▲偶然で、こんなお宅に一泊したが、オーナーの人

柄もめて今回のフランスで最高クラスの宿だった

 

 

いよいよ本物のワールドカップが始まった。

 

マルセイユではプーマがドラゴンを食ったが、いまのウェールズのパフォーマンスではサプライズではない。ナント決戦の前も、関係者とは「いまのウェールズなら、もし日本がアルゼンチンに勝てば最高の8強突破のチャンス」などと話していたが、そんなゲームになった。パスのないウェールズはドラゴンではない。

 

そして、マルセイユを捨てて選んだサンドニも、素晴らしい死闘を見せてくれた。驚かされたのは、オールブラックスがここまで力を取り戻していたこと。万全の状態のサム・ケインは凄まじい。前半を終えて隣のアイルランドの記者にこう声をかけられた。

 

「どっちが勝つと思う」

 

応えは迷わず。

 

「God Knows」

 

2人で笑ったが、お世辞ではなく「アイルランドに8強の壁をブレークしてほしい」と付け加えて頷き合ったが、37次攻撃の末に悲しい結末が待ち構えていた。

 

地面に突っ伏したバンディも痛ましかったが、勝者でも同じように立ち上がれなかったアーデンの姿が、このゲームの過酷さを物語っていた。そして、ようやく仲間の元へと歩もうとしたバンディに声を掛けたのは、元HCのジョー・シュミットだった。2019年までこのチームに情熱を注ぎ、誰よりも知るコーチは、いま指導する選手たちの歓喜の横で、静かにダブリンの教え子に歩み寄った。

 

これがラグビーだ。

 

 

 

 

試合前練習でも、イアンやスコット・マクラウドがスーツ姿だったのに対して、シュミトさんはジャージ姿で、選手の傍らで指導を続けた。昨シーズンの低迷からのV字回復、そしてアイルランドを仕留めるためには、この人の手腕は欠かせなかっただろう。そして戦い終わった後のシュミットさんが、どんな思いでバンディに寄り添ったのかを思うと、堪らない気持ちになった。

 

試合前のスタンドはエメラルドグリーンが圧倒していた。黒のシャツが目立たないためかとも思ったが、国歌斉唱でそれが誤りだと分かった。なんせ南半球からよりも遥かにイージーに、ライアンエアーでダブリンからひとっ飛びだ。ハカの雄叫びは大歓声に飲み込まれた。

 

 

▲スタジアム周辺はこんな重武装の警官も。こ

の国で起きた過去の出来事を考えればやむなし

 

 

勝因はNZの集散の意識、そしてアイルランドの誤算はセットの苦境。敗者は、2020年から見せた冒険的なワイドアタックを、より手堅い戦術に替えてきたが、その手堅さが凡庸なシェイプになり、チャンスに整わないアタックラインが勝者に余裕を与えた。

 

勝者の次週の相手は、今度は南半球の勢いづく猛獣だが、3チームの中では最も与しやすいのは間違いない。黒衣に追い風が吹き始めたのかも知れない。

 

で、ラグビーのハナシは、また改めて。なので今回の絵日記は、トーナメントに伴うお宿のハナシを。

 

 

▲14日の勝負メシはフランスでのビリヤニ。中身はカレーピラフだけど、何か?

 

 

15日については、勝ち上がりのチームが決まる前にサンドニと決めていた。なので、宿は事前に押さえていたが、14日はやりジャパン次第。変更可能なもあるが、コストパフォーマンス重視で確定後に物色したが、自分の優柔不断さもあり、なかなか適当な宿が見つからない。

 

都は深夜でも公共交通機関が稼働するため、そこまで心配することはないが、やはり午前1時前後の〝帰宅〟を考えるとサンドニ周辺が好ましい。あとはアクセスが楽な何処。「プランA」としては、金、日と泊まるサンドニ商店街先の安宿呼ばわりしたホテルでの直接交渉。チェックインのときのレセプショニストは、以前フランスの日産でも働いていたお兄さんで、非常に協力的だったが、やはりキャンセルはないという。

 

 

▲以前のぶろぐでサンドニの治安が良くなったと書いたが、

のように町ゆく人はほぼ移民系の人たち。なので万人に

お薦とは言えないが、でもこれがフランスのリアルだよね。

 

 

やむなく13日夜に「プランB」に切り替えたが、なかなか快適そうな宿は予約確定目前の注意書きを見て「決定」のクリックを回避した。説明でデポジットを請求してきたからだ。旅慣れた方ならよくあることだろうし、そんな宿は少なくない。だが今回の旅では、トゥールーズで一度デポジットで揉めたこともあり、極力回避したかった。なので、結果的には「プランC」にせざるを得なかった。

 

このプランCの宿、スタッド最寄りのプレネ・スタッド。ドゥ・フランセ駅に停まるパリ北駅-CDG空港を結ぶB線で5駅のオレネー・スー・ボワから徒歩20分ほどにある。準々決勝の土曜の夜に9000円台という安さ。ちなみにスタジアム周辺では10万超えのプライスタグの宿も少なくないのに、だ。

 

 

 

 

この条件だとすこしヤバい宿という憶測もできる。だが、Booking.comの評価は7.7と及第点ながら、コメントは極めて高評価だ。宿と言っても、一軒家の部屋を一室借りる間借りシステム。それでもバス付きとなっている。場所はパリ北駅とCDGの中間なので、だいぶ辺鄙な場所とも推測できる。日本から到着した時にCDGからサンドニへ向かう途中の駅のほとんどは、95%以上の乗降者が移民系だ。深夜の治安がやや気懸りだったが、土曜のキックオフ前に宿まで行って自分の浅はかな先入観をあらためて実感することになった。

 

決してビルが林立するような町ではないが、とにかく落ち着いた、質素だが小綺麗な町。駅前から南へ商店街が続き、宿はその逆側の北側の住宅街にあった。近くにピッツェリアや、試合後の深夜1時でもオープンしているバーはあったが、それ以外は何もない。物騒と思われるほどの人間もいない静かな町だった。

 

 

 

 

停めてある車のほとんがプジョー、ルノー(メルセデスではない)というのは、決してアッパークラスの人たちの生活圏ではないことを物語る。だが、多くの家がこじんまりとはしているが、庭とガレージを持つ戸建てという街並みが生活水準を示している。もちろん午前1時の帰宅も、20分歩いて5人ほどの通行人とすれ違っただけで部屋に戻れた。

 

 

▲泊まった部屋から眺める街並み。パリよりものどかで暮らしやすそうだ

 

 

この間借り部屋を確定するときに懸念材料になったのが、〝帰宅〟が間違いなく午前1時を回ること。一般の民家なので、はたしてこの時間に入れるのか。オーナーを起こすことになるのか。Booking.comを通じて懸念をメッセージで送ったが、何の返信もない。いづれにせよ、深夜の帰宅を考えると、試合前に直接行ってみるのが得策と判断して午後6時前に宿に辿り着いた。

 

カメラ付きの呼び鈴を鳴らすが、スピーカーからの応答はない。「この時間で居ないのか?やはりマズイ宿だったか」。そんな思いが浮かんだ直後に、サンダルの足音が近づいてきた。

 

ドアの向こうにいたのは、小生よりも若干年上と思われるアフリカ系のマダム。片言英語で「今晩予約している方ね?」と迎え入れてくれた。


 

 

▲外扉からのお家へのハサードもこんな感じに行き届いている

 

 

このマダムが、Booking.comでの対応からは想像できない最高にいい人で、「夜中何時でも問題ないわよ。門は鍵を開けておくし、家にもリビングから入って来て」と部屋の鍵を渡してくれた。4、5室ある2階の数部屋を貸してるようで、説明通りバスルームもしっかりついていた。豪華ではないし、ライティングデスクの代わりにPCとノートは置きづらい広さのコーヒーテーブルとパイプ椅子程度の設備だったが、ベッドはどこのアパート、ホテルよりも寝心地のいいもの。庭には10羽ほどの鶏も飼われていた。個人的には駅からの距離が減点なものの今回のフランスで1、2を争ういい宿だった。

 

 

▲こちらはオーナーの生活圏だが、なかなか素敵なリビング

 

 

 

 

▲決して豪華じゃないが、清潔感も素晴らしい部屋はかなり高評価

 

 

マダムは「あなた日本人なの?」と確認すると、「いまカナダで働く娘は日本好きで、日本で働きたいと希望しているの」と話し出した。こちらが「カナダのほうが素敵で住みやすいはずですよ」と返すと、なんと娘に電話をかけて「私英語苦手なんで、直接娘と話してよ」とスマホを突き付けられた。

 

こちらはなるべく早くサンドニに戻りたいのに、計算していた時間を遥かに越えて長居してしまった。カナダで弁護士をしている娘さんは、どうやら本気で日本の外資系企業で働く準備をしているようだったので、「仕事でも、旅行でもいづれにしろ日本に来るようなら連絡して。あなたのママに名刺を渡しておくよ」と電話を切り上げ、決戦の地へと舞い戻った。

 

翌日は再びサンドニの宿に戻るので、トロリーバッグはそちらに預かってもらった。金曜日のチェックアウト時に、お年寄りの従業員に「明日までバッグを置かせてくれ」と相談すると、「泊まらない日はダメ」を言われたが、オーナーのザヒアさんにメッセージを送ると「問題ないわ。彼は状況分からないの。私が午後3時にホテルに行くので、荷物は預かります」と有難い返信をもらった。彼女は、開幕戦前も早い時間から荷物を預かってくれて、13日も同じように従業員不在の早朝に、フロント近くに荷物を置いていいとメッセージをくれるなど柔軟な対応が出来る人だ。合理主義、個人主義で突っ走るフランスでは、「ちゃんとした」ホテルだと、こういう対応は難しいケースが少なくない。実際に、ラ・ロシェルのチェーンホテルはそんな対応だったが、サンドニの家族経営風の宿には、まだまだ義理と人情がある。

 

 

▲宿の近くのお散歩公園もこんなカンジ。日本の公

もこういう散歩道のうねりなど学ぶ点はありそうだ

 

 

▲日曜日の駅前商店街はマルシェにこんな人出で賑わっていた

 

 

▲こちら上手そうな料理が並ぶ総菜屋さん

 

 

▲牡蛎も豊富な品揃えだ

 

 

話はオルネーの町に戻るが、宿からサンドニに戻る前に、この町の商店街でヒルでも済ませてと思ってマップを見ていると、宿の近くにラグビークラブがあるのに気が付いた。時間は十分あるので散歩代わりに寄ってみると、確かにゴールポストのある2面のグラウンドが。

 

 

 

 

 

 

2人のクラブメンバーらしき人がいたので、見てもいいかと聞くと「練習が終わって、試合もないけどいいの?」と歓迎してくれた。どうやら、プライベート・クラブの所有地ではなく、地域の公共スポーツセンターのような施設で、陸上トラックでトレーニングする選手や、その奥にはテニスクラブもあった。ラグビーグラウンドは、日本の社会人に似て天然芝の美しいピッチと隣にハイテク人工芝のグラウンドがあったが、テニスコーチはもちろんクレーだった!

 

駅から徒歩5分ほどのロケーションに、こういう公共総合スポーツ施設があることが、この国のスポーツの奥深さの要因の1つだろう。生憎、話を聞ける人物がいなかったが、このパり郊外の小さなクラブからもレ・ブリュが輩出しているのだろうか。

 

そんな思いに駆られながら、駅前の日曜マルシェを冷やかし、サンドニへ向かった。