エディー・ジョーンズの失脚から、聖地トゥイッケナムでフィジーに黒星を喫するなど苦難続きだったチームを、スティーブ・ボーズウイックが見事に立て直した。

 

完璧なキックチャージからトライも決めたHOテオ・ダンはこう語っている。

 

「正直なところ、大会前の試合を振り返ると、我々は全く調子がでていなかった。チームとして結束出来ていず、パフォーマンスも不十分だった。2,3か月前に、あなたは銅メダルを獲得して、世界3位になると言われても信じられなかっただろう」

 

当事者の選手もそう語る苦境から、伝統的なストロングスタイルのイングランドラグビーを目指しながらも、トップ4の中でも若手への投資を図りながら勝ち抜いてきた。まさに伝統と革新で挑んだ大会だった。スティーブはすでに、次を見つめている。

 

「焦点は今夜だった。最終戦でプレーするというのは重要なことです。目指した金メダルは手に入らなかったが、最終戦という経験は大事だ。この先に、前へ進む上で重要なものになるだろう」

 

エディー時代からの遺産でもある、素早い上がりのハイプレッシャー・ディフェンスは、この日のアルゼンチンに35分までトライを許さなかった展開でも光った。選手起用を見ても、オーウェン・ファレル、ジョージ・フォードというキックでゲームを組み立てる司令塔にこだわる一方で、アタッキングSOのマーカス・スミスをFBで起用することでダブルSOによる、これからの可能性を示した。この日の終盤には、そこにフォードも投入するトリプル司令塔で、エリアゲームをさらに盤石のものにしてみせた。

 

史上最高のブロンズファイナル。そう呼んでいい80分だった。だが、この祝福された2チームも4年後の地位は何も保障されていない。8強の呪縛に敗れたアイルランド、現体制で捲土重来に挑むフランス、そしてプール戦敗退からの母国開催Vを狙うエディー・ワラビーズと、トップ4の有資格者は闘志を滾らせる。

 

観る側の我々にとっては、今回の驚くべきハイクオリティーの準々決勝、そして今回をさらに越えるようなブロンズファイナルへ、期待を膨らませる4年間になる。