〝宿題〟を済ませたので、すこし時差のある取材を書き残しておこう。

 

リーグワンが終盤戦に突入して、全国高校選抜大会は晴れて決勝も実現。桜は盛りを過ぎたら、楕円球は満開だ。その中で27日に訪れたのはTID(Talent Identification)キャンプ。いつまで経ってもわかりづらい名称だが、要はU20代表(候補)合宿。当初は、3度の候補合宿で代表を絞り込んだメンバーでのU20日本代表合宿を予定していたが、最終決定をせずに37人の候補で行われたため、こんな回りくどい名前になってしまった。

 

U20日本代表のストレートな取材とはまた違った狙い(宿題)でお邪魔した合宿だったが、インパクトのあった桜の蕾に話を聞いた。

 

CTB時任凛空

 

凛空=リンクウと読むと何やら大阪湾の人工島か、鎌倉時代の高僧の名前のようだが、この2文字でリクと読む。名前もユニークだが、そのキャリアも若干異色だ。

 

福岡工業大学の1年生で、出身高校は鹿児島県立加治木工業。同じミッドフィールダーには帝京、早稲田、明治と並みいるエリート校の花園組が並ぶ中、母校も昨季、つまり時任くんが卒業した翌年に44年ぶりに花園出場というチーム。凛空くん自身、昨季の大学選手権が全国レベルのデビューだった。熱心な大学ラグビーファンは、ルーキーながら先発の福工大の12番で奮闘した長身選手の姿を記憶に留めているかも知れないが、なかなか全国で存在感を見せられない中で、世代を代表する合宿に参加している。

その一方で、すでに目敏いリーグワンスカウト部隊の数人は、この原石に目を付けているとも聞く。

 

そんな凛空くんに、エリート揃いの合宿の印象を聞いてみた。

 

「花園のスター選手とかがいっぱいいる中で、最初は、どう自分が入れ込めるかなと思っていたんですけど、皆が話しかけてきてくれた。練習中に仲良くなった人とも喋れるようになってきた。コミュニケーションがとれて、徐々に楽しくなってきた感じですね。(福工大は)九州では1位ですけれど、こういう場所はレベルが高くて、自分のレベルの低さに気付いてます。チームに帰って、自分でトレーニングする機会が多くなった気がします」

 

なんとも初々しいコメントだが、練習レベルでもそのプレーには惹き付けるものがある。

184㎝、82㎏というサイズも目を惹くが、そのスラっとしたシェイプを見ると、まだまだ横幅のボリュームは鍛え甲斐がある。福工大でのプレーぶりでもそうだが、積極的に長いパスを使うCTBだが、オフロードのスキルも含めて、スペースにレシーバーを走らせようという意識が高いインサイド。サイズに騙されがちだが、力任せの突破を武器にしたタイプのミッドフィールダーではなく、ボールを、そしてラインを動かすドライバーだ。体幹とを鍛え振り子運動に頼らないパスを身に着ければ、もっと引き締まったバスで仲間のチャンスをさらに作り出せるだろう。

 

もう一つの魅力はロングキック。チームでも1年生でプレースキッカーを務めているようだが、フィールドキックの長さは大きな武器。伊勢丹、サニックス、ワイカト協会などで選手、指導者として実績を残す宮浦成敏監督の下で、先ほど触れたオフロードも含めて、いいスキルを身に着けていると確信するが、彼のような好素材をU20日本代表(候補)という環境に置くことこそが、野澤ゴリくんの「Bigman & Fastman Camp」が示すように、他のチーム競技以上に各地に原石が埋もれているラグビーでは重要だ。

 

そんな凛空くんに、さらにU20での取り組みを聞いてみた。

 

「自分ではハンドリングのスキルがあると思ってましたが、ここきたらまだまだで、ハンドリングスキル、フィットネスなど全体的に、いろいろな細かなところから、大きなところまでトレーニングするようになりました。チーム(福工大)とは違って、ここでは(攻撃)ラインの深さも保ちながら、大学選手権でみせた自分のプレーをどううまく見せていけるかを考えながらやっています」

 

こんな話を聞くと、すでに合宿も今回で3回(第2回候補合宿は不参加)をこなす中で、エリート連中に喰いついていくだけではなく、自分がどんなプレーを意識していくかという独自性も考え始めているという期待を感じさせる。福工大でのプレーや、今回の練習を見る中で感じさせたボールを動かすプレーヤーとして、SOでのプレーについても聞いてみた。

 

「そうですね。SOも出来ますけど、結構豊富な人がいるので」

 

こんな控えめに話す凛空くんですが、小学校1年からラグビーを始めて高校3年生までは10番でプレーしてきたことも踏まえれば、NZ流に考えればファースト・ファイブエイスとして育てていくべき選手なのでしょう。10番・12番論争は、彼に12番をやらせた元CTBの宮浦監督にも話を聞いてみたいものです。

 

練習後に話を聞いて、もう1つ感心したのは福工大に進路を選んだ理由でした。

 

サイズ、スキルを見て感じさせられたのは、高校時代に全国区ではなくても関東、関西の大学からも声がかかったのではないかという疑問。凛空くん、こんなことを話しています。

 

「関東からも声を掛けてもらいましたが、高校の監督だった舗装三先生からは、関東では通用しない、九州の強くて試合に出られる大学で活躍して、皆から見てもらえる所でプレーしたほうがいいと言われたんです。それで福工大に決めたんです」

 

加治木工の細樅勇二監督は、若狭東を7-0で凌いだ昨季花園1回戦の後もわずかな時間だが話を聞いたが、初出場に等しい選手たちの頑張りを労う話ぶりから実直なコーチという印象を受けた。その指導者が、こんな原石もしっかりと磨いていたことに感謝の思いしかない。

 

 

まだ最終メンバーは決まっていないが、ここまでの福工大レギュラー入り→大学選手権デビュー→U20代表候補入りという流れを見れば、恩師のアドバイスが見事にジャストミートしているのがわかる。凛空くんが話を続ける。

 

「大学に入って細樅先生と話したら『(関東でも)通用するのはわかっていたが、(入学してから)最初の試合に出るまでの間に練習で怪我をする選手も多い。だから最初から試合に出て、経験が出来る福工大に行かせた』といわれました。なので、監督には一番感謝しています。尊敬できる人です。高校時代も1年の最初の大会から、まだ全然体も細かったけれど使ってもらって、どんどん経験をしていけた。高校で体重も20㎏くらい増えて、監督のおかげで技術面、メンタル面でもラグビーに向き合えた3年間でした」

 

可能性を秘めた素材がいて、その可能性を見出し、未来のために何がベストかを真摯に考える指導者との出会いが、原石をU20代表候補まで引き上げた。

福工大・宮浦監督はもちろん、今季からユースジャパンの指揮を執るロブ・ペニー、そして今は何も保証されてはいないが、彼自身が勝ち獲れば掴むことが出来る、数年後にはラグビーチャンピオンシップや6か国対抗で暴れまくるであろう海の向こうのエリート予備軍たちとの凌ぎ合い、そんな出会いが薩摩の原石をどこまで輝かせるのか。

 

時任凛空という可能性と、彼を待ち受ける新しい出会いには期待しかない。